31 / 104
第一章 ガルディア都市
side セレス=シュタイン ~お出かけ2~
しおりを挟む
雑貨屋を出るとパトラに案内され大通りから少し外れた路地の中に来ていた。
「こんなところにお店なんてあるの?」
「ふふふ、隠れた名店っていうのはこういった場所にあるんだよ~セレス~」
大通りは人で溢れかえっていたが一歩路地に入り込むと人はまばらになる。
ここは日陰にもなっていて路地を吹き抜ける風がひんやりとしていて気持ちがいい。
「あったあった、ここだよ。 結構混んでるっぽいけどそれなりに空いてそうだよ」
看板が立てかけてありこの飲食店はどうやら地下に入っているようで、大理石の階段をゆっくり降りていく。
「トラジオンかぁ」
入り口に書いてあった『トラジオン』と書かれた文字を見るとどうやらこの洋食店の名前らしい。
看板には今日のおすすめメニューがいくつか書いてあり、可愛いイラストも女性受けするポイントなんだなとパトラと二人で店内に入らずしばらく眺めてしまいました。
「さ、入ろっか! もうお腹ペコペコだよ~」
煙筒からは洋食店特有のいい匂いが漂ってきて食欲を刺激する。
おしゃれなドアを開け、店内に入るとコーヒーの香りが漂ってきた。 どうやらこの『トラジオン』という洋食店は昼間は喫茶店をやっているらしく、多くのお客さんがランチと一緒にコーヒーを頼んでいる。
「いらっしゃいませ! 二名様ですか? 空いているお席にどうぞ!」
エルフの女性店員さんが対応してくれて奥にある窓側の席にパトラと向かい合って座る。
「パトラはよくこういうおしゃれなお店を見つけてくるのが上手いけどいつも自分で見つけてるの?」
「今回はたまたま第四部隊の友達が見つけたらしくてね、なんでもここのオムライスとコーヒーが絶品らしいよ」
「へぇ…… パトラはまだ食べたことがないんだ?」
「そう! 今日が来るのが初めてで楽しみにしてたんだぁ」
パトラは無邪気に笑い、とても楽しみにしてたことが表情でもわかる。 今でも次々と他のテーブルに運ばれてくる料理を興味深そうに眺めている。
テーブルに目を落とすと今日のオススメメニューと書かれている紙がある。 なるほどこの種類の多さはパトラを悩ませるのも納得できてしまうね。
「セレスは何にする?」
「うーん…… じゃあこの季節のオムライスにしようかな」
メニューの一番上にでかでかと書かれていたオススメメニューである季節のオムライスを頼んだ。
「おー、セレスはそれにするんだね…… 私は…… これにしよう! シンプルなオムライス やっぱり基本のものからいっておくべきかなーって思ってね」
そのシンプルなオムライスはさっき書いてあった季節のオムライスの一つ下に書かれており、これもまた大きな字でオススメ!!と書かれている。
店員さんを呼び、注文を終えるとパトラがこっそりと話しかけてきた。
「ここの制服可愛いと思わない?」
パトラがいつにもなく真剣な表情で話しかけるもんだから少し身構えちゃったじゃない!
そしてそんなに熱心にエルフの女性店員を見なくても……
たしかに騎士団で支給されている服や鎧は機能性重視な部分もあってそこまで可愛いとは言えないのはよく知っている。
こうやって見るとパトラも十七歳のちゃんとした女の子なんだなぁ。
私? 私は騎士団に入る時に主席の得点でオリジナルの服を作ってもらっている。
この騎士団は成績がトップだとオリジナルの制服をオーダーメイドで作ってくれるらしく、また隊長になると新しいオリジナルの服を作ってもらえるのだそうだ。
なんでも意識改革の一環だそうで、上の隊長や成績トップの人の格好を見て、憧れる人も多く、努力をすれば自分もオリジナルの服を作ってもらえるという向上心に繋がるらしい……
「私も騎士じゃなかったらこういった制服の可愛いところで働きたかったなぁ」
「となるとパトラは頑張って隊長にならないとね」
「うぅーん…… かなり無理そう……」
隊長になるためにはそれなりの実技の腕と隊長格からの推薦及び隊長の投票数で決定される。
兄様は2年前に隊長格になったばかりですが、騎士団長トリシア=カスタール様直々の推薦であり、実力も申し分なかったため晴れて隊長となったのです!
