魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

side カルマン ~合流~

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 ガルド大陸南東に位置するキルクの森を超えた先の平原に俺は来ていた。


「チッ… 暑いな… 逃げる際に竜車でもひとつパクれればよかったんだがな」


 独り言が出てしまうのも無理のない暑さだ。

 この世界には主な移動手段として馬車と竜車がある。

 馬車が主流で出回ってはいるが、俺達みたいな体の大きな種族が乗るにはちと難があって、俺らギガント種は移動の際、大型の竜車を使っている。

 ガルディア都市にもちゃんと竜車を扱ってる所はあるわけだが、あの非常時に行けるわけもなく、この暑い日差しの中、俺は走っているというわけだ。


「邪魔だ、失せろ!!」

「ギャオォオオ…」


 ありったけの力を右腕に込め、前からやってくるウルフベアーの顔面を思いっきり殴りつける。

 ウルフベアーはその一撃で吹き飛び、大きな岩に体を打ち付けた。


「わらわらと… 急いでるって言ってんだがな」


 ウルフの群れがカルマンの周囲を獲物を狙うように取り囲む。

 数は… 

 チッ… めんどくせえな多すぎんだろ…

 およそ20匹前後の魔物がいる。
 おそらくキルクの森からつけてきていたんだろうな、これ。


 じりじりと迫ってくる魔物に、足を止め、フンと鼻息をひとつ、手を広げ挑発する。


「来いよ! わんころ!!」

「「「ギャウワウ!!!」」」


 一斉に俺めがけて、いろんな所から牙をむき出しにしたウルフが飛び掛かってくる。

 射程範囲に入ったな。


「アースインパクトォオオ!!」


 拳を地面に叩きつけると同時に、魔法が発動、俺の周囲2mの地面が隆起し、飛び掛かってくるウルフの体を吹き飛ばす。

 いくつかのウルフを巻き込むことに成功したか。

 魔物も決して馬鹿ではない。

 先ほどの攻撃を脅威とみなし、うかつには攻めてはこず、うなりを上げ、展開する。


 まっ、二度目は決まらないだろうな…

 なら…

 こっちから行くまでだ。


 ギガントの一歩はただの一歩とは大きく違う。

 ギガントの一歩はヒューマンの5歩と同じだ。

 巨体ながらもその動きは素早く、あっという間に離れていたウルフの目前まで迫る。


「!?」


 これにはさすがに驚いただろう、なんせ大型の物ほど動きが遅いのはよく知られているからな。


「ギャウ!!」


 近くにいたウルフを殴り飛ばし、さらに次のウルフのもとへ走る。

 俊足と恐れられるウルフだが、カルマンのスピードはそれを遥かに超え、あっさりと逃げるウルフに追いつき一撃を食らわす。


「ま、こんなもんだろ」


 どっかりと岩の上に座り、休憩をする。
 おおよそ俺を狙って追ってきたであろう魔物は一通り片付け、腰にぶら下げた小さな樽を開け、中の酒を飲む。


「っはー! 青空の下で飲むのも悪くないってもんだぜ」


 上を見上げればさんさんと太陽が辺りを照らし、雲一つない空は青々と晴れ渡っていた。

 そして前から歩いてくる男に目を向ける。


「誰かと思って来てみればお前か、カルマン」

「よお、勇者召喚の時以来だな、キール」


 青髪のウルフのような髪、腰には刀を下げ、異世界人が作ったとされるワフクに身を包んだヒューマンの男、第7部隊隊長キール。


「いったいこんなとこまで何の用だカルマン、ただ酒を飲みに来たわけでもないんだろう?」


 キールは怪訝な顔で聞いてくる。


「ん、ああ、そうだ、その前にお前も一杯飲むか?」

「止めておく、今禁酒中でな」

「はぁ!?あの酒好きのお前がか!?」

「子供が生まれたんだよ、最近な、その為に禁酒だ」


 キールは懐から異世界人が作ったとされるキセルを取り出し、火をつけると口に銜え、フゥと煙を口から吐き出す。


「そいつはいいのかよ?体に悪いんだろ?」

「ああ、妻の前では吸わないようにしているさ、コイツだけは止められなくてな」


 キセルを銜えながらキールは話す。


「そうかよ、お前も父親… ねぇ」

「フン、おい、話題がそれてるぞ、ここに何しに来たって言うんだ」


 不機嫌な顔でキールは聞いてくる。


「今騎士団は実質解散したも同然になってる」

「はぁ!?いったい何があったんだよ」

