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第一章 ガルディア都市
side カナリア=ファンネル ~団長VS団長~
しおりを挟む「一体何が起こってるというの!?」
それは第一部隊の隊長であるアリア=シュタインが国王に致命傷となる一撃を加えた後であった。
周囲は悲鳴と怒号が飛び交い騒然としていた。
あの姿は間違いなくアリアだった、だけどアリアはあーゆーことをするような奴じゃないのは同期として一緒に二年間訓練してきたことでわかりきっている。
なら、あれは一体誰だというの? あんな高等な変身魔法なんていままで見たことがない!
「カナリア!! これは一体何が起こってるんだ!!」
いつもと違った焦った様子のカルマンが慌てて駆けてきた。
「私にもわからないわ!! ただ見た様子でわかるのはアリアが国王の命を奪ったということだけよ!!」
「あいつはそんなことするような奴じゃねぇ!!!」
「そんなこと私もわかっているわよ!!!」
「ならいったいこれはなんだって言うんだ!!」
「トロンの時と同じよ!アリアも罠に嵌められているんだわ! おそらく本物のアリアはどこかにいるはずよ!」
「ここにいたかお前達!!」
「「トリシア騎士団長!」」
二人で言い合っているところに騎士団長であるトリシア=カスタールが完全武装の姿で走ってきた。
「アリアを見かけていないか!?」
「トリシアさんもあれはアリアじゃないと言い切れるんですね」
「当たり前だ、仮にもアリアは私の直属の部下だった者だぞ、あいつの性格も熟知している! あんなことをするような奴じゃない!!」
周囲に拡声器のマジックアイテムのノイズと大きな声が周囲に響き渡る。
「全ての騎士に命令する! アリア=シュタインを見つけ次第処刑しろ!! これは国家転覆罪だ!!」
この声はたしかアリアの父であるアルバラン=シュタインか、しかし実の息子をためらいなく処刑にする決断は少々過剰すぎる。
「落ち着いてくれ! ガルディアの民よ!」
トリシアさんが混乱する人々をまとめ上げ、的確に他の騎士に指示を出していく。
人々は動揺し混乱のさなかであったが、安全なほうにうまく誘導できているみたいだ。
「おいおいおい!! まずいぞ! 本格的にアリアが殺される! 見ろ! ガルディアンナイトのテオが完全武装で南に駆けていったぞ!!」
「南!? 南にいるのね!!」
なぜテオさんは迷わず南に向かえた? あの舞台から逃げたとしたら一番近い門は東の方のはず……
テオさんはあらかじめ場所を知っていた!?
このシナリオも仕組まれていた可能性が高いわ!!
「カルマン!! 南に急いで向かうわよ! アリアじゃテオさんには勝てない!!」
「ああ、アリアの師匠はテオだと聞いていたからな、急ぐぞ!!」
直ぐに身を翻し、南の路地に向かおうとするが、その道を塞ぐように一人の男が現れた。
「どこへ行こうというのですか?」
「お前は……」
茶色の長い髪をかき分け、にこやかな笑みを浮かべる色の白いエルフ、セーブザガーディアン商業統括、ドルイド=アンダーソン。
「なんでてめぇがここにいるんだよ!!」
「この事件はいわばブレインガーディアン全体の失態、私の経営するセーブザガーディアンに管理が移行するのは当然のこと、ここの指揮権はアルバラン様より私が預かることになっているのですよ」
「これも全部仕組まれているっていうのかよ! 邪魔だ!! そこをどけ!!」
「困りますね、私の指揮下についたということは私の言うことに従ってもらわねば困ります。大人しく持ち場に戻りなさい」
「痛い目見ねぇと気が済まねぇのかよ」
「私を商業中心の部隊だといって甘く見てると痛い目を見るのはそちらになりますよ」
ドルイドは懐からレイピアを抜き構え、魔法を唱える。
「ハイスピーダー、ハイコンセントレイト」
ドルイドに白い光が集まり体の強化が完了する。
「おい、カナリア!! 俺はこいつの相手をする。先に向かってくれ!!」
「わかったわ!!」
「私も共に向かおう」
「トリシア騎士団長……」
「もう私の家族を失いたくないのでな、現場の指揮は他のものに任せて引き継いできた! 行くぞカナリア!!」
「はい!!」
「「ハイスピーダー!!」」
カルマンを残し、強化魔法をかけ、南の商業区の路地へ駆ける。
「恐らくアリアもこの光景は見せられているはず! だとしたらそんなに離れた位置にいないはずだ!!」
「間に合いますかね…」
それはトロンのことがあってからの不安。
また大切な友人を亡くしてしまう恐怖。
そして狙われているとわかっていたのにもかかわらず伝えられなかった私自身に向けての怒り。
それらが混ざり合った故の言葉。
「間に合うさ!間に合わせて見せる!アリアはそう簡単にやられるような奴じゃない!!」
路地をひたすら駆け抜け、大きな爆発音のするほうへ向かう。
「あそこだ!!」
少し開けた場所に出るとアリアは血濡れで地面に転がり、肩を押さえ叫んでいた。
「ぐあああああああああああ!!!」
「終わりだ、アリア」
この距離なら届く!!間に合って!!
