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第三章 飯屋
ミケ
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セリカがラザフォード侯爵邸に帰って来てしばらくした頃、青い飛び竜がやって来た。
その時ちょうど執務室を訪れていて、ダニエルの仕事が終わるのを待ちながら、セリカはソファでウトウトしていた。
どうもダレニアン伯爵領に旅行してから、疲れが溜まってしまったのかちょっと時間ができると寝てしまう。
秘書のワットの話し声で、セリカは目を覚ました。
「ちょっと待ってくれ、ミコト。奥様が会いたいと言っておられたんだ。」
セリカは目をこすりながら、小さなあくびをした。
「ミコト……? えっ、もしかして飛び竜が来てるの?!」
たちまちハッキリと目が開いた。
執務室の外には、小人の村で会った女の子が立っていた。
「ええ?! ミコトって、あなただったの?」
「久しぶり。また会ったな。今日の手紙は奥様宛だ。」
セリカはミコトという名前から、ラザフォード侯爵家の専属郵便配達人になったのは男の子だとばかり思っていた。
…この子がミコトなら、小人の村長さんもあの時にそう言ってくれればいいのに。
どうも小人族は、言葉数が少ないようだ。
ミコトが立っている向こうを見ると、今までに見た飛び竜より一回り小さい青色の竜がこちらを見ていた。
「飛び竜が小さいのね。」
「そうだ。ミケはまだ子どもだからな。」
「ミケ?」
「ミケランジェロって言うんだ。急ぐから行くな。」
ミコトはそう言い残すと、ワットから預かった手紙を袋の中に入れて、ミケに一つ鞭をくれるとみるみるうちに青空に舞い上がった。
そして高く晴れ渡った秋の空に、吸い込まれるように消えていった。
飛び竜の名前が、ミケだって。
― なんとポチの次は、ミケなんだね。
でもフフフッ、面白いかも。
奏子は、またひとしきり一人だけでウケていた。
セリカに来た手紙を見ると、差出人の名前がフェルトン子爵 クリストフ・フェルトンとある。
「あら、クリストフ様が私に手紙をくれるなんて珍しいな。」
マリアンヌさんやペネロピは元気かしら?と思いながら、封蠟を剝がして中の手紙を読んでみた。
『親愛なる義妹 セリカ、元気ですか? 先日はダレニアン伯爵家に帰ってきていたのに、会いに行けなくて申し訳ない。7月35日にマリアンヌに子どもが生まれました。』
うわぁーー! 赤ちゃんが産まれたんだって!
『元気な男の子です。名前をジョシュとつけました。ティムが興奮して、大喜びしています。マリアンヌも2人目だったせいか、安産でした。秋の叙勲式に連れていけたらいいなと思っています。ダニエルにも伝えておいてください。』
「まぁ、お祝いを送らなきゃね、ダニエル!」
セリカが大声を出したので、ダニエルも書きものをしていた手を止めて、顔を上げた。
「どうした? 子どもが産まれたのか?」
「35日に産まれたんだって! 男の子で、ジョシュ君ていう名前らしいわ。可愛い名前ねっ。」
「クリスは自分の名前が長いからか、子どもの名前を短くする傾向にあるな。学生時代に、クリストフなんて長いから、クリスでいいじゃんと言ってたからな。困ったやつだ。」
そんなことを言いながらも、ダニエルの顔もほころんでいる。
― カールのところもだけど、おめでた続きね。
いいことが続くのは、いいじゃない?
セリカはお祝いを何にしようかと考え始めた。
― スタイなんてどう?
縫い方は簡単で、可愛いものができるわよ。
よだれかけね。
それ、いいかも。
刺繍は何にしようかしら?
クマちゃん?
それともイヌがいいかな?
