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第一章 出会い

打ち明けざるを得なくなました

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14刻の鐘が鳴り、家族で夕食を食べようとしていた時に店の扉が叩かれた。

「すみません。飯屋はもう閉まってますけど。」

弟のカールが出てくれる。


「ラザフォードだ。客人を連れて来たので、少し時間を貰えないだろうか。」

侯爵様の扉越しのくぐもった声が店の奥まで聞こえてきた。


どうやらおすすめを食べに帰って来たようだ。

でも客人というのはいったい誰だろう。


父さんが黙って立って厨房に行く。

取り置いていたソースでスパゲティを作ってくれるようだ。


カールが扉の鍵を開けると、背の高い青年が2人続いて店に入って来た。


一人はラザフォード侯爵様で、もう一人はもしかして…ダレニアン伯爵の息子さんではないだろうか?

新年の挨拶の時に庁舎のバルコニーに立っていたのを遠くから見たことがあるだけだから確信は持てないが、栗色の綺麗な髪に見覚えがある。


2人が店の奥のテーブルのところまで来たので、セリカとマムも立ち上がり、ひざを折って挨拶をする。

「食事時にすまない。あちこちに連絡するのに手間取って、時間がかかってしまった。こちらは知っていると思うが、友人のクリストフ・ダレニアン卿だ。」

「クリストフです。よろしく。」


やはり、領主さまの息子さんだ。

近くでお会いするのは初めてなのでドキドキする。


「セリカです。こちらは母親の…。」

「マム・トレントです。応対に出たのは息子のカールです。主人のダダは今、厨房でスパゲティを作っていますが、侯爵様は食べられますか? ダレニアン卿はいかがなさいますか?」


「ダニエルは食べるんだろ? 僕もなにか残り物があったら出してくれないか? ダニエルが美味い店を見つけたと言って通い詰めてるから気になってたんだ。」

ダレニアン卿はそんなことを言いながら、椅子をひいて私たちが食事をするテーブルに座ってしまった。

母さんと顔を見合わせたが、何も言うなと首を振るので、セリカはそのまま黙って立っていた。


カールが父さんの所にダレニアン卿の注文を伝えに行ってくれる。

「2人とも、席についてくれないか? 食事の前に話せることだけを話しておく。」

侯爵様がそう言うので、セリカと母親はおずおずと椅子をひいて侯爵様たちの前に座った。


「初めに言っておく、今日の手紙の一件の大元の原因は、ここにいるクリストフだ。」

「大事になってしまってすまないね。ジュリアンと念話で話してる時につい口が滑っちゃって。ダニエルに散々絞られたから勘弁してほしい。」

ダレニアン卿は申し訳なさそうに頭を下げた。

貴族に頭を下げられたことにも驚いたが、私たち2人には何の話をしているのかさっぱりわからない。


戸惑っているセリカたちの様子を見て、侯爵様が説明をしてくれた。

「今、クリスが言ったジュリアンというのは、この国の第一王子ジュリアン・テレンス・ファジャンシルのことだ。」

「は?」

もしもし、第一王子って……王様の子どものこと?


「私たち3人は学友でね。私とジュリアンは従兄弟なんだ。ここは王都から離れているから知らないだろうが、私の父エクスムア公爵と現国王ファジャンシル15世は兄弟になる。父は三男だったから母方の家を継ぐために臣下に下ったんだ。」

「国王……。」


なんか話が大きすぎて受け止められないかも。

でもお父様が「公爵」なのにどうしてラザフォード様は「侯爵」なのかしら。

貴族のことはさっぱり意味がわからない。


「公爵家は長い歴史の中で係累が途絶えたいくつかの爵位と領地を持っていてね、嫡男が継ぐ最初の領地がラザフォード侯爵領なんだよ。」

「ああ、それで。」

「そう。それで私の今の名前がラザフォード侯爵になっているというわけだ。」


「そんな家の係累のことよりダニエルの女嫌いを説明すべきなんじゃないか。」

「クリス…。平民は貴族のことをあまり知らないから、先ずはそこからだよ。」


2人がそんなことを言っている間に、父さんとカールが出来立てのスパゲティやピザ、サラダやエールなどを持って来てくれた。


私たち家族にも一緒に食べて欲しいというので、6人で揃って食事を始めた。

緊張で正直、食べ物の味がよくわからない。

いつもはかき込むように食べているカールと父さんも、チビチビとお上品に食べ物を口に入れている。


ある程度、皆のお腹が満たされたところで、侯爵様がエールを片手に先程の続きを説明してくれた。

「さっき言ったように、クリスがジュリアン王子に口を滑らせたお陰で、私がセリカに婚約指輪を渡していることが王家にバレてしまった。」

「「「は?」」」


両親と弟の3人が、心底驚いてラザフォード侯爵の顔を凝視した後に、無言でセリカの方を問い詰めるように見つめた。

「父さん、母さん、これには理由があるのよ。」

「そうだ。婚約指輪と言ってもセリカを守るためのものだ。セリカが魔法を使えることで、困った男に目をつけられてしまってね。」


「アネキが魔法?!」

カールが持っていたスプーンを落として、飛び上がった。

父さんと母さんはこの世の終わりのような顔をして、がっくりと肩を落としている。

「父さんも母さんも、アネキが魔法を使えることを知ってたの?!」

「カール、黙っててごめんね。魔法が使えることがバレたら、貴族に養子に出されるかもしれないと思って、怖くて誰にも言ってなかったのよ。」

「姉さん……。」


「そうか、弟君は知らなかったんだね。うーん、もうしばらくは黙っててもらったほうがいいかもしれない。」

「はい……わかりました。」


「あの時、馬車にコルマ男爵が乗ってなかったらこんなことにはならなかったんだが。」

「コルマ男爵様というのは西の領地の?」

黙っていた父さんが顔をあげて侯爵様を見る。


「ああそうだ。セリカは男の子を助けるために魔法を使ってしまったんだけど。その時の馬車にちょうどコルマ男爵も一緒に乗っていたんだ。用事があったので、私も付き添ってダレニアン伯爵邸に向かっていたんだよ。しかしこの男がセリカを手籠めにするつもりだと知って、気の毒になってね。それで、ここを訪ねてセリカに守りの指輪を渡すことになったというわけだ。」

「まあ…侯爵様。そんなこととはつゆ知らず、お礼も申しませんで失礼いたしました。」

母さんは侯爵様を拝むように頭を下げている。


「奥さん、お礼を言うのはちょっと早いかも知れないよ。こっちの方がもっとひどい面倒ごとになったかも。」

「ク・リ・ス! 誰のせいだと思ってる!」

「ヤバっ。……悪かったって。」


手籠めにされるよりもひどい面倒ごとなんてあるのだろうか?

けれど、それから侯爵様が話してくれたことを聞いて、家族全員が真っ青になったのだった。 
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