胡散臭いと言われる僕が溺愛されるなんてありえない!

陌屋

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胡散臭い僕を構って楽しい訳がない!

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なんとかかんとか『Amber』の前まで帰って来れた。
息を整え階段を上りきり、部屋の前に立つ。
表札には『澤木』と書かれている、ノックもインターホンも押さずドアノブへと手をかける。
ドアは何の抵抗もなく開かれた、タバコと珈琲の香り、キーボードの音、それがこの空間のいつもの風景。
「環くん帰ったでぇ~」
「ここはお前ん家じゃねぇぞ。」
声をかけると漸く彼が手を止め、振り返る。
キリリと上がった眉、反対に眠たげに垂れた眼鏡フレームに収まった瞳、片側だけ掻き上げた焦げ茶色の髪、甥の澤木環だ。
「そない言うて、鍵かけとらん環くんも悪いんとちゃう?」
悪びれずに舌を出して言う。
「俺の所為かよ」
短くなったタバコを灰皿に押し付けると、新しく箱からタバコを取り出しジッポで火を点ける。
ふぅ…と煙を吐き出せば、片手の掌を上向け来いと手招きPCへと向き直る。
僕はそれに従い近くへと寄って行き、デスクへ腰掛ける環くんの隣へ並ぶ。
「目撃情報がネットに上がっちまってる。」
「視認出来る人が近くに居ったんか。」
「今のところは酔っ払いの戯言で片付けられてるけどな。」
デスクトップに映しだされていたのは有名な巨大掲示板だった。
『触手生えた熊みたいなどでかいヤツがいたんだよ!』
『写真うp求む』
『触手ってエロゲのモンスターかよ』
『どでかいってどんくらい?』
『てか、何処で見たん?』
『酔っ払って見間違えたんじゃないの?』
今のところ反応は少ないようやった。
「ホンマに見られたみたいやな、特徴が一致しとる。」
「俺は火消しに回る。」
「頼むわ。」
環くんはキーボードをカタカタと言わせ始めた。
僕は邪魔をしない様に、デスクから離れ勝手知ったるキッチンへ向かいコーヒーメーカーを起動させる。

カタカタと忙しなくなるキーボード音の中カチャリと異音が鳴る。
「環くん珈琲、飲むやろ?」
「嗚呼…火消しは何とかなりそうだ、都市伝説にはなるかも知れんがな。」
環くんはキーボードから手を離すと、首を鳴らしながら振り返る。
「流石環くん、まぁ珈琲でも飲んで休も。」
ダイニングテーブルに珈琲カップを二つ並べ、椅子へ腰掛ける。
環くんもデスクから立ち上がりこちらへ来、対面の椅子へと腰掛ける。
「そっちはどうだったんだ、調伏して来たんだろ?」
カップに口付けながら目線は此方へ寄越す。
環くんの目元は本当に彼に似ている、そらそうか息子やもんな。
「ん?嗚呼…なんとか?」
「なんとかって何だよ、歯切れ悪いな。」
数時間前を思い出し、眉根を寄せる。
「いや……知らん祓魔師と会うてな、助けてもろてん。」
…口惜しいことにだが、彼…香澄さんがいなければ今頃あの熊モドキの腹の中だったかも知らん。
その後の事は思い出したくもないが…僕もカップへと口を付ける。
「へぇ、お前が苦戦したのか。」
「5mは超えとった、あんなんどっから来たんかわからん。」
「最近やけに多いな…。」
頷きカップを置くと環くんと目を合わせる。
「祓魔師界隈でも言われとる…多すぎる、言うて。」
置いたカップを両手の中で遊びながら、語る。
「数だけやない、規格外な大きさや強さのヤツらが毎晩の様に確認されとるらしい。正直このままやと祓魔師の手が足りんくなるやも知らん…。」
「それは死活問題だな…。」
「せやねんな…祓魔師をそう簡単に増やす事も出来へんし…。」
「俺も視えるだけだしな。」
環くんがカチャリと中指でブリッジを押し眼鏡をかけ直す。
そう、環くんは視える人間だ。
「…思い付くのは、何かが怪異に影響を与えてるってことや。」
「何かが生態系を変えてるって言うのか?」
「そんくらいしか思い付かん。」
「成程ね…確かにそう考えると自然か…。」
環くんがふむと頷きながらカップに口を付ける。
「問題は、それが何か、やねんな…。」
「生態系を変える何か、か……俺の方でも調べておく。」
「ん、助かるわ。」
クイッとカップをあおると、立ち上がりカップをシンクへ持って行く。
キッチン用スポンジを泡立てカップを洗う。
「僕の方でも調べてみてみる。」
洗ったカップを水切りラックに置き、手をタオルで拭う。
「ほな、今日はお暇するわ。」
「おう。」

環くんの家を出て隣へ向かう。
環くんん家の隣が僕の家だ、鍵を開けドアを開ける。
中へ入れば鍵をかけ靴を脱ぎ、上がり框へ上がる。
「……つっかれたぁ。」
呟きセーターのボタンを外しながら、風呂場へ向かう。
セーターを脱ぎ、タートルネックを脱ぐ。
鏡に映る自身の上半身を見る。
首周りからぐるりと肩にかけてトライバルタトゥーの様な紋様が入っている。
紋様を指先で撫ぜる、これは黒狼との契約の証だ。
僕の実家は祓魔家系で元来、お狐様-白襢様-を祀っていた。
但し白襢様は女でなければ使役出来ない。
僕には姉がいた。
狐狗狸千莉、僕と同じ琥珀色の髪に琥珀色の瞳。
16歳上だった。
そんな姉は次期当主の座を捨てて駆け落ちした。
相手は澤木瑞希、環くんの父親であり、この家の大家であり…僕の初恋相手だ。
しかし、その姉も環くんを産んですぐ怪死を遂げている。
環くんが怪異情報にやけに詳しいのはその辺が絡んでいるのかもしれない。
「…寒…シャワーだけ浴びて寝よ…。」


タオルで髪を乾かしながらベッドへ向かう。
今日はやけに疲れた……生気を持って行かれたからじゃない、あの男の所為だ。
香澄凛太郎…金輪際会うことも無いだろう、そう願いベッドへ潜り込んだ。
思い出し、熱くなった身体は無視をして。
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