― あそこは双頭の鷲が家紋だから、鷲もいいかもよ。
…ええ? 可愛くない。
とにかく布を買いに行かないとね、と思ったセリカだった。
◇◇◇
ダニエルと夕方の散歩から帰って来たら、領地管理人のヒップスが私たちを探していた。
「いいニュースですよ! 金物屋のアダムが、うちで働くことを了承してくれました。」
「ダンカンか?」
ダニエルの問いに、ヒップスは頷きながら持っていた手紙を渡した。
「さすがダンカンさんですね。あの人が執事を辞めたのは惜しいなぁ。私がラニア邸からの帰りにフォクスの街に寄ってアダムを口説いた時なんて、金槌を投げられそうな雰囲気でしたからね。あの男をこちらに連れてくるのは無理だと思ってたんですよ。」
どうやらダニエルがアダムに侯爵家のお抱え職人として働くつもりはないか?と尋ねたのは、かなり本気の勧誘だったようだ。
「鍋を作ってもらうにしては、本格的に口説いてたのね。宿屋のダンカンさんまで巻き込んでたなんて…。」
「ああ、鍋だけじゃなくてうちが開発した電気機器などの細工物もやってもらおうと思ってるんだ。」
なるほど~。
それは…いくら人手があっても良さそうね。
ましてやアダムほどの腕なら、喉から手が出るほど欲しい人材だろう。
アダムがこっちに来てくれるのなら、色々と頼めそうね~。
― なんだか忙しくなりそう。
夕食は、秋野菜をたっぷりと入れたクリームシチューと、醤油とみりんを使ったレバーの甘辛煮こみだった。
シチューにはパンが合うけど、レバー料理にはご飯の方がいい感じがする。
「最近はこんなおかしな組み合わせのお試し料理が多いな。」
ダニエルも戸惑っている。
「ごめんねー。たぶんディクソンたちも醤油を使ってみたいんだと思うのよ。」
「いや、一つ一つの味はいいんだけどな…。」
今度、ディクソン料理長に注意しといた方がいいわね。
せめて国ごとに統一した料理にした方が食べやすいかも。
そんな忙しいセリカたちに、神様は警鐘を鳴らしたのかもしれない。
無理がたたったのかダニエルが風邪をひいてしまったのだ。
その時ちょうど執務室を訪れていて、ダニエルの仕事が終わるのを待ちながら、セリカはソファでウトウトしていた。
どうもダレニアン伯爵領に旅行してから、疲れが溜まってしまったのかちょっと時間ができると寝てしまう。
秘書のワットの話し声で、セリカは目を覚ました。
「ちょっと待ってくれ、ミコト。奥様が会いたいと言っておられたんだ。」
セリカは目をこすりながら、小さなあくびをした。
「ミコト……? えっ、もしかして飛び竜が来てるの?!」
たちまちハッキリと目が開いた。
執務室の外には、小人の村で会った女の子が立っていた。
「ええ?! ミコトって、あなただったの?」
「久しぶり。また会ったな。今日の手紙は奥様宛だ。」
セリカはミコトという名前から、ラザフォード侯爵家の専属郵便配達人になったのは男の子だとばかり思っていた。
…この子がミコトなら、小人の村長さんもあの時にそう言ってくれればいいのに。
どうも小人族は、言葉数が少ないようだ。
ミコトが立っている向こうを見ると、今までに見た飛び竜より一回り小さい青色の竜がこちらを見ていた。
「飛び竜が小さいのね。」
「そうだ。ミケはまだ子どもだからな。」
「ミケ?」
「ミケランジェロって言うんだ。急ぐから行くな。」
ミコトはそう言い残すと、ワットから預かった手紙を袋の中に入れて、ミケに一つ鞭をくれるとみるみるうちに青空に舞い上がった。
そして高く晴れ渡った秋の空に、吸い込まれるように消えていった。
飛び竜の名前が、ミケだって。
― なんとポチの次は、ミケなんだね。
でもフフフッ、面白いかも。
奏子は、またひとしきり一人だけでウケていた。
セリカに来た手紙を見ると、差出人の名前がフェルトン子爵 クリストフ・フェルトンとある。
「あら、クリストフ様が私に手紙をくれるなんて珍しいな。」
マリアンヌさんやペネロピは元気かしら?と思いながら、封蠟を剝がして中の手紙を読んでみた。
『親愛なる義妹 セリカ、元気ですか? 先日はダレニアン伯爵家に帰ってきていたのに、会いに行けなくて申し訳ない。7月35日にマリアンヌに子どもが生まれました。』
うわぁーー! 赤ちゃんが産まれたんだって!