「でも頑張らないとなぁ…… お兄ちゃんの分も……」
「パトラ……」
「ややや!? ゴメンゴメン! 今のなし、今のは気にしないで」
心配そうな私の顔を察したのだろうパトラは話題を切り替えるべく極めて明るく振舞った。
「そ、そういえば今頃ジャスティン達はなにしてるんだろうねぇー」
「うーん、今日もカナンさんと一緒に買い物じゃないかな? 昨日それっぽいこと言っていたし案外近くで買い物してるかもよ」
「お金この間の武器買ったときにほとんど無くなったんじゃなかったっけ? ジャスティンは計画性がないからなー」
「パトラが管理してあげたら?」
「へっ!? な!? なに言ってるのかなセレスは」
「パトラ、わかりやすいよ」
「ちっ、ちが……」
「あ、料理きたよパトラ」
「うぅうー」
パトラの顔は真っ赤になっていてさらにちょっと涙目になっている。 まったくわかりやすい反応これでジャスティンさんが気づいていないんだから本当にすごいと思う。
店員さんが私たちが注文した料理を運んでくる。
「お待たせしました、こちらが季節のオムライスとシンプルなオムライスです。 ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
目の前にことりと置かれた皿の上には鮮やかな黄色に包まれた卵と魚介類をふんだんに使ったトマトソースが赤のアクセントを加える。 見た目も香りも申し分なく美味しそうです。
パトラの前に出されたシンプルなオムライスは、味付けされたガルディマイと呼ばれるこの都市ならではのコメと呼ばれるものでモチモチとした触感でとても柔らかいといわれる。
そのガルディマイが形を整えられている上にオムレツがちょこんと乗っていた。
「ちょっと一手間加えますね」
「あっ、はい」
店員さんがナイフでオムレツの真ん中に切れ目を入れると半熟の卵が左右にふわっと覆いかぶさる。
「「おぉー!!」」
お互いつい声がでてしまい笑いあう。
「これで完成でございます」
上からトマトソースをとろりとかけてこの料理は完成した。 目で見ても楽しいし、食べても美味しいとはオムライスは奥が深いですね。
「じゃあ食べよっか」
「うん」
スプーンですくって一口食べると口の中一杯に魚介の旨みとトマトソースの酸味が広がり、追いかける形で卵の甘みがすっと入ってくる。 脂っぽさはなく、それでいてこの魚介のソースがさっぱりとしていて、次々と食べたくなる味であった。
「……美味しい」
「うん…… こっちも卵がトロトロだよ~すごく美味しいセレスも食べてみて」
ずいっとパトラが皿を動かし、交換して食べてみることにする。
パトラが言っていた通り卵がトロトロで口に入れただけで溶けてしまうような柔らかさ。 ほどよい甘さとトマトソースのそれを引き締める酸味がとても心地よい。
飲み込み、余韻に浸ることしばしば、本当にこの料理は美味しい、いったい誰が作っているんだろう?
