転生したらBL学園ゲームのモブでチャラい会計に愛されることになった件

陌屋

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BL学園に転生した件

さよなら現世また来て来世

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俺、嶋崎御形はブラック企業に勤めている。
27歳、恋愛経験なしの独身。
職業はゲームのエンジニア。
好きはものの上手なれで、ゲーム好きが高じて今の会社【bons amis】に就職した。
そこがもうびっくりする程のブラック企業だった。
毎日毎日当たり前の様に残業、勿論残業代など出ない。
今はその残業帰りである。
時刻は23時半、終電には間に合うからまだマシな方だ。
来世は猫に生まれ変わりたい。

そんな事を考えながら青に変わった信号を渡ろうと1歩踏み出す、次の瞬間クラクションと人の悲鳴が聞こえた。
次いで全身に響く痛み、薄れゆく意識の中信号の青がやけに目に刺さった。
俺の人生これまでか……せめて、恋愛くらい体験したかったな。
そこで俺の意識はブツリと途切れた。



「…た、……がた。」
綺麗な声が聞こえる、俺は天国にでも来たのだろうか。
視界はまだ暗いままだ。
「…がた、御形。」
ハッキリと紡がれた自身の名前に意識が浮上して来た、手を開いて閉じてみる全身の痛みはない。
やはりここは天国なのだろうか、地獄は嫌だな。
「御形、起きて。」
その言葉に従う様にゆっくりと瞼を上げる、まだ視界がボヤけていてここが何処だかわからない。
背中の感触は柔らかい、ベッドなのだろうか。
病院?でも優しく俺を呼ぶ声は知っている様で知らない声だ。
俺を下の名前で呼ぶのなんて、今や父と母くらいだ。
俺を呼ぶのは誰だ?
「母ですよ。」
口に出ていたのか返事が返ってくる。
母?こんなに綺麗な声だっただろうか、何年も聞いてない声を思い出そうとするが思い出せない。
何度か瞬きをするとボヤけていた視界がクリアになっていく。
視界に入ったのは白い天井、病院か?
「母さん…?」
俺は死んだんじゃなかったのか?
まさか奇跡的に生き残ったのか、また何度か瞬きをする。
「御形、今日は編入試験日でしょう?遅刻したら大変よ。」
試験…?なんの事だ?
俺はゆっくりと身体を起こす、痛みはない。
轢かれたのは夢だったのだろうか?
しかし思い出した正に身を引き裂かれる痛みに震える。
いや、あんなリアルな夢は有り得ない。
しかし病院でもなさそうだ。
やはりここは天国?
「まだ寝ぼけているの?」
先程から聞こえる声の方へと視線をやる。
そこには栗色の髪をゆったりとしたハーフアップにまとめた美人さんが立っていた。
「やっぱりここは天国…?」
そう言葉にした瞬間ズキリと頭が痛み、視界がぐるりと回った。
同時に27年間の中に覚えの無い記憶が次々と現れた。
この人は自分の母親だ、そしてここは自室。
27年間以外の記憶に目を白黒させている内に母(仮)が近寄りベッドへと腰掛けた。
「おかしな夢でも視たの?」
くすくすと笑われる、笑う声も綺麗だ。
そうこの人は元歌姫、嶋崎愛(しまざきめぐみ)旧姓は歌雨愛(うたうめぐみ)記憶が確かなら俺の母親だ。
そして今日は【青薔薇学園】への編入試験日……【青薔薇学園】…?
聞き覚えがある、なんてもんじゃないそれは俺が初めてメインで手掛けた自社のヒット作【青薔薇学園物語】生徒会をメインに様々なイケメンと恋愛をするBLゲームの舞台だ。
…まさかな、仕事のし過ぎだ。
これは夢、夢だ。多分トラックに轢かれたところから夢。
もう一度眠ろう…そしたらきっと目覚める。
いそいそとベッドの中に戻ろうとしたら、ベチンと頭をはたかれた。
痛い。
「遅刻するって言っているでしょうが。」
そこには笑みは崩さずとも、背後に般若を背負った母(仮)が立っていた。
俺は咄嗟にベッドから立ち上がり頭を下げる。
「すみませんでした!」
「よろしい。さて、朝食ですよ。顔を洗ってらっしゃい。」
「はい!」
この人に逆らってはいけない、本能がそう訴えてくる。
俺はその言葉に勝手知ったる、知らない家の洗面所まで走った。

