神社のゆかこさん

秋野 木星

文字の大きさ
上 下
19 / 29
第二章 ゆかこさんの一年間

秋祭り

しおりを挟む
 冷たい秋雨があがった日の朝、ゆかこさんは久しぶりに庭に出てみました。

山茶花さざんかのピンクのつぼみふくらんで、雨露あまつゆを含みながら咲き始めています。

「あら、お日様がでてきたのがわかったのね。」

そうですね、ゆかこさん。

それでも様子が変ですよ。山茶花の葉っぱに黒いすすがたくさんついてます。


「まぁ、これは大変ね。病気になってるわ。」

ゆかこさんは山茶花の足元に生えていた繁ったシダを全部刈り取りました。

そうして威力のある水鉄砲でビュビュビュビュッと、山茶花の葉についたカビを取って行きます。

それから秋風を呼んで、葉っぱをカラリと乾かしました。

「この方法って何かに似てる・・・。」

トイレのウォシュレットですよ、ゆかこさん。


「ホントだわ~。」

ゆかこさんはおかしくなってケラケラ笑い出しました。どうにも笑いが止まりません。

するとゆかこさんの身体からオレンジ色をした音符がポンポンと飛び出してきました。

音符たちはあちこちにぶつかって、カランポロンと音を奏でていきます。

ケラケラケラ、カランポロンカラン♪
クククククッ、コロンコロンポンッ♬


「やあねぇ、ドングリたちもやって来たわ。」

松ぼっくりも来ましたよ。

それを追いかけてリスやキツネまで走って来ます。
ウサギや熊が来る頃にはお祭りのような賑わいになっていました。

「皆で秋祭りをしましょうか。」

そうですね、ススキでお神輿みこしを作りましょう。


ワッショイワッショイ、ソレソレソレッ!

動物たちが担ぐ神輿が神社の庭を練り歩きます。

ゆかこさんは軒下に提灯ちょうちんをぶら下げました。

旗も必要ですね、ゆかこさん。


神社に旗が立つ頃には、大勢の人たちがお参りにやって来ました。

どこからか太鼓の音も聞こえてきます。

出店を出したお兄さんはねじり鉢巻きをしてイカを焼き始めました。

「あー、お醬油しょうゆのいー匂い。」

ふらふらと山を降りて行ったゆかこさんは、小さな男の子にぶつかってしまいました。


「あら、ごめんなさい。」

男の子はキョトンとしています。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん。僕もお神輿やりたいな。」

その子の言葉に、周りにいた大人も子供も参戦します。

ゆかこさんはクスリと笑って、もう一つススキのお神輿を作ってあげました。


人間たちと動物たちのお神輿、どっちが威勢が良かったかですって?

それは薄い秋の日差しだけが知ってるのかもしれませんね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―

島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」 落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。

人魚姫ティナリア

佐倉穂波
児童書・童話
 海の国に住む人魚ティナリアは好奇心旺盛。  幼なじみのルイを巻き込んで、陸のお祭りへ出掛けました。  21話完結。  番外編あり。 【登場人物】 ティナリア……好奇心旺盛な人魚の女の子。 ルイ……ティナリアの幼なじみ。人魚の男の子。 ローズマリー……貴族の女の子。 ヒューリック……王子さま。  表紙はAIイラストアプリ「Spellai」で作成したものを編集して、文庫本の表紙みたいに作ってみました。  児童小説なので、出来るだけ分かりやすく、丁寧な文章を書くように心掛けていますが、長編の児童小説を書くのは初めてです。分かりにくい所があれば、遠慮なくご指摘ください。  小学生(高学年)~中学生の読者を想定して書いていますが、大人にも読んでもらいたい物語です!

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

悪魔図鑑~でこぼこ3兄妹とソロモンの指輪~

天咲 琴葉
児童書・童話
全ての悪魔を思い通りに操れる『ソロモンの指輪』。 ふとしたことから、その指輪を手に入れてしまった拝(おがみ)家の3兄妹は、家族やクラスメートを救うため、怪人や悪魔と戦うことになる!

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

処理中です...