そんなことを考えふと厨房のあるほうを見てみると、そこにはよく知った顔が働いていたのだ。
「!?ノイトラ!?」
「え!? セレスのお屋敷で働いているはずのノイトラさん?」
「ええ、間違いないです、あの個性的な髪形のエルフの男性はノイトラしか見たことがありませんし」
「なるほど! ノイトラさんだったらこのすごいオムライスを作っていても不思議じゃないね」
厨房の方では慣れた手つきでオムライスを作るノイトラの姿が見て取れた。
「セレスの屋敷でも働いているんでしょ? よくお店やる時間があったね」
パトラが驚いた顔で言ってくる。小さな声で「社畜の鏡や~」と言っていたが屋敷は数人しかおりませんし、朝と夜を除けば日中仕事をするのも納得ができます。
「またみんなで来ましょう、ジャスティンも連れてね」
「う、うん」
パトラは頬を赤く染め、スプーンでオムライスをむくむくと食べ始めた。
食べ終えすっかり満足した私たちは店を後にすると街から少し離れた見晴らしのいい高台に来ていた。
「懐かしいね、覚えてる?」
「覚えてるよ、初の任務の場所だからね」
パトラの手を引いて連れてきたのは私たちが騎士団に入って初めて都市内で行った任務で来た高台である。
ここは見晴らしもよく、ある程度の街並みを一望できる場所だ。
そして私が今日一番この景色をパトラに見せたかった場所だ。
時刻はもう夕暮れに差し掛かってきており、夕焼けに染まる町並みはとても綺麗だった。 高台であることもあり、風の通り道になっているらしく帽子が飛ばされないように押さえている。
「ここで初めて第一部隊として活動したよね」
「うん、懐かしいね、カナンが道を間違えて、ジャスティンが依頼人にお金をもらうのを忘れてたり、私が寝坊したり、散々だったね」
「パトラの寝坊はいつものことだけど…」
「うっ!! ま、まあ初の任務だし緊張もみんなしてたのよ、それで最後にここに集まってみんなでこの景色を見たよね」
「こんなにも綺麗な街を私たちは守っているんだってね、兄様も緊張してたのかもね」
「ふふふ、でもたいちょーかっこよかったよ?」
「いつでも兄様はかっこいいのです」
「さすがだな~」
こういった他愛無いことでも笑いあえる、今この時間が何よりもかけがえのないものだとわかる。
今都市内は急激に変わりつつあり、戦争も激しくなりつつある。
この平和な時間はいつか終わりを迎える。それは絶対である。
そう思うと寂しさが募ってくるのがわかる、パトラも兄を亡くし、いつも傍にいるはずの人を失う怖さを知った。大切な人との別れはいつも突然やってくる、明日かもしれないし今日かもしれない、そんな戦争の中で生きていくのはそれなりの覚悟が必要だ。その原点を思い出してもらうためにこの景色を見せたかった。
【私たちが守っているのはこの綺麗な都市に住む人達全員だ、私たちが守らなければ、誰が大切な家族を守れる? 私達は最後の防衛線なのだ! それを誇りに思おう!】兄様が私たちに向けていった言葉は深くしみるように心に入ってくる、パトラもあの時の気持ちを思い出してくれたらいいな。
「あれ? セレスとパトラ?」
ふいに声をかけられて振り向く、そこには私服姿のジャスティンさんとカナンさんが居た。
「なんでここに!?」
「いやそれはこっちのセリフっス!」
「いやまぁ買い物してて、久しぶりに近くまで来たからここの景色でも見てから帰るかってなってな」
「偶然にもほどがありますね」
「休みの日でも会うとか、まあこうやって第一部隊がそろったし、みんなでまたこの景色を見られて嬉しいな」
パトラは本当に嬉しそうだ。 ジャスティンさんがいるからということだけではなくまたこうしてみんなでこの景色を見られるのが嬉しいのだ。
私たち四人は高台の上から街並みを見渡す。今日が天気のいい日で良かった。綺麗に夕焼けに染まったあの頃と変わらない街並みを見ることができたのだから。
ただ残念なのは……
「残念なのはここに兄様がいないことですね」
「相変わらずッスね」
「まぁそれがセレスだもんね」
そう兄様が居て、四人が居て初めて第一部隊全員がそろったことになる。
「アリア隊長は忙しい仕事をこなしているから仕方ないさ」
「またみんなでここに来よう、その時はたいちょーも誘ってさ」
「いいっすね! 原点に返るって感じで、でも良かったっスパトラ元気になったみたいで」
「うぇええ!?!?」
「やーなんていうか、ダンジョン出たあたりからいつもの元気がなかったから心配だったんス」
ちゃんと見ていたんだねジャスティンさんは、これは嬉しいねパトラ。
「そ、そうなんだ、うんもう大丈夫、色々不安や後悔があったんだけどさ、私には暗いのは似合わないなと思ってさ、この景色も見れたし、仲間もいるし、明るいのが私らしいしね!」
今日一番いい笑顔を見せるパトラ、どうやら抱えていた問題は解決したようだ。その明るさこそパトラらしいと私も思うよ。
「そうっス! やっぱりパトラは笑っていたほうがいいっスよ」
「なっ!? ん~~~~~~!?」
見る見るうちに顔が赤くなるパトラ、ジャスティンさんは無自覚なんだろうなぁ…