「…俺だ。」
洗面所で顔を洗い、タオルで拭いながら鏡を見つめる。
幾分か若い気がするが、鏡に写るのは間違いなく俺だ。
記憶を探る、俺は今年15になる高校1年生。
名前は変わらず嶋崎御形、父は自営業を営む嶋崎御郎(しまざきごろう)。
今日は【青薔薇学園】高等部への編入試験日。
頬を抓る…痛い。
夢ではないのか…痛む頬を擦りながらダイニングへと向かう。
「朝食出来てますよ、さぁ座って。」
母(仮)が淹れたてであろう珈琲をダイニングテーブルに置くところだった。
俺は素直に従って迷いなく席へつく。
「いただきます」
手を合わせる、まぁいいか食べてから考えよう。
俺は思考を放棄して朝食をとることにした。

「ごちそうさまでした。」
再び手を合わせる、人の手作りを食べるのは何年振りだっただろうか。
「歯を磨いて着替えてらっしゃい。」
頷き席を立つ、母(仮)が皿を下げていく。
まるで実家みたいだ、と思ったがここは間違いなく実家だ。
27年にプラスされた15年の記憶がそう訴えてくる。
自室へ戻り着替えを終わらせ、洗面所で歯を磨く。
やはり若い、15歳に戻っている様だ。
しかし、ただ戻った訳では無い。
父と母も違う、常識は変わらないが俺の頭の中には【青薔薇学園】の知識がある。
いや、エンジニアなのだから当たり前かも知れないのだが。
【青薔薇学園】は政治家、実業家、芸能人、スポーツ選手などあらゆるジャンルの人材を輩出する名門校だ。
そして、俺は今年からその学園へ入学する為に今日編入試験を受ける。
【青薔薇学園】は元々初等部からのみの入学だったが、今年から中途の入学を許可する様に変更されたのだ。
そして俺は母からの勧めで【青薔薇学園】へ入学することになり、編入試験を受けることに。
歯磨きを終え、ダイニングへ戻るとそこにはカバンを抱えた母(仮)がいた。
「編入試験受付書はカバンに入ってますからね、無くさないように。」
頷くとカバンを受けとる、中身は数枚の書類と筆記用具に財布、ハンカチとティッシュ。
「貴方なら受かりますよ、私たちの子ですもの。」
俺の表情をどう受け取ったのか、励ましの言葉を貰う。
不安なのは不安だが、違うのだ。
「ほら、遅刻しますよ。」
背中を押され玄関まで行く。
「いってらっしゃい。」
観念して靴を履けば頷き。
「…いってきます。」
俺は知っていて、知らない町に歩みを進めた。



試験は正直簡単だった。
27歳になっても意外と覚えてるもんなんだな、と思いながらも知らない15年分の記憶も役にたった。
この、15年分はしっかりと勉強をしていたみたいだ。
帰り道再び思考を巡らせ出した結論は…
「転生…ってやつなのかな。」
夢と言うには15年分の記憶が鮮明過ぎた。
ならば、次はどう生きるかだ。
俺は思っているより前向きだったみたいです。
何故【青薔薇学園物語】なのかはわからないが、BLゲームと言っても共学だ。
見た目も平々凡々、ゲームと同じ様にイケメン達に囲まれる事もあるまい。
それに【青薔薇学園】は名門校。
折角のチャンスだ、次はもっとマシな生活を送れる様になろう。
なんなら彼女を作ってみるのもいい、夢が膨らむ。
ニコニコと学園都市を歩いているところを、一対の瞳が見つめているのも知らないで俺は夢を膨らませていた。



まさかあんな学園生活になるなんて知らずに。
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