神社のゆかこさん

秋野 木星

文字の大きさ
上 下
21 / 29
第二章 ゆかこさんの一年間

師走

しおりを挟む
 最近のゆかこさんは亀のようです。

軽いフリースの上着の上に薄手のダウンベストをつけて、その上に綿入れ半纏はんてんを羽織っています。

「おお、寒い。なかなかコタツから出られないわね。」

そうですね、ゆかこさん。
一旦入ると誰をも捉えて離さない。それがコタツというものです。


ゆかこさんは、ボリボリと煎餅せんべいを食べ終わると、熱いほうじ茶をフーフー吹きながらズズッとすすって飲みました。

「ああ、美味しい。冬はコタツで煎餅ね。」

コタツで食べるのはミカンじゃないんですか?

「あら、それもこれから食べるのよ。」

そんなに食べるばかりしてると雪だるまみたいになっちゃいますよ。

「いいのいいの。後で外を走るから。」


 今日は町のマラソン大会です。町の中心にある役所前広場には大勢の人たちが集まっていました。

「思ったより盛況のようね。」

そうですね、スタート地点にはもう選手が並んでいます。

「それじゃあ、私も行ってくるわ。」

ゆかこさんは大勢の選手と一緒に、号砲を合図に飛び出しました。


北風に応援を受けたゆかこさんはぐんぐんスピードを上げて前を走っている選手を追い抜いていきます。

「行けぇーーーー!」
「頑張れっ!!」

沿道では町の人たちが声を枯らして応援しています。
子ども達も旗を振りながら過ぎ行くランナーに声を掛けます。


ゆかこさんはトップを走っている選手に追いつくと、一気にググッと抜き去って行きました。

「うふふ、このまま12月を迎えに行ってくるわね。」

町中の人たちの声援のエネルギーが大きな塊になってゆかこさんを包み込みます。

青く晴れ渡った空に向かってゆかこさんはぐんぐん登って行きました。


宇宙まで飛んで行ってクリスマスの星を捕まえたゆかこさんは、西の空がオレンジに染まる頃やっと神社に帰って来ました。

「やれやれ、遠出をしちゃったわ。」

星はどこにあるんですか? ゆかこさん。

もみの木のてっぺんに引っかけといたの。」

そうですか。でも良かったですね、今年も師走しわすがやって来ました。


「後一か月で今年もお終いか。」

大掃除も始まりますね。初詣の準備にも取り掛からないと。

「それはまた追々ね。」

ゆかこさんはそう言って、またごそごそとコタツに潜り込んでいきました。


冴え渡った空の上では星のイヤリングをつけたお月様が、しょうがないわねと笑っていましたよ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

桃の木と王子様

色部耀
児童書・童話
一口食べれば一日健康に生きられる桃。そんな桃の木に関する昔話

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

占い探偵 ユーコちゃん!

サツキユキオ
児童書・童話
ヒナゲシ学園中等部にはとある噂がある。生徒会室横の第2資料室に探偵がいるというのだ。その噂を頼りにやって来た中等部2年B組のリョウ、彼女が部屋で見たものとは──。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【完結】だからウサギは恋をした

東 里胡
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞応募作品】鈴城学園中等部生徒会書記となった一年生の卯依(うい)は、元気印のツインテールが特徴の通称「うさぎちゃん」 入学式の日、生徒会長・相原 愁(あいはら しゅう)に恋をしてから毎日のように「好きです」とアタックしている彼女は「会長大好きうさぎちゃん」として全校生徒に認識されていた。 困惑し塩対応をする会長だったが、うさぎの悲しい過去を知る。 自分の過去と向き合うことになったうさぎを会長が後押ししてくれるが、こんがらがった恋模様が二人を遠ざけて――。 ※これは純度100パーセントなラブコメであり、決してふざけてはおりません!(多分)

処理中です...