カナンさんもこれには驚いているよ、天然って恐ろしいです。
「どうしたっすか!? なんか変なこと言ったっスか?」
いや間違ったことではないけど、まあパトラも嬉しそうだし一件落着かな。
「そうそうさっき店を回った時にいいなと思ったやつを衝動買いしたんスけど、ほんとは明日渡すつもりだったんすけどちょうどいいから今日みんなに渡すっスよ」
ジャスティンが袋から取り出したのは五つのシルバーと翡翠が埋め込まれたネックレス。
「ちょうど五人分だけあって、第一部隊でお守りとして身に着けようと思ってな」
「翡翠は願いを叶える効果と厄除けの意味があるそうッス。 お守り代わりとしてはちょうどいいかなって」
「ありがとう! ……大切にする」
「パトラ、ジャスティンに着けてもらうといいよ!」
「えぇええ!?」
「ああ、そうだなジャスティン着けてやりなよ」
「? わかったっスよ」
『カナンさんやりましたね作戦通りですよ』
『ああ、上手くいったぞ』
二人から少し下がった位置でカナンさんとシーレスで会話をする。
パトラの頬は上気し耳まで真っ赤になっている。 ジャスティンは後ろからネックレスをパトラにかけてあげていた。
「できたッスよ」
「あ、ありがとう、今日のことは忘れない……」
ネックレスに手を触れハニカミながら答えるパトラはちゃんと恋する女の子であった。
一通りみんなネックレスを着け、気持ちを新たにし、またここから再スタートするんだという気持ちにさせられた。
「帰ったらアリア隊長に渡してくれ」
「もちろんです」
兄様の分も受け取り、今日はこのまま解散という流れになった。
だがまだやらなければならないことがあります。
「あ! 騎士団本部に行かないと行けないんでした! 私は先に帰らないといけないので…… うーん、ジャスティンさんパトラを送ってもらえませんか?」
「ちょ!? セレス!?」
たたみかけますよーパトラ。 友達の恋は全力で応援します!
「あー俺も本屋によるの忘れてたわ、ジャスティン頼むな!」
「お、おう、分かったッス」
二人を見送るとそれぞれの帰路につく。今日は少し遠回りになってしまいますがあのパトラの笑顔が見れただけでも嬉しい限りです。
『『計画通り!』』
「こんなところにお店なんてあるの?」
「ふふふ、隠れた名店っていうのはこういった場所にあるんだよ~セレス~」
大通りは人で溢れかえっていたが一歩路地に入り込むと人はまばらになる。
ここは日陰にもなっていて路地を吹き抜ける風がひんやりとしていて気持ちがいい。
「あったあった、ここだよ。 結構混んでるっぽいけどそれなりに空いてそうだよ」
看板が立てかけてありこの飲食店はどうやら地下に入っているようで、大理石の階段をゆっくり降りていく。
「トラジオンかぁ」
入り口に書いてあった『トラジオン』と書かれた文字を見るとどうやらこの洋食店の名前らしい。
看板には今日のおすすめメニューがいくつか書いてあり、可愛いイラストも女性受けするポイントなんだなとパトラと二人で店内に入らずしばらく眺めてしまいました。
「さ、入ろっか! もうお腹ペコペコだよ~」
煙筒からは洋食店特有のいい匂いが漂ってきて食欲を刺激する。
おしゃれなドアを開け、店内に入るとコーヒーの香りが漂ってきた。 どうやらこの『トラジオン』という洋食店は昼間は喫茶店をやっているらしく、多くのお客さんがランチと一緒にコーヒーを頼んでいる。
「いらっしゃいませ! 二名様ですか? 空いているお席にどうぞ!」
エルフの女性店員さんが対応してくれて奥にある窓側の席にパトラと向かい合って座る。
「パトラはよくこういうおしゃれなお店を見つけてくるのが上手いけどいつも自分で見つけてるの?」
「今回はたまたま第四部隊の友達が見つけたらしくてね、なんでもここのオムライスとコーヒーが絶品らしいよ」
「へぇ…… パトラはまだ食べたことがないんだ?」
「そう! 今日が来るのが初めてで楽しみにしてたんだぁ」
パトラは無邪気に笑い、とても楽しみにしてたことが表情でもわかる。 今でも次々と他のテーブルに運ばれてくる料理を興味深そうに眺めている。
テーブルに目を落とすと今日のオススメメニューと書かれている紙がある。 なるほどこの種類の多さはパトラを悩ませるのも納得できてしまうね。
「セレスは何にする?」
「うーん…… じゃあこの季節のオムライスにしようかな」
メニューの一番上にでかでかと書かれていたオススメメニューである季節のオムライスを頼んだ。
「おー、セレスはそれにするんだね…… 私は…… これにしよう! シンプルなオムライス やっぱり基本のものからいっておくべきかなーって思ってね」
そのシンプルなオムライスはさっき書いてあった季節のオムライスの一つ下に書かれており、これもまた大きな字でオススメ!!と書かれている。
店員さんを呼び、注文を終えるとパトラがこっそりと話しかけてきた。
「ここの制服可愛いと思わない?」
パトラがいつにもなく真剣な表情で話しかけるもんだから少し身構えちゃったじゃない!
