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ダグラスの事情

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 ドルーのお母様のセリカ様がその場の雰囲気を察して、ダグラスだけを残して去っていったのだが、トティはそれさえも気づいていなかった。

どうして最初に会った時に名乗ってくれなかったの?
あのダサい研究者の姿は何だったの?

千々ちぢに乱れた気持ちを抱えて、トティは様変わりしてしまったダグラスのハンサムな顔を、呆然として見つめ続けていた。


「説明するから、そこに座ってもいい?」

ダグが肩をすくめて、苦笑気味にトティに尋ねてきた。

「は? …あ、ええ、もちろん。どうぞ。」

「僕も驚いたんだよ。どこかの地方貴族のちっこい娘さんかな?と思っていた子が、隣国の皇女様だったんだから…」

「ちっこいは、余計でしょ!」

「ごめん。でも今日、そのことがわかってからよく考えると、なるほどなと思ったよ。妖精のリベルって、オディエ国の北部のムーンランドから来たんだな。」

「ええ、特殊小包でね。」

「うおっ! 金の飛び竜が運んできたのかぁ~ 見てみたいなぁ。」

「クスッ、やっぱりドルーと兄妹なのね。同じことを言ってる。」

憧れるように金の飛び竜のことを想像する様子は、年上なのに可愛らしく見えてくる。


「そのドルーだけどさ、妹も今週初めの曜日の夜に家に呼ばれたことは知ってるだろ?」

「うん。おじい様のエクスムア公爵がご病気だったんでしょ?」

「ああ。祖父も今回ばかりは病気が長引きそうなんだ…歳だしね。そうなると9月の終わりにある叙勲式のことが問題になってくる。」

「叙勲式?」

「うん、君も王族なら知ってるだろ? 貴族の爵位を国中の貴族に周知させるには、この機会が最適だ。つまり、おじい様は引退を選択されたんだよ。そうなると困るのは、僕だ。もう一年は大学で研究できると思っていたけど、ラザフォード侯爵の爵位を継がなければならなくなった。」

「……?!」

「フッ、驚くよね。ハァー、ラザフォード侯爵の名前はオヤジさんがえらく有名にしてくれちゃったから、継ぐのが重たいんだよな~」

ダグは、少し凹んでいるように見えた。ここのところ引き継ぎのために、領地の仕事を教え込まれていたらしい。それが落ち着いたら、大学に戻って研究の引継ぎをするそうだ。

……大変だね。

けれどお父様のラザフォード侯爵の方は、ダグよりも多忙を極めているらしい。ラザフォード侯爵領にある魔法科学研究所や会社関連をすべてエクスムア公爵領に移さなければならないようだ。

……う、想像しただけでうんざりしそう。


そうか、ダグがあの畑からいなくなっちゃうんだ。
寂しい……もう二度と会えないのかな?


この時、トティたちが話している様子を、ジュリアン国王陛下がじっと見ていたことは、二人とも気づいていなかった。



◇◇◇



 トティの歓迎パーティーが終わってからすぐに、ドルーの誕生日がやってきた。

「ジャジャーン! お先に、13歳になりましたぁ~!」

私たちの居間で、ドルーが月桂樹の冠をかぶって、トティとプリシラに深々とお辞儀をしてくれた。

「「おめでとう、ドルー!」」

トティたちもお小遣いを出し合って用意したジュースで乾杯して、ドルーの女性としてのプレ成人を祝った。

「ありがとうございます。プリンセスのお二人に祝って頂けるなんて、光栄ですわ。」

ドルーがふざけて、先日の歓迎パーティーで会ったコールマン公爵夫人の、鼻にかかったもったいぶった言い方をマネたので、プリシラと二人で笑いこけてしまった。

「似てるぅ~」

「中央劇場の舞台に立てるわよ、ドルー。」

「フフッ、うちのマイケル兄様はビショップ公爵の真似が上手いわよ。今度みせてもらったら?プリシラ。」

言われたプリシラは嫌な顔をして首を振った。

「うわぁ、イヤだわ。あんなに素敵なマイクがよぼよぼのおじいさんになるなんて。」

「素敵?! ちょっとプリシラ、あなた目が悪いんじゃない?」

「そうね、ビショップ公爵はよぼよぼじゃないわ。あの人は矍鑠かくしゃくとしてるわよ。」

「もう、トティったら! そこなの?!」

ツッコむところが間違っていると、ドルーに笑われた。


こんな笑いの絶えない楽しい誕生日パーティーになったのだが、ドルーの家でする大掛かりな誕生日パーティーがもう一度あるらしい。

最近は15歳の成人を迎えてから結婚する人が多いけれど、昔は女性が13歳になると結婚できたそうだ。
そんな慣習から、この13歳の誕生日は女性にとって節目とされているので、盛大なお祝いをする家が多い。このあたりは、オディエ国とも事情が似ている。

ドルーも今は貴族学院にいるため、誕生日当日の今日は、家や親戚などからの手紙が送られてきただけだが、月末の感謝の日に親戚の皆が集まって、大掛かりな誕生日パーティーを催すそうだ。
トティとプリシラもラザフォード侯爵領のお宅へ泊りがけで招待されている。

今度こそ、ラザフォード侯爵夫妻と話をしないとね。
先日の歓迎パーティーでは色々な話を聞くせっかくの機会だったのに、ダグのあまりの変身ぶりに驚き過ぎてしまい、なんの成果を上げることもできなかった。

ラザフォード侯爵夫妻と話をすれば、ファジャンシル王国の発展のきっかけが見えてくるかもしれない。
まずはお父様たちに言われた指令を達成しないとね。
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