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【薔薇のパル】になった件

生徒会室にお邪魔します。

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終礼後宣言通り俺は生徒会室前に来ていた、トントントンと三つノックをする。
一拍置いて「どうぞ。」と言われる。
大きなドアを開くとそこには山積みになった書類に囲まれたメイさんがいた、メイさんは書類に目を落としたままだ。
「メイさん、来たよ。」
「あぁ、御形くん……と古鬼田くん!?」
書類から顔を上げたメイさんは予想外の来客に驚きに手からペンを落とした。
カラカラと無機質な音が生徒会に響く。
「うっす、メイさん。」
「どうして古鬼田くんが?」
目を白黒させるメイさんに古鬼田くんが頭下げる。
「俺が嶋崎から強引に聞き出したっす、今の生徒会の現状を。補佐は二人までいけたっすよね。」
古鬼田くんの隣でごめんと手を合わせる。
「え?二人までだけど…え?」
「俺にも手伝わせて下さい、二人より三人のが捗るっす。」
「…てな訳で、メイさん手続きの書類二枚頂戴?」
メイさんがゆらりと立ち上がりこちらへ来ると二人纏めてガバッと抱き締められた。
「…二人共ありがとう。」
そう言った声が少し震えている。
二人で顔を見合わせ笑う。
「これからよろしく。」
「よろしくっす。」
それから二人で補佐の手続き書類を記入し、大まかに仕事を振り分けられた。
「物品破損に被害届けに苦情…?」
「それらが生徒会の仕事を増やしてる原因…全部花咲ナズナ関連だよ。とんだ疫病神さね。」
メイさんはそう言い肩を竦めた。
古鬼田くんがあからさまに顔を顰める。
花咲ナズナはどうも学園中で猛威を奮ってるようだ。
設定では明朗快活、歯に衣着せぬ少年が何故そのような怪獣に成り果ててしまったのか…。
いや、設定ならメイさんも古鬼田くんも違えてる。
ここは【青薔薇学園物語】のようで違う世界なのだろう。
俺のようなイレギュラーが入り込んでしまったからか…と思考が悪い方向へ傾きかけ、頭を振る。
今はそんな事を考える前に目の前の書類を片付ける事に集中しなければ。
俺はペンを持ち、膨大な書類の山へ手を付け始めた。


片せども片せども減らぬ山に辟易し始めた頃、メイさんが立ち上がりパンッと手を鳴らした。
「疲れたでしょ?休憩~!」
メイさんの一声で俺達はペンを置いた。
「紅茶淹れるよ、こっちおいでェ~。」
メイさんは応接用の机に向かい手招いた、俺達二人は椅子から立ち上がりソファーに腰掛けた。
そこにメイさんがティーセットを持って戻って来た、カチャカチャと手際よくセットしていく。
目の前にティーカップが置かれた。
「メイさんありがとう。」
「あざっす。」
「召しあがれェ~。」
カップに口を付ける、アールグレイの香りが鼻に抜けてほっとした。
「メイさん紅茶淹れるの上手だね。」
「あ~よく家で淹れさせられてたからねェ~。」
メイさんの家は確か芸能一家で次男だった筈だ。
「美味しくてほっとする。」
古鬼田くんも俺の言葉に頷く。
「そう?なら良かった。」
その様子を見ながらメイさんが満足気にカップへ口を付ける。
そんな姿も様になっていて俺は見惚れていたが、ふと思い出し学生カバンを手繰り寄せ中からネクタイ達を取り出しソファーへ置く。
「メイさん、これ…。」
「…!ありがとう、ホントに持って来てくれたんだ。」
「当たり前だろ。」
「ふふっ…そうだね、御形くんは有言実行だもんね。」
そう言うとメイさんもカバンを手繰り寄せネクタイを取り出し、俺に差し出したので受け取りカバンへ大事にしまう。
メイさんもソファーに置かれたネクタイを自身のカバンへしまうと。
「こっちも交換しちゃおうか。」
そう言い緩く結われたネクタイを解いた、俺も頷きネクタイを解く。
自然とどちらともなく互いの首へネクタイを回すと結い直す。
俺が少し強めに締めるとメイさんが「ぐぇっ」と言って舌を出す、それに笑っていると控えめな拍手が聞こえて来た。
そちらに二人で視線をやると、目を細め笑った古鬼田くんがいた。
「二人共おめでとう。」
その言葉に二人で一瞬顔を見合わせ、古鬼田くんに向き直ると同時に口を開いた。
「「ありがとう!」」
その後は十分程休憩し、日が暮れるまでぐちゃぐちゃに積み上がっていた書類を整理した。
「そろそろ帰ろうか、お腹も空いたでしょ?」
ぐったりとしながらも頷き、処理が終わった書類を纏めて席を立つ。
古鬼田くんがぐっと伸びをして言う。
「もう遅せぇし、このまま直で食堂行きません?」
「そうだね、そうしよっか!」
俺も頷き筆記用具をカバンにしまう。
三人並んで生徒会室を後にし、寮の食堂へ向かった。