そしてそんなに熱心にエルフの女性店員を見なくても……
たしかに騎士団で支給されている服や鎧は機能性重視な部分もあってそこまで可愛いとは言えないのはよく知っている。
こうやって見るとパトラも十七歳のちゃんとした女の子なんだなぁ。
私? 私は騎士団に入る時に主席の得点でオリジナルの服を作ってもらっている。
この騎士団は成績がトップだとオリジナルの制服をオーダーメイドで作ってくれるらしく、また隊長になると新しいオリジナルの服を作ってもらえるのだそうだ。
なんでも意識改革の一環だそうで、上の隊長や成績トップの人の格好を見て、憧れる人も多く、努力をすれば自分もオリジナルの服を作ってもらえるという向上心に繋がるらしい……
「私も騎士じゃなかったらこういった制服の可愛いところで働きたかったなぁ」
「となるとパトラは頑張って隊長にならないとね」
「うぅーん…… かなり無理そう……」
隊長になるためにはそれなりの実技の腕と隊長格からの推薦及び隊長の投票数で決定される。
兄様は2年前に隊長格になったばかりですが、騎士団長トリシア=カスタール様直々の推薦であり、実力も申し分なかったため晴れて隊長となったのです!
「でも頑張らないとなぁ…… お兄ちゃんの分も……」
「パトラ……」
「ややや!? ゴメンゴメン! 今のなし、今のは気にしないで」
心配そうな私の顔を察したのだろうパトラは話題を切り替えるべく極めて明るく振舞った。
「そ、そういえば今頃ジャスティン達はなにしてるんだろうねぇー」
「うーん、今日もカナンさんと一緒に買い物じゃないかな? 昨日それっぽいこと言っていたし案外近くで買い物してるかもよ」
「お金この間の武器買ったときにほとんど無くなったんじゃなかったっけ? ジャスティンは計画性がないからなー」
「パトラが管理してあげたら?」
「へっ!? な!? なに言ってるのかなセレスは」
「パトラ、わかりやすいよ」
「ちっ、ちが……」
「あ、料理きたよパトラ」
「うぅうー」
パトラの顔は真っ赤になっていてさらにちょっと涙目になっている。 まったくわかりやすい反応これでジャスティンさんが気づいていないんだから本当にすごいと思う。
店員さんが私たちが注文した料理を運んでくる。
「お待たせしました、こちらが季節のオムライスとシンプルなオムライスです。 ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
「はい、ありがとうございます」
目の前にことりと置かれた皿の上には鮮やかな黄色に包まれた卵と魚介類をふんだんに使ったトマトソースが赤のアクセントを加える。 見た目も香りも申し分なく美味しそうです。
パトラの前に出されたシンプルなオムライスは、味付けされたガルディマイと呼ばれるこの都市ならではのコメと呼ばれるものでモチモチとした触感でとても柔らかいといわれる。
そのガルディマイが形を整えられている上にオムレツがちょこんと乗っていた。
「ちょっと一手間加えますね」
「あっ、はい」
店員さんがナイフでオムレツの真ん中に切れ目を入れると半熟の卵が左右にふわっと覆いかぶさる。
「「おぉー!!」」
お互いつい声がでてしまい笑いあう。
「これで完成でございます」
上からトマトソースをとろりとかけてこの料理は完成した。 目で見ても楽しいし、食べても美味しいとはオムライスは奥が深いですね。
「じゃあ食べよっか」
「うん」
スプーンですくって一口食べると口の中一杯に魚介の旨みとトマトソースの酸味が広がり、追いかける形で卵の甘みがすっと入ってくる。 脂っぽさはなく、それでいてこの魚介のソースがさっぱりとしていて、次々と食べたくなる味であった。
「……美味しい」
「うん…… こっちも卵がトロトロだよ~すごく美味しいセレスも食べてみて」
ずいっとパトラが皿を動かし、交換して食べてみることにする。
パトラが言っていた通り卵がトロトロで口に入れただけで溶けてしまうような柔らかさ。 ほどよい甘さとトマトソースのそれを引き締める酸味がとても心地よい。
飲み込み、余韻に浸ることしばしば、本当にこの料理は美味しい、いったい誰が作っているんだろう?
