神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

お盆

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 毎日蒸し暑い日が続いています。

ゆかこさんはタオルで汗を拭きながら、手に持っているソフトクリームをペロリとめました。

「最近、死人が多いわね。」

ゆかこさんには見えるんでしょうか?


「ちょっとパトロールをしてきましょう。」

ゆかこさんはソフトクリームを食べ終わると、裏の畑からキュウリを採って来て、
竹で足を付けトウモロコシのヒゲで尻尾も作りました。


「それっ!」

ゆかこさんが夏の光の粒々をキュウリの馬に振りかけていきます。

馬はヒヒーンといななきながらぐんぐん大きくなりました。

ブルルルルと胴震いしたかと思うとゆかこさんの前にやって来て、首を回して優しい目でゆかこさんを見つめます。

ゆかこさんはよしよしと馬の肩を叩いてやって、ヒラリと背中に飛び乗りました。


「さぁ、行くわよっ!」

馬はゆかこさんを乗せて、軽々と山を駆け下りていきます。
踏みしめられた地面から夏草の匂いが立ち上がって来ました。

町に降りた馬は、カタッカタッカタッと軽快な音を響かせて路地を駆けていきます。
一軒の家の前で馬とゆかこさんは止まりました。

「ふーん。ここら辺りはちゃんと迎え火を炊いてるわね。」

少し薄暗くなってきた家々の縁側で、仏様を迎える火がチラチラと庭の木々の間から見えています。
町中に幾筋もの細い煙が空に登って行くのがわかりました。


ぼんやりとした魂の光が、火に引き寄せられるようにふわふわと庭の縁側に向かっていきます。

「おじいちゃん、おばあちゃんお帰りなさい。」
「しばらく滞在してくださいな。ご馳走も用意してありますよ。」

ここの家はご先祖様を迎える準備が万端です。

広い台の上へ茣蓙ござを敷いて、位牌を並べて置いてあります。
リンドウの青い花や鬼灯ホオズキのオレンジの実も傍らに生けてあります。
キュウリの馬と茄子の牛も作ってあったので、仏様も喜んでゆらゆらと笑っていました。


温かい家ですねゆかこさん。

「そうね、家という大樹の根っこを大切にする家は、豊かに実のなる子ども達が育つでしょう。」

そうですね、ゆかこさん。先祖は家を支える太い根っこ、大切にお迎えしたいですね。


「さあ、もう一回りしてきましょうか。」

ゆかこさんは、足で馬の胴を締め付けて先へ行くように意思を伝えます。
キュウリの馬はもう一度ヒヒーンと鳴いて翔けだしました。


今度は町の空に向かって翔けていきます。

夜が深くなっていく濃紺の空の上にはさざめくように星たちが顔を出し始めていました。

天の川ですね、ゆかこさん。

「そうね、夏の夜は安らぐわ。」


風を切って翔けて行く馬とすれ違うように、たくさんの魂たちが里帰りに下界へ向かって降りて行きます。

それを星たちが優しく見守っていたのでした。
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