『元気な男の子です。名前をジョシュとつけました。ティムが興奮して、大喜びしています。マリアンヌも2人目だったせいか、安産でした。秋の叙勲式に連れていけたらいいなと思っています。ダニエルにも伝えておいてください。』
「まぁ、お祝いを送らなきゃね、ダニエル!」
セリカが大声を出したので、ダニエルも書きものをしていた手を止めて、顔を上げた。
「どうした? 子どもが産まれたのか?」
「35日に産まれたんだって! 男の子で、ジョシュ君ていう名前らしいわ。可愛い名前ねっ。」
「クリスは自分の名前が長いからか、子どもの名前を短くする傾向にあるな。学生時代に、クリストフなんて長いから、クリスでいいじゃんと言ってたからな。困ったやつだ。」
そんなことを言いながらも、ダニエルの顔もほころんでいる。
― カールのところもだけど、おめでた続きね。
いいことが続くのは、いいじゃない?
セリカはお祝いを何にしようかと考え始めた。
― スタイなんてどう?
縫い方は簡単で、可愛いものができるわよ。
よだれかけね。
それ、いいかも。
刺繍は何にしようかしら?
クマちゃん?
それともイヌがいいかな?
― あそこは双頭の鷲が家紋だから、鷲もいいかもよ。
…ええ? 可愛くない。
とにかく布を買いに行かないとね、と思ったセリカだった。
◇◇◇
ダニエルと夕方の散歩から帰って来たら、領地管理人のヒップスが私たちを探していた。
「いいニュースですよ! 金物屋のアダムが、うちで働くことを了承してくれました。」
「ダンカンか?」
ダニエルの問いに、ヒップスは頷きながら持っていた手紙を渡した。
「さすがダンカンさんですね。あの人が執事を辞めたのは惜しいなぁ。私がラニア邸からの帰りにフォクスの街に寄ってアダムを口説いた時なんて、金槌を投げられそうな雰囲気でしたからね。あの男をこちらに連れてくるのは無理だと思ってたんですよ。」
どうやらダニエルがアダムに侯爵家のお抱え職人として働くつもりはないか?と尋ねたのは、かなり本気の勧誘だったようだ。
「鍋を作ってもらうにしては、本格的に口説いてたのね。宿屋のダンカンさんまで巻き込んでたなんて…。」
「ああ、鍋だけじゃなくてうちが開発した電気機器などの細工物もやってもらおうと思ってるんだ。」
なるほど~。
それは…いくら人手があっても良さそうね。
ましてやアダムほどの腕なら、喉から手が出るほど欲しい人材だろう。
アダムがこっちに来てくれるのなら、色々と頼めそうね~。
― なんだか忙しくなりそう。
夕食は、秋野菜をたっぷりと入れたクリームシチューと、醤油とみりんを使ったレバーの甘辛煮こみだった。
シチューにはパンが合うけど、レバー料理にはご飯の方がいい感じがする。
「最近はこんなおかしな組み合わせのお試し料理が多いな。」
ダニエルも戸惑っている。
「ごめんねー。たぶんディクソンたちも醤油を使ってみたいんだと思うのよ。」
「いや、一つ一つの味はいいんだけどな…。」
今度、ディクソン料理長に注意しといた方がいいわね。
せめて国ごとに統一した料理にした方が食べやすいかも。
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