そんなことを考えふと厨房のあるほうを見てみると、そこにはよく知った顔が働いていたのだ。
「!?ノイトラ!?」
「え!? セレスのお屋敷で働いているはずのノイトラさん?」
「ええ、間違いないです、あの個性的な髪形のエルフの男性はノイトラしか見たことがありませんし」
「なるほど! ノイトラさんだったらこのすごいオムライスを作っていても不思議じゃないね」
厨房の方では慣れた手つきでオムライスを作るノイトラの姿が見て取れた。
「セレスの屋敷でも働いているんでしょ? よくお店やる時間があったね」
パトラが驚いた顔で言ってくる。小さな声で「社畜の鏡や~」と言っていたが屋敷は数人しかおりませんし、朝と夜を除けば日中仕事をするのも納得ができます。
「またみんなで来ましょう、ジャスティンも連れてね」
「う、うん」
パトラは頬を赤く染め、スプーンでオムライスをむくむくと食べ始めた。
食べ終えすっかり満足した私たちは店を後にすると街から少し離れた見晴らしのいい高台に来ていた。
「懐かしいね、覚えてる?」
「覚えてるよ、初の任務の場所だからね」
パトラの手を引いて連れてきたのは私たちが騎士団に入って初めて都市内で行った任務で来た高台である。
ここは見晴らしもよく、ある程度の街並みを一望できる場所だ。
そして私が今日一番この景色をパトラに見せたかった場所だ。
時刻はもう夕暮れに差し掛かってきており、夕焼けに染まる町並みはとても綺麗だった。 高台であることもあり、風の通り道になっているらしく帽子が飛ばされないように押さえている。
「ここで初めて第一部隊として活動したよね」
「うん、懐かしいね、カナンが道を間違えて、ジャスティンが依頼人にお金をもらうのを忘れてたり、私が寝坊したり、散々だったね」
「パトラの寝坊はいつものことだけど…」
「うっ!! ま、まあ初の任務だし緊張もみんなしてたのよ、それで最後にここに集まってみんなでこの景色を見たよね」
「こんなにも綺麗な街を私たちは守っているんだってね、兄様も緊張してたのかもね」
「ふふふ、でもたいちょーかっこよかったよ?」
「いつでも兄様はかっこいいのです」
「さすがだな~」
こういった他愛無いことでも笑いあえる、今この時間が何よりもかけがえのないものだとわかる。
今都市内は急激に変わりつつあり、戦争も激しくなりつつある。
この平和な時間はいつか終わりを迎える。それは絶対である。
そう思うと寂しさが募ってくるのがわかる、パトラも兄を亡くし、いつも傍にいるはずの人を失う怖さを知った。大切な人との別れはいつも突然やってくる、明日かもしれないし今日かもしれない、そんな戦争の中で生きていくのはそれなりの覚悟が必要だ。その原点を思い出してもらうためにこの景色を見せたかった。
【私たちが守っているのはこの綺麗な都市に住む人達全員だ、私たちが守らなければ、誰が大切な家族を守れる? 私達は最後の防衛線なのだ! それを誇りに思おう!】兄様が私たちに向けていった言葉は深くしみるように心に入ってくる、パトラもあの時の気持ちを思い出してくれたらいいな。
「あれ? セレスとパトラ?」
ふいに声をかけられて振り向く、そこには私服姿のジャスティンさんとカナンさんが居た。
「なんでここに!?」
「いやそれはこっちのセリフっス!」
「いやまぁ買い物してて、久しぶりに近くまで来たからここの景色でも見てから帰るかってなってな」
「偶然にもほどがありますね」
「休みの日でも会うとか、まあこうやって第一部隊がそろったし、みんなでまたこの景色を見られて嬉しいな」
パトラは本当に嬉しそうだ。 ジャスティンさんがいるからということだけではなくまたこうしてみんなでこの景色を見られるのが嬉しいのだ。
私たち四人は高台の上から街並みを見渡す。今日が天気のいい日で良かった。綺麗に夕焼けに染まったあの頃と変わらない街並みを見ることができたのだから。
ただ残念なのは……
「残念なのはここに兄様がいないことですね」
「相変わらずッスね」
「まぁそれがセレスだもんね」
