20 / 29
第二章 ゆかこさんの一年間
七五三
しおりを挟む
ビュービューと吹いていた風が止んだ朝、ゆかこさんは綿入れの半纏を着て神社の境内に出てきました。
「おお寒い。それに何だか空気の匂いが変わったわね。」
ゆかこさんは、冷たく冴えた空気を胸いっぱいに吸い込みました。
そうですね、ゆかこさん。もう立冬になりました。
「あらあら、あっという間に一年が過ぎてゆくみたいね。」
庭の満開の山茶花が、ゆかこさんの言葉に頷いた途端に花びらをポロポロとこぼしました。
神社の庭には赤と白の山茶花が植えてあります。
今はフリルのような花びらの白い花が雪のように咲いています。
赤い花芽は、ひと足遅れてやっとほころんだところです。
紅白でおめでたいですね、ゆかこさん。
「そうね。そろそろ七五三参りの子ども達がやって来る時期だわね。」
今年は何人の氏子が生まれるのかしら。
ゆかこさんは毎年この時期を楽しみにしているのです。
子どもの数が減ったと言われていますが、まだこの町にはたくさんの子ども達の声が響き渡っているのでした。
リンリンリンと可愛らしい鈴の音が聞こえてきます。
お母さんとお父さんに両方から手を引かれた三歳の女の子が、赤い着物を着て階段を登ってきました。
髪飾りに小さな鈴が二つ付いているようです。
「よいしょ、よいしょ。」
慣れない着物姿で懸命に階段を登る様子を、後ろからついて来ているおばあちゃんたちが、ニコニコと笑って応援しています。
どうやらこの子のお兄ちゃんも五歳のお祝いのようで、蝶ネクタイのカッコいいスーツを着て、妹の分の千歳あめを持ってやっています。
「今年はこの家族が一番乗りね。お兄ちゃんの顔には見覚えがあるわ。」
あの時お父さんに抱っこされてきた小さな赤ちゃんが、こんなに大きくなったんですね。
お兄ちゃんが三歳の七五三に袴姿で参って来た時には、この女の子はまだよちよち歩きの赤ちゃんだったのです。
それが今日は山の階段を一人で登って来たのでした。
「一年どころか、二年もあっという間のようね。」
ゆかこさんは、優しい顔で子ども達を見ています。
山茶花の白い花びらと赤い蕾を手にとって、二人の上に浮かべました。
それはフッと透明になると二人の身体の中にするりと入って行きました。
「これで安心ね。」
そうですね、ゆかこさん。病気や災厄からこの子たちを守ってくれることでしょう。
この家族は神社に参ると賑やかに写真を撮って帰って行きました。
田んぼに野焼きの煙が上がっています。
風に乗って、懐かしい焚火の匂いが漂ってきました。
「クンクン、このほんのり焦げた空気も冬の始めの匂いだわね。」
焼き芋をしているかもしれませんね、ゆかこさん。
「小腹がすいたから分けてもらいましょう!」
ゆかこさんはビュンッと飛び上がると、田んぼに舞い降りていきました。
ホッカホカの焼き芋をぱっくりと二つに割って、アチチッと頬張るゆかこさんは子どものような顔をしています。
軍手をはめて野焼きをしていたおじいさんもそんなゆかこさんを見て、豪快に笑っていました。
「そんなに急いで食べんでも、誰も惜しまんよ。」
冬の太陽が、羨ましそうにゆかこさんを照らしていましたよ。
「おお寒い。それに何だか空気の匂いが変わったわね。」
ゆかこさんは、冷たく冴えた空気を胸いっぱいに吸い込みました。
そうですね、ゆかこさん。もう立冬になりました。
「あらあら、あっという間に一年が過ぎてゆくみたいね。」
庭の満開の山茶花が、ゆかこさんの言葉に頷いた途端に花びらをポロポロとこぼしました。
神社の庭には赤と白の山茶花が植えてあります。
今はフリルのような花びらの白い花が雪のように咲いています。
赤い花芽は、ひと足遅れてやっとほころんだところです。
紅白でおめでたいですね、ゆかこさん。
「そうね。そろそろ七五三参りの子ども達がやって来る時期だわね。」
今年は何人の氏子が生まれるのかしら。
ゆかこさんは毎年この時期を楽しみにしているのです。
子どもの数が減ったと言われていますが、まだこの町にはたくさんの子ども達の声が響き渡っているのでした。
リンリンリンと可愛らしい鈴の音が聞こえてきます。
お母さんとお父さんに両方から手を引かれた三歳の女の子が、赤い着物を着て階段を登ってきました。
髪飾りに小さな鈴が二つ付いているようです。
「よいしょ、よいしょ。」
慣れない着物姿で懸命に階段を登る様子を、後ろからついて来ているおばあちゃんたちが、ニコニコと笑って応援しています。
どうやらこの子のお兄ちゃんも五歳のお祝いのようで、蝶ネクタイのカッコいいスーツを着て、妹の分の千歳あめを持ってやっています。
「今年はこの家族が一番乗りね。お兄ちゃんの顔には見覚えがあるわ。」
あの時お父さんに抱っこされてきた小さな赤ちゃんが、こんなに大きくなったんですね。
お兄ちゃんが三歳の七五三に袴姿で参って来た時には、この女の子はまだよちよち歩きの赤ちゃんだったのです。
それが今日は山の階段を一人で登って来たのでした。
「一年どころか、二年もあっという間のようね。」
ゆかこさんは、優しい顔で子ども達を見ています。
山茶花の白い花びらと赤い蕾を手にとって、二人の上に浮かべました。
それはフッと透明になると二人の身体の中にするりと入って行きました。
「これで安心ね。」
そうですね、ゆかこさん。病気や災厄からこの子たちを守ってくれることでしょう。
この家族は神社に参ると賑やかに写真を撮って帰って行きました。
田んぼに野焼きの煙が上がっています。
風に乗って、懐かしい焚火の匂いが漂ってきました。
「クンクン、このほんのり焦げた空気も冬の始めの匂いだわね。」
焼き芋をしているかもしれませんね、ゆかこさん。
「小腹がすいたから分けてもらいましょう!」
ゆかこさんはビュンッと飛び上がると、田んぼに舞い降りていきました。
ホッカホカの焼き芋をぱっくりと二つに割って、アチチッと頬張るゆかこさんは子どものような顔をしています。
軍手をはめて野焼きをしていたおじいさんもそんなゆかこさんを見て、豪快に笑っていました。
「そんなに急いで食べんでも、誰も惜しまんよ。」
冬の太陽が、羨ましそうにゆかこさんを照らしていましたよ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
瑠璃の姫君と鉄黒の騎士
石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。
そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。
突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。
大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。
記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。
小さな王子さまのお話
佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』……
**あらすじ**
昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。
珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。
王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。
なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。
「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。
ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…?
『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』――
亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。
全年齢の童話風ファンタジーになります。
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

椀貸しの河童
関シラズ
児童書・童話
須川の河童・沼尾丸は近くの村の人々に頼まれては膳椀を貸し出す椀貸しの河童である。ある時、沼尾丸は他所からやって来た旅の女に声をかけられるが……
※
群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる