胡散臭いと言われる僕が溺愛されるなんてありえない!

陌屋

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胡散臭い僕を構って楽しい訳がない!

1-1※

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出会いは偶然だった。
見廻りにプラプラと夜の街を歩いていると、着信が入った。
スマホを取り出し着信相手の名前を見る、従兄弟の澤木環だ。
「環くんどないしたん?」
『お前今どこだ?怪異と思わしい情報が入った、現場の位置情報を送る。』
環はこうして偶に怪異出現情報をどこからか仕入れ、僕に横流ししてくれる。
情報の出処は謎だ。しかし、外れたことは無い。
「はいよ、よろしゅー」
一つ返事で通話を切ると直ぐに位置情報が送られて来た、ここから然程遠くない。
僕は夜の街を駆け出した。


着いたのは人っ子一人いない寂れた公園だった。
その中央に『それ』はおった。
優に5mは超える巨体、熊の様なフォルムだがその背中からはうねうねと触手が生えとる。
「…これは骨が折れそうやわ。」
片手を人差し指と小指を立て、中指と薬指を親指にくっつける。
「…黒狼」
一言そう告げるとざわりと周りの空気が動き、影から中型犬くらいの影が10匹程現れる。
僕が使役する式神、黒狼や。
最大で同時に20匹程は使役出来るのだが、生気を持っていかれるので滅多にしない。
「行け」
僕の合図と同時に黒狼が怪異目掛けて走り出す。
怪異も此方に気付いたのか、僕の方へ向かって触手を揺らしながら走り出す。
「ちょ、ちょい待ち!こっからでてくれるなよ!」
仕方なく誘導をする為、公園内に入り走り出す。
その間に黒狼が怪異へと飛びかかり、迫り来る触手を噛みちぎり巨体へと噛み付く。
怪異が咆哮を上げる。
「よしよし、頼むで黒狼。」
依然止まらない怪異に焦りながらも公園内を走り続ける。
僕が注意を引き、黒狼で追撃する、それを幾らか繰り返していく。
その時だった、脚に何かが絡みつき身体が宙を舞う。
「うわっ…!」
黒狼をかいくぐった触手に捕まったのだ、逆さまの宙ぶらりん状態にされる。
ヤバい、追加の黒狼を呼び出そうと印を作り口を開ける。
「黒ろッんぐッッ!?」
開けた口に別の触手が口内へ侵入して来たのだ。
咄嗟に周囲を見回す…黒狼の数が減っている。
これはヤバい、ヤバすぎる。何とか口内の触手を噛みちぎろうとした時だ。
「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダ ソハタヤ ウンタラタ カンマン!」
聞き覚えのある真言と共に一つの影が眼前を過ぎ去った。
瞬間、身体の自由が戻る。
「カハッ…」
嗚咽し落下しながらも印を作る。
「ッ…黒狼!」
公園中の影から次々に黒狼が現れ、怪異へと襲いかかる。
再び怪異が咆哮する、次の瞬間目の前がパッと明るくなり轟音を響かせ怪異へと当たる。雷だ。
怪異は再び咆哮するとさらさらと煤になって消えていった。
何とか終わったのだ。
自由落下しながら、生気を消費して動かない身体に、嗚呼これは助からんかもな…と思いながら目を瞑る。
「…もーちょい遊んどきたかったなぁ。」
然し衝撃はあったものの、何やら温かかった。
「ってて……危機一髪」
先程も聞いた声だ…しかし目がもう開かない。
「おい、アンタ大丈夫か?」
「…もう…限界…」
その一言を最後に僕の意識は暗い闇の中へ落ちていった。