食堂はもう空いていて直ぐに夕飯にありつけた。
三人共空腹でトレーの上は直ぐに無くなった、メイさんが口を開く。
「ホントに二人共ありがとう、毎日心にも余裕が無くなっていっててさァ…何度投げ出してしまおうかって考えてたの。」
古鬼田くんと二人で静かにメイさんの言葉に耳を傾ける。
「でも、これでも俺は生徒から、学園から選ばれて任命された訳じゃん?逃げるのも悔しいし…だから御形くんからの申し出には感動したし、まさか古鬼田くんまで来てくれると思わなかったし。俺の心は二人に救われたって訳、いい恋人といい後輩を持って俺は嬉しいよ。ホント逃げなくてよかったァ…。」
「それはメイさんの人徳だよ。」
古鬼田くんも頷く。
「他の人だったら行ってねぇっす。」
「二人共ォ~泣かせないでよねェ~!」
三人で笑い合う、嗚呼幸せだなと思った。
27年間こんな幸せな時間あっただろうか、友人はいたが仕事を始めてから疎遠になったし、仕事場では淡白な付き合いしかなかった。
不幸ではなかったけど、夢なら覚めないでくれと願う。
もう俺の居場所はここなんだ。
「そうだ、明後日の休みAmberでモーニングでもしない?」
メイさんの言葉に思考から引き戻される。
「いいっすね。」
「モーニングのオムレツが最高でねェ~。」
「オムレツ!」
俺はその単語に食いつく、俺は恥ずかしかなハンバーグやオムライス等子どもが好きなレパートリーが好きなのだ。
「そういやぁ、お前食堂でもオムレツ食ってたよな。」
ブンブンと頭を縦に振る、その様子にメイさんが笑う。
「首取れちゃうよ、御形くん。そっかァ御形くんオムレツ好きなんだ?」
「ハンバーグとかも好きっすよ。」
「…もしかして、御形くん子ども舌?」
言われドキィッとする、しかし事実なので大人しく頷く。
「ふはっ!可愛いィ~!」
よしよしと頭を撫でられ赤面する。
「でも珈琲は飲めるんだよな?」
「美味しいのなら…実家でも母さんが淹れてくれてたし。」
「Amberのは自家焙煎だからね!さて、そろそろ部屋に戻ろうか。」
メイさんの一声で席を立ち、食堂を後にする。
疲れているだろうにメイさんは送ると言って部屋の前までついてきた。
「じゃあ、また明日。」
古鬼田くんが一足先に部屋へ戻る。
メイさんは少しだけと言って俺の部屋に入って来た。
瞬間抱き寄せられ、顔中に口付けが降って来た。
俺はそれに身を任せ、メイさんの首へ腕を回す。
「…正式に【薔薇のパル】になってくれてありがとう。大切にするから。」
「こちらこそ選んでくれて、ありがとう。」
伸び上がりメイさんの唇に口付ける。
メイさんからもちゅっちゅっと軽く口付けられる、暫く二人で唇の感触を楽しみあった。
メイさんはぺろりと俺の唇を舐めると、名残惜し気に唇が離れる。
「…週末、抱いてもいい?」
震えた声で、でも真剣な目で見つめられた。
俺もそれに真剣な目で返す。
「いいよ、メイさんの好きにして。」
「だァーっ!御形くん男前すぎ!…大事にするから。」
「うん。」
ぎゅうと抱き締める腕に力が入り身体が密着した。
俺はメイさんの首筋に顔を埋めた。
この人になら抱かれてもいい、いや、抱かれたいと思った。
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