私が駆けると同時にトリシアさんもアリアの前に割って入る。
「させませんよ!!」
私の一番回復量の多い魔法を紡ぐ。
「グレーターヒール!!」
直後、アリアの体を白い光が包み込む、どうやら一命はとりとめたようだ。
「お前たちは…」
トリシアさんは背中から大きなハルバードを引き抜き構える。
「アリアに死なれるわけにはいかない!!」
やはりテオさんは最初から居場所を知っていた。
「やはり仕組まれていたとしか言えませんわ」
「トリ…… シア…… さん、カナリア……」
まだ回復が万全に行きわたっていないが大きな傷はこれで塞いだ。
回復魔法は上級魔法になればなるほど魔力を多く消費する。
万全を期す為にもう一度グレーターヒールを唱えたいが、魔力がもう少し待たないと使えない。
なんともこの非常時に歯がゆいものだろうか。
「すまない、遅くなってしまった」
「カルマンが必死に足止めをしてるうちにアリアはここから逃げなさい!!」
腕を無くし一時的に放心状態になっているアリアを叱責する。今はなるべく遠くに逃げるべきだ。
ただ、アリアがこんな状態になってしまったのには私にも責任がある。
悔しい!
これじゃあ敵の思うツボじゃない!!
「トロンも殺された、次に狙われるのはアリアだってわかっていたはずなのに!」
そう、わかっていたはずだ、アリアはこの日までに2回襲撃にあっている。
私がもっと早く行動するべきだった。
騎士団内に内通者がいることを!!
「カナリア…」
そんな絶望に染まったような顔をしないで頂戴、あなたを助けるためにトリシアさんもカルマンも私も集まったのよ。
「言ったでしょ、アンタは一人じゃないって!いいから早く逃げなさい!!」
「……っつ すまない……」
アリアは右肩を押さえ、南に走っていった。
ガルディアンナイトの団長であり、この大陸では1番強いとされるテオさんに私達がどれだけ時間を稼げるか、それが問題だわ。
「カナリア! 君は回復魔法を使ったばかりだ、サポートをしてくれ、私がテオの相手をする!!」
「わかりました!」
二人は武器を構えながら隙を伺っている。
これが強者同士の戦いなのだろう、空気が重く、呼吸がし辛い。
ただサポートする身として全力でバックアップしないと!
「ハイオーバーパワー、ハイディフェンダー」
トリシアさんに今できる最大の強化魔法をかける。
これ以上は私は何もできないだろう。攻撃の余波をもらわないようにだけ距離を取る。
「らぁああああああ!!!」
「ぅおおおおおおお!!!」
鋭い突きと斬撃の応酬が繰り広げられる。
これが団長同士の戦い……
辺りの建物には斬撃と突きの衝撃波で抉れる様に削られていく。
「フッ!!」
「ぬっ!?」
バク転で攻撃を回避したトリシアさんは直後空高く跳躍し、テオさんの居た位置に急降下する。
地面は大きく抉れ、破片が辺りに飛び散る。
「外したか」
直後鎖鎌がトリシアさんに向けて飛ぶが、難なく左に避けたトリシアさんは低い体勢のまま、爆発的な瞬発力でテオさんに迫る。
テオさんは武器をナックルに持ち替えたようでトリシアさんの鋭い突きの嵐を捌ききっている。
だが、圧倒的にトリシアさんのほうが押している様子。
テオさんは若干だが顔を歪めている。どうやらアリアに貰った一撃は確実にテオさんに効いていたみたい。
「ボルトエレメント!!」
どうやら魔法のインターバルが回復したみたいねやっかいな…
テオさんの体が紫電を纏い始める。
「龍撃」
トリシアさんの魔力の質が変わった!?これは…一体…
「やはり、お前はドラゴニア族の秘術を使える者か」
「隠しておきたかったけどそうも言ってられないみたいだからね」
ドラゴニア族の秘術!? 初めて聞くものばかりで理解が追い付かないわ!!
「龍を屠るその技術、さしずめお前は龍騎士といったところか」
「ずいぶんと博識なんだな、どこで聞いたんだ?」
「……」
「答えられないか…」
2人とも武器を構え直し、再び激突する。
激しい剣戟が繰り広げられる。
振り下ろした雷撃を纏わせた斧を半身で躱し、壁を蹴り、ハルバードを頭上に振り下ろす。
「ぐぅうう!!」
「はぁあああああ!!!」
咄嗟に引き出した長剣を盾代わりに構えるとそこにハルバードの重い一撃が振り下ろされた。
ドズン!!!という大地が割れる音と共にテオの両足が地面にのめり込む。
なんて重い一撃なの!? あの強大な力のテオさんを地面に縫い付けるなんて!?
クルリと身を回転させ、テオさんの長剣を足場にして跳躍し、高く舞い上がる。
そのまま回転を加え急降下する。
まるでそれは空中からの爆撃のよう、一筋の神の一撃。
「ハイディフェンダー!!」
テオさんは魔法を叫び、盾を構え迎撃の構えを取るが、あれはもはやそれだけでは防ぎようがない…
直後凄まじい破壊の衝撃がテオに直撃する。
巨大なクレーターはその威力を物語ってはいたが、テオは膝をついて荒く息をしているに留まっていた。
なんてタフなの!?
次元が、次元が違いすぎる……
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