何やら温かくてふわふわして、安心する香り…もう少し眠っとってもえぇかな…
そこにすかさず邪魔が入った。
「おい、もう起きたか?」
やかましいなぁ…もうちょっと……?
そこで意識を手放す前の記憶を思い出し、飛び起きる。
「うっ……」
が、くらくらと回る視界に頭をおさえる。
生気を消費し過ぎた反動だ。
「あー、無理すんな。」
「ここは…」
何度か瞬き顔を上げる、そこには絶世の美丈夫が立っていた。
あんぐりと口を開けて見上げていると男は勝手に喋り始めた。
「アンタあんなの一人で相手すんのは無理し過ぎな、俺がたまたま通りかからなかったらパックリ食われてたかもしんないぜ?ここは俺ん家、で俺は香澄凛太郎。」
「香澄…凛太郎…」
いまだモヤがかかる頭で何とか名前を復唱する。
「…アンタ…香澄さんが助けてくれはったん…?」
「まぁ、そうなるな。」
徐々に晴れるモヤと共に、目の前の人物の容姿に目が行く。
服の上からでも分かる鍛えあげられた身体、すっと通った鼻筋、男らしい揃えられた眉、ぱっちりとした二重、薄い唇、烏羽色でセンター分けにされた髪……正直言って、僕のドストライクや。
いや、違う今はそんなこと考えてる場合やない!
「偶然、祓魔師が通りかかるとは幸運でした。ここまで運んでくれてどうもでした。ほな…ッッ」
早口で告げるとベッドから抜け出そうとするも、ふらつき慌ててヘッドボードへ手をつく。
「まぁ、待て待て待て。アンタ名前は?」
「僕…?僕は狐狗狸、狐狗狸千歳…」
「千歳。お前生気不足だろ、分けてやるよ。」
そういうと顎を掬われ、振り向かされる。
何度見ても整った顔立ちだ…そんな事を考えてる内にその顔が近付き、唇にふにりとした感触があった。
……?……!?
慌てて首を降る。
「アッアンタ何やって!?」
「だから、生気分けてやるんだって。」
今度は両手でガッチリ顔をホールドされた。
ち、力が強い…!
「そないなもん帰って寝たら!」
「帰る気力もねぇだろ?」
「したら!少しだけ寝かせてもろて!」
「グダグダうるさい。」
「んぅっ…!」
再び口付けられれば、にゅるりと歯を割って舌が侵入して来た。
「…ッッ…ん、ぁん…」
侵入して来た舌は上顎を擦り、歯列を辿り、そして僕の舌を絡めとった。
「ぁ、…ッん…んぅ…」
次第に頭がぼやけて来て気付けば自ら舌を絡ませていた。
ふっと鼻で笑われる気配がすると、じゅっと舌を吸われた。
「んんッ…!…ふぁ…ぁっ」
その刺激にビクビクと身体が震える。

「んァ…ッ…ッッ…ふぅ…」
どれくらい経ったのだろう…もう快感で頭がふやけてしまいそうだ…
身体からは力が抜け、相手に支えられる形で何とか身を起こしている。
甘い舌使いに身体はずっと痙攣しっぱなしだ。
不意に舌をカリッと甘噛みされた、その瞬間背筋をビリビリと一際強い快感が流れていった。
「ふぁッッんァ…!」
くたりと完全に身体から力が抜けた。
「おっと…!」
分厚い胸元に抱きとめられる。
「…ッはぁ……はぁ…」
これだから嫌やったんや…
瞬間、股間を触られビクリと肩を揺らす。
「なっ!どこ触って…!」
「いや…イッたのかなと思ったんだが、濡れてる様子ないな…」
これだから!嫌やったんや!
キスだけでドライオーガズムに達するなんて!
「イッとらん!」
「いやでも、反応はイッてたぜ?」
「やかましい!」
胸元をドンッと押し返すと力が抜けた身体はそのままベッドへ戻り、ヘッドボードへ後頭部を打ち付けた。
「~っ!!」
「おいおい、無理すんなって。」
「やかましわ!」
痛む後頭部を擦りながら座り直すと、キッと相手を睨みつけた。
「どないつもりです?」
勿論キスの事だ。助けて貰っておいてこの態度はどうかとも思ったが、相手の真意が見えない。
「どうって…人助け?」
「…人助けで男にキスまでするっちゅうんですか?」
相手は癖なのか顎を撫で思案していたかと思うと、ベッドに座り僕の頬を撫でた。
「…後は好みだったからかな。」
ニヤリと笑むと隙をついて再び唇を重ねてき、今度は重ねるだけで離れていった。
このみ?木の実?……好み?
ボンッと音がするのではないかという勢いで顔が熱くなった、きっと首筋まで真っ赤だろう。
顔を俯けフルフルと身を震わせる。
「ははっ!真っ赤だな。」
バッと顔を上げ声を張り上げる。
「んなアホなことあるかい!!」
その後は引き止める言葉も聞かず、足早にその場を去った。
同じ祓魔師とはいえ、もう顔も合わす事もあるまい。
あの整った顔立ちと鍛えあげられた身体、極上のキスに後ろ髪を引かれないかといわれれば嘘になるが。
決めているのだ『同業者とはそういう関係にならない』と。

しかし、そう時間は置かず再び邂逅してしまうとはこの時の僕は知らない。
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