そう兄様が居て、四人が居て初めて第一部隊全員がそろったことになる。
「アリア隊長は忙しい仕事をこなしているから仕方ないさ」
「またみんなでここに来よう、その時はたいちょーも誘ってさ」
「いいっすね! 原点に返るって感じで、でも良かったっスパトラ元気になったみたいで」
「うぇええ!?!?」
「やーなんていうか、ダンジョン出たあたりからいつもの元気がなかったから心配だったんス」
ちゃんと見ていたんだねジャスティンさんは、これは嬉しいねパトラ。
「そ、そうなんだ、うんもう大丈夫、色々不安や後悔があったんだけどさ、私には暗いのは似合わないなと思ってさ、この景色も見れたし、仲間もいるし、明るいのが私らしいしね!」
今日一番いい笑顔を見せるパトラ、どうやら抱えていた問題は解決したようだ。その明るさこそパトラらしいと私も思うよ。
「そうっス! やっぱりパトラは笑っていたほうがいいっスよ」
「なっ!? ん~~~~~~!?」
見る見るうちに顔が赤くなるパトラ、ジャスティンさんは無自覚なんだろうなぁ…
カナンさんもこれには驚いているよ、天然って恐ろしいです。
「どうしたっすか!? なんか変なこと言ったっスか?」
いや間違ったことではないけど、まあパトラも嬉しそうだし一件落着かな。
「そうそうさっき店を回った時にいいなと思ったやつを衝動買いしたんスけど、ほんとは明日渡すつもりだったんすけどちょうどいいから今日みんなに渡すっスよ」
ジャスティンが袋から取り出したのは五つのシルバーと翡翠が埋め込まれたネックレス。
「ちょうど五人分だけあって、第一部隊でお守りとして身に着けようと思ってな」
「翡翠は願いを叶える効果と厄除けの意味があるそうッス。 お守り代わりとしてはちょうどいいかなって」
「ありがとう! ……大切にする」
「パトラ、ジャスティンに着けてもらうといいよ!」
「えぇええ!?」
「ああ、そうだなジャスティン着けてやりなよ」
「? わかったっスよ」
『カナンさんやりましたね作戦通りですよ』
『ああ、上手くいったぞ』
二人から少し下がった位置でカナンさんとシーレスで会話をする。
パトラの頬は上気し耳まで真っ赤になっている。 ジャスティンは後ろからネックレスをパトラにかけてあげていた。
「できたッスよ」
「あ、ありがとう、今日のことは忘れない……」
ネックレスに手を触れハニカミながら答えるパトラはちゃんと恋する女の子であった。
一通りみんなネックレスを着け、気持ちを新たにし、またここから再スタートするんだという気持ちにさせられた。
「帰ったらアリア隊長に渡してくれ」
「もちろんです」
兄様の分も受け取り、今日はこのまま解散という流れになった。
だがまだやらなければならないことがあります。
「あ! 騎士団本部に行かないと行けないんでした! 私は先に帰らないといけないので…… うーん、ジャスティンさんパトラを送ってもらえませんか?」
「ちょ!? セレス!?」
たたみかけますよーパトラ。 友達の恋は全力で応援します!
「あー俺も本屋によるの忘れてたわ、ジャスティン頼むな!」
「お、おう、分かったッス」
二人を見送るとそれぞれの帰路につく。今日は少し遠回りになってしまいますがあのパトラの笑顔が見れただけでも嬉しい限りです。
『『計画通り!』』
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww
刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。
さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。
という感じの話です。
草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。
小説の書き方あんまり分かってません。
表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる