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ダグラスの婚約者候補

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 ドルーの誕生日パーティーには、大勢の人たちが招待されていた。親戚だけではなく、近隣の知り合いの人たちも多数呼ばれていたようで、ドルーは玄関のそばで招待客を出迎えるのにかかりきりになっていた。
プリシラの方はべったりと婚約者のマイケルにひっついているため、トティは独りでパーティー会場の壁際の椅子に座っていた。

ダグラスがトティが一人でいるのを見つけてこちらに来ようとしていた時、横から二人の女性に話しかけられたのが見えた。よく似ているので、姉妹なのかもしれない。二人とも嫌になれなれしくダグラスに触っている。

トティはちょっとムッとした。
二人の女性のうち片方は知っている。講義に向かっていた最初の日の朝、ぶしつけに話しかけてきた二年生のミランダ・マーロウだ。

ドルーによるとミランダは、ラザフォード侯爵領の北東にあるマーロウ男爵の次女で、あの小太りのパーシヴァル・ディロンと従姉弟なのだそうだ。パーシヴァルとはドルーも父方の従姉弟になるらしく、その関係でミランダにも親戚づらをされて困っていると言っていた。

トティが様子を見ていると、そのミランダのお姉さんらしき人がしつこくダグラスに話しかけているように見える。
そこにセリカ様がやって来て、ダグに何か話したようだ。
ダグは会場を横切って、誰かの所に向かっている。

え…シュゼット?! どうしてシュゼットがここにいるんだろう?
彼女はドルーの友達でもないし、家も東部帯でここからは遠いのに。ダグとシュゼットって、何か関係があるのかしら? ダグに話しかけられて、シュゼットが笑っている。クラスの誰にも心を許していないシュゼットの初めて見た笑い顔に、トティは衝撃を受けていた。

トティが熱心に二人を見つめていると、ドルーが婚約者のジョシュ・ダレニアン卿と一緒にやって来た。

「トティ、独りにしてごめんなさい。やっと挨拶が済んだわ! …ちょっとトティ、聞こえてる?」

どうもトティは意識を飛ばしていたらしい。ドルーが心配そうにトティを覗き込んできた。

「え? ああ、お疲れ様。ねぇドルー、シュゼットがダグと話してるけど、どういう関係なの?」

「僕はちょっと友達と話をしてくるよ。」

ジョシュ・ダレニアン卿は気を使ったのか、トティに軽くお辞儀をして、この場から去って行った。
ドルーはジョシュに軽く頷いて、トティの隣に腰かけた。


「これは誰にも言わないでね。シュゼットは病気になる前に、ダグ兄様と結婚の話があったの。シュゼットのお父様のマースデン伯爵は東部帯の有力貴族でね、うちの父との関係を強化したいから私たち兄弟に次々と結婚の話を持ってきてたの。でもシュゼットが病気になってから、その話を取り下げてきたのよ。身体が弱い娘を押し付けるのを遠慮されたんだと思う。でも、ダグ兄様がわざわざ話をしに行っているということは、少しは結婚を前向きに考える気になったのかしら? 侯爵になってこの屋敷を継いだら、奥さんがいたほうがいいものね。バカでかいから管理が大変なのよ、ここ。ランドリーさんも………」

それから後のドルーの話をトティは聞いていなかった。

ダグラスとシュゼットが結婚する?
そう言われてみればお似合いだ。背が高くてほっそりしているシュゼットは、ダグラスと並んだ時にちょうどいい。
私がダグの隣に並んだら、大人と子供に見えるね。

そう考えたら、何故かトティはがっくりと落ち込んだ。



◇◇◇



なんとなくパーティー会場にいるのが息苦しくなってテラスに出ていたら、リベルがトティを呼びに来た。

「トティ、すごいよここ! 湖の真ん中の島にペガサスが住んでるんだよ! ポチっていうんだって。友達になっちゃった。それにどこまでも続くコスモス畑があるんだ。あたし、ずっとここに住みたいなぁ~」

「リベル~、本当にあなたはのん気ね。」

たわいのないリベルの話を聞いていると、ホッとする。
けれど近くにいた人たちは、トティが独りで話をしていると思ったのか、ジロジロと見てきたので、庭に出てリベルが言っているコスモス畑を見に行くことにした。

薄暗くなってきた広い庭を歩いて行くと、湖の対岸に沈んでいく夕日の最後の残照と東の空に瞬き始めた青白いセデスの星が見えた。
よく手入れされている庭が途切れた辺りから湖に向かう一面がコスモス畑になっている。
夕暮れの冷たくなってきた風がコスモスの花を一斉に揺らしていた。

「うう、少し寒くなって来たわ。九月も終わるし秋も深まってきたわね。」

「私が温めてさしあげますよ、トリニティ。」

まったりとしたどこかで聞いたことのある声が聞こえてきたかと思ったら、トティの背中に急に腕が回された。
驚いて隣を振り仰ぐと、そこには気持ち悪く微笑むパーシヴァル・ディロンがいた。
ゾクリとして鳥肌が浮いてくる。

「放して…腕をどけてくださる?」

「恥ずかしがらなくてもいいですよ。私たちは結婚するんですから。」

「はぁ?! 何を言ってるの? そんな話は知りません。放しなさい、パーシヴァル。言うことを聞かないと護衛を呼びますよ。」

トティは段々とムカついてきて、皇女の威厳を込めてパーシヴァルに命令した。

「そっちこそ、何を言ってるんだ! いいか、僕は夫になる男だぞ。大人しく僕の言うことを聞け!」

パーシヴァルは肩の腕をどけはしたが、トティに向かって怒鳴りつけてきた。
トティはやむなく風魔法でパーシヴァルを吹き飛ばして、光魔法で忍びの者を呼ぶ閃光弾を打ち上げた。

すぐに黒い影が二つ飛んできて、トティとパーシヴァルの間に入った。

「姫様、こやつをいかがいたしましょう?」

「ラザフォード侯爵邸に連れていって。そして侯爵閣下に事の次第を報告しておいてもらえるかしら。」

御意ぎょいに。」

パーシヴァルは二人の忍びに両腕を取られて連れていかれる間中、訳の分からないことをわめいていたが、屋敷が近づいてくると外聞をはばかったのか、静かになったようだった。


そんなパーシヴァルとすれ違うように、ダグラスがリベルに引っ張られてやって来た。

「なんだあれ? トティが危ないってリベルが言ってたけど、パーシヴァルに何かされたのか?!」

ダグラスはカンカンに怒っているようだった。

「何かって…私にもよくわからないの。止めてって言っても聞かないし。話にならないから、護衛を呼んだのよ。」

ダグは心配そうにトティの服や身体を見て、酷いことは起こらなかったと思ったのだろう。少し安心してため息をついた。

「暗くなってきてるから、家に入ろう。年頃の女の子が一人で庭に出て来ちゃダメだよ。何かあったらどうするんだ。」

「ダグ、ハグしてくれる?」

小さく震え出した心細そうなトティの声を聞いて、ダグラスは大きな身体で優しくトティを抱いてくれた。

「あったかい。」

トティは安心してダグラスの胸にしがみついた。
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