魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

side カナリア=ファンネル ~逃走~

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 ~ガルディア都市南区~

 さっきのことが嘘のように足は軽く、ただ頭の中はごちゃごちゃで未だに整理ができないでいる。

 間違いなくあの瞬間私は死んだと思ってしまった。
 それだけ決定的な差があった。

 あの力は何!? 誰か教えてよ!!

 そう叫びたくて仕方なかった。

 隣を走るトリシアさんの表情は鉄製のヘルムに覆われているためわからない。そして、さっきから一言も発していないのは何かわけがあるの?

 ただ、あの瞬間トリシアさんも感じたはず、あの絶対的な力の差を……
 あの力は常人が扱える域を大きく超えている。


 私達が走る目的はただ一つ、未だに戦っているカルマンの救出及び、このガルディア都市からの脱出。


 後ろを振り返り見ると遠くのほうで激しい音が聞こえてくる。
 テオさんはどういうわけか私達を助けてくれたみたいだけど、元凶がアルバランだってのはわかったわ!
 テオさんがアルバランを食い止めているうちになんとかしないと!!

 強化魔法を使い加速して走っているが、全然安心できないのはさっきの空間魔法のせいだ。
 どこにいてもあの魔法があれば瞬時に移動される。

 あれはきっと距離の概念を0にする魔法に違いないわ……

 よく自分の手をみると微かに震えている。
 未だに感じるこの感情が恐怖なのね……

 今まで怖いと思ったことなんてなかった、憎かったのは大好きだった姉さんを奪ったこの戦争だけ。

 だから私はもう失わないために力をつけたというのに、あの一瞬で私の今までの努力は崩壊した。
 あんな化け物に勝てるわけないじゃない…


 しばらく走るとようやくカルマンと別れた場所まで戻ってこれた。

 そこには目を疑うような光景が広がっていた。

 付近の壁や地面はその戦いの激しさを物語っていて、崩落し、瓦礫の山の上でドルイドとカルマンの戦いは続いていた。
 カルマンは血だらけになりながらも、攻めることは止めず、絶えず攻撃を繰り出していく。
 対してドルイドはまるで踊るようにしなやかに攻撃を躱し、そのドルイドの表情はまだまだ余裕が見て取れた。
 どう見ても劣勢、すぐさまカルマンに標準を合わせ回復魔法を飛ばす。


「ハイヒール!!」


 狙いすましたように白い光はカルマンに当たり、傷を回復させていく。


「っつ…カナリアか、すまねぇ」

「そんなことは後でいいわ!カルマン!ここから逃げるわよ!」

「なるほど、どうやらテオさんは裏切ったみたいですね」


 血が付いているレイピアの切っ先を振り、血を落としたドルイドが肩を落として答えた。


「予定通りだったわけね、やはり最初から…」


 もう起こってしまったことを後悔しても意味はない。
 わかっているけど…


「まだ、やるのか?」


 隣からさっきまでの雰囲気とは違うトリシアさんが怒気を含んだ声で尋ねる。
 トリシアさんとは長い付き合いだったが、こんなに怒っているトリシアさんを見るのは初めてだった。


「そんなに威圧しないでくださいよ、計画は次に移行しました。私の役目は果たせたので戻らせていただきますよ、さすがに騎士団長相手では分が悪すぎる、それに本来足止めするのは私の役目じゃないのでね…」


 なんて嫌な笑みを浮かべる人なの…

 何物をもあざ笑うかのようなその笑みは、そこはかとない不快感を残していた。

 ドルイドはクルリと私たちに背を向け去っていく。


「無様な姿を晒した、すみません、そしてありがとうございますトリシア騎士団長」

「気にするな、とりあえず一旦この都市から脱出するため、一番ここから近い東門に向かうぞ」

「「はい!」」


 街は騒然としているが、暴動と化することはないのが幸いだった。
 騎士団の引継ぎはちゃんと行われていたらしく、住民たちは安全な所へ誘導されているみたい。

 そんな光景を横目で見ながら私達は東門へと急いで向かった。



 東門へは比較的早くつくことが出来た。城門は大きくこの喧噪で門を管理するのも一苦労だといえる。
 そしてそこには見慣れた騎士がその城門を警護しているのが見えた。


「アルフレア!?!探したのよ!ここの警護担当なの?」


 見慣れた騎士というのは、私の親友の赤髪のギガントの女性、アルフレア。
 彼女なら、私たちと一緒に逃げることができる。ずっと警護の時もアルフレアのことは心配で探していたのだけど全然見つからなかった。


「待ちなさい!カナリア!!」


 突然隣にいたトリシアさんが大きな声で私がアルフレアに近づくのを制する。

 どうして?アルフレアは仲間じゃない!

 アルフレアのほうを見ると悲痛な顔で武器を構えだす。

 え、嘘… だよね、 

 アルフレアの武器は身の丈にまで大きな斧、それが私達に向けられる。


「嘘よ!!アルフレアは違う!一緒に過ごしてきた仲間じゃない!!」

「アルフレア、君が本当は情報を流していたんだろ?」

「……」


 違う!違う!違う!!!!
 嘘よ!嘘だと言って!!

 冗談はよしてよ…


「そうだ」


 そん…な…

 どうして…

 私は立っていることができず思わずへたり込んでしまった。


「カナリア大丈夫か!!てめえ、それ本気で言ってんのか!!」

「ああ、情報を流してたのはアタシだよ!気づかなかったお前たちが悪い」


 聞きたくなかった、親友だと思っていたのに…
 思わず目から涙が溢れる、今まで楽しかった事は嘘だったというの…
 親友だと思っていたのは…私だけ…


「カナリアが今どんな気持ちでここにいるかわかってんのか!!お前を心配して探し回っていたんだぞ!!」

「私も君を家族の一員として扱っていたんだけどな…」


 カルマンは怒気を隠せず声を荒げ、トリシアさんは悲痛な声を漏らす。


「そんなことはどうでもいい!!お前たちをここで足止めするのがアタシの役目なんだ!」


 どうでもいい?どうでもいいって何、私はどうでもいい存在なんかじゃない!

 私は弱いままでいるのはもう辞めたんだ!

 アルフレア、私は本当に親友だと思っていたよ、でもね、…勘違いだったみたいだね…


 涙を拭い、立ち上がる。
 今はここで立ち止まるわけにはいかない。


「カルマン、トリシアさん、先に門の外で待っていて貰えますか、私はけじめをつけなきゃならないから…」

「カナリア…」

「…いいのかよ」

「心配してくれてありがとう、でももう大丈夫、お願い先に行って」

『キルクの森で待つ』

 受け取ったシーレスでのメッセージ、どうやら電波妨害はもう無くなったみたいね。


「アタシがそう簡単に逃がすと…」

「ランスファイア!」

「クッ!?」

 放たれた槍状の炎はアルフレアの大きな斧によって防がれた。


「どこを見ているの? よそ見できると思ってる?」


 その隙にトリシアさんとカルマンは門を潜り抜けて行く。
 これでいい、これでようやく落ち着いて戦える。


「アルフレア、答えなさい!なぜ私たちを裏切った!!」

「答えるつもりはない!」


 アルフレアはその大きな斧を軽々と持ち、私に向かい駆け出していく。





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