「それはな…」


 キールにこれまで起きたあらましを説明する。
 トロンが殺され、国王が殺され、アリアが狙われる。

 そして、アルバラン=シュタインが都市を手中に収めた事を。


「マジかよ、それを知らされていないのは俺とストライフとアルフレアか?あいつらも郊外任務中だからな」

「アルフレアは死んだ」

「嘘だろ!? おい!」

「郊外任務中のはずのアルフレアが戻ってきていてな、恐らく俺らを陥れる為だったんだろう、カナリアが相手をした」

「 …キツイ話だなそりゃ… あいつらはたしか親友同士みたいなもんだったんだろ?」


 煙を吐き出し、頭を抱えるキール。


「ああ、アルフレアにも事情があったんだろ、あの場所には嫌な視線を感じてた、おそらく監視でもされてたはずだ」

「そうか、ということは知らないのはストライフだけか」

「ああ、だがここからストライフの居る村まではだいぶ距離がある、それにだ、トリシア団長が言うにはアルバランが次の一手を打つとすればおそらくガルド大陸の周辺の村の併合だ」


 持ってきていたガルド大陸の地図を広げ、キールに見せる。


「おいおい、ここも戦火に包まれるのかよ」

「ああ、そうだ、だから急いだほうがいい、皆を集めて、移動するんだ」

「クソッ、子供が生まれたばかりだというのに…」

「おそらくアルバランは村に兵力と食料等を要求する、拒めば確実に殺されるとトリシア団長も言っていた」

「ああ、奴ならやりかねないな、わかった、俺が皆に話をつける、お前も一緒に来てくれ」

「ああ」


 キールが任務を受けていた村はほとんど目と鼻の先だった。

 しばらく走り、村の門をくぐり、真っ先にこの村の村長の家へと赴いた。


「失礼する!!」

「どうしたというんだキール、そんなに慌てて」


 木造の家の中にいたのは齢50歳程の白髪の男性。

 玄関が小さくて入ることのできない俺は仕方なく壁に寄りかかり、中の話を聞くことにした。

 これだからヒューマンの家は小さくて困る…


「師匠、今すぐ皆を集めて聞いてほしい事があります。まもなくここは戦火に包まれる、皆を率いて逃げるんです」

「その雰囲気、嘘ではないようだな、よかろう皆を集めてくる、広い場所で待っておれ」


 家から飛び出した白髪の男性はちらりと俺を見た後、他の家々を回って行った。

 家からキールも出てくる。


「随分話が分かる爺さんだな」

「ああ、師匠は異世界人だ、こういった知識を俺にも教えてくれてな、こういうのは後手に回ったら手遅れになるんだ」

「なるほどな」

「正直助かった、お前が来てくれなきゃ都市の情報もわからないまま、殺されていたかも知れねえ」

「いいってことよ、俺も不甲斐ない事しかできてねぇんだ」


 あの時の自分を思い出し、なんとも情けない姿を晒した事を憤る。

 何も気づかなかった俺は本当に馬鹿じゃねぇか…

 アルフレアの裏切りも、情けなく助けられたドルイドとの戦いも…

 何一つ俺は成し遂げてないだろうが!!


「お前も吸うか? 少しは気分が落ち着く」


 懐からキールはキセルを取り出し勧める。


「俺はいらん」

「そうか、だがよ、あんまり過去を気にしすぎるなよ、終わったものはどうこうできねぇ、変えるのは今なんだよ、今どうするかお前はわかっているんじゃないのか?」


 キセルを銜え、フゥと煙を吐き出す。

 妙に様になってる姿に笑えてくる。


「ッハハ!!、お前に説教されなくてもわかってる」

「なんで笑うんだよ、いいこと言ったってのに」

「柄じゃないんだよ、そういうのはアリアが言うもんだろ」

「クハハ、たしかにな言いそうだ」


一番騎士らしいのはアリアだからな…


「真面目な奴だからな、今も誰かを助けようと走り回ってるはずだ」

「違いない、アリアは無事だったんだよな?」

「そうだ、アリアは今どこかで身を隠しているらしい、詳しくはわからないがトリシア団長が言うには大丈夫だと」

「そうか、トロンやアルフレアの死は無駄じゃないって事を俺たちが証明しないとな」

「ああ、守ってこその騎士だ、この村の人達も戦火に飲まれないよう俺達が守らないとな」


 俺達は人々が集まっていく広場に足を運びながら、固く胸に誓うのであった。

 たとえ自分を犠牲にしてでも守りたいものを守ると。



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