胡散臭いと言われる僕が溺愛されるなんてありえない!

陌屋

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胡散臭い僕を構って楽しい訳がない!

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狐狗狸は悩んでいた。
やたらと自分の周りに現れ自分の心を掻き乱す存在、香澄という男について…
今まで周りにいなかったタイプの人間なのだ。

「よう、千歳。夜道は危ないぜ?」
思考しているところに割り込んで来た覚えのある声にビクリと肩を揺らす。
肩からトートバッグがずり落ちるのを片手で直しながら振り返る。
そこに居たのは192の自分よりも幾らか高い身長、烏羽色の髪をセンター分けにし、ぱっちりとした二重をゆっくり瞬かせる美丈夫、今自分を悩ませている張本人、香澄 凛太郎だった。
「…こわぁい狼さんでも来るんちゅうんです?」
ふっと鼻で笑い両手を顔の横まで持っていき、がおーっとおどけてみせる。
「狼遣いはお前さんだろ。」
コツコツと先程はしなかった革靴の音を響かせ隣に並べば、前髪をさらりと触れられる。
「送る。」
「…いやいや、僕一人で帰れますさかい。」
「送る。」
…きかん坊やなぁ。
はぁ、と一つ溜め息をつく。
言い出したら聞かないのだ、この人は。
せっかく今夜は『ミックスバー』にでも寄ろうと思ってたんに…。
「…帰りたくないって顔してんな。」
気付けば至近距離に相手の顔があり、咄嗟に飛び退く。
「顔ちっっっかぁ!」
「近所迷惑だぞ?」
慌てて口を塞ぎキョロキョロと辺りを見渡す…大丈夫だった様だ。
バクバクと鳴る心臓が痛い、自分の顔の良さを自覚して欲しいわ…。
そう、何を隠そう僕は面食いなのだ。
特に顔のいい男性に弱いんよなぁ…。
再び思考していると声をかけられた。
「おい。」
「…はい?」
こてりと首を傾げる。
何が面白いのかニヤリと笑うとこう告げられた。
「来るか?ウチ。」
「はァァァァ?」
次こそ「うるさーい!」と野次が飛んで来た。
えらいすんまへん。
萎縮してる間にトートバッグを取られた。
「おら、行くぞ。」
「あっ!ちょ!ちょい待ち!何で僕が香澄さんちに行かなアカンのです!?」
「何でって…」
まじまじと顔を見られてたじろぐ…だから顔がえぇっちゅーの!
香澄さんは自らの顎をひと撫ですると口を開いた。
「一人で居たくない、って顔に書いてあるぞ?」
そう言われ咄嗟に顔を伸ばしたセーターの袖で必死に拭う。
「いや、比喩だけどな?」
ピタリと動きを止めれば、トートバッグを取り返そうと腕を伸ばす…が既で躱され届かない。
「遊んでないで行くぞ~。」
「遊んでへん!」
また慌てて口を塞ぐ。くそぅ~これだからこの人苦手なんや!
思考が読めない上に何故か僕を振り回す…人の気も知らへんで…いや、知らんでえぇ…。
仕方なく後ろをノロノロと着いて行く。
この後、僕は大人しく着いて行ったことを後悔するのである。
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