神社のゆかこさん

秋野 木星

文字の大きさ
上 下
13 / 29
第二章 ゆかこさんの一年間

お盆

しおりを挟む
 毎日蒸し暑い日が続いています。

ゆかこさんはタオルで汗を拭きながら、手に持っているソフトクリームをペロリとめました。

「最近、死人が多いわね。」

ゆかこさんには見えるんでしょうか?


「ちょっとパトロールをしてきましょう。」

ゆかこさんはソフトクリームを食べ終わると、裏の畑からキュウリを採って来て、
竹で足を付けトウモロコシのヒゲで尻尾も作りました。


「それっ!」

ゆかこさんが夏の光の粒々をキュウリの馬に振りかけていきます。

馬はヒヒーンといななきながらぐんぐん大きくなりました。

ブルルルルと胴震いしたかと思うとゆかこさんの前にやって来て、首を回して優しい目でゆかこさんを見つめます。

ゆかこさんはよしよしと馬の肩を叩いてやって、ヒラリと背中に飛び乗りました。


「さぁ、行くわよっ!」

馬はゆかこさんを乗せて、軽々と山を駆け下りていきます。
踏みしめられた地面から夏草の匂いが立ち上がって来ました。

町に降りた馬は、カタッカタッカタッと軽快な音を響かせて路地を駆けていきます。
一軒の家の前で馬とゆかこさんは止まりました。

「ふーん。ここら辺りはちゃんと迎え火を炊いてるわね。」

少し薄暗くなってきた家々の縁側で、仏様を迎える火がチラチラと庭の木々の間から見えています。
町中に幾筋もの細い煙が空に登って行くのがわかりました。


ぼんやりとした魂の光が、火に引き寄せられるようにふわふわと庭の縁側に向かっていきます。

「おじいちゃん、おばあちゃんお帰りなさい。」
「しばらく滞在してくださいな。ご馳走も用意してありますよ。」

ここの家はご先祖様を迎える準備が万端です。

広い台の上へ茣蓙ござを敷いて、位牌を並べて置いてあります。
リンドウの青い花や鬼灯ホオズキのオレンジの実も傍らに生けてあります。
キュウリの馬と茄子の牛も作ってあったので、仏様も喜んでゆらゆらと笑っていました。


温かい家ですねゆかこさん。

「そうね、家という大樹の根っこを大切にする家は、豊かに実のなる子ども達が育つでしょう。」

そうですね、ゆかこさん。先祖は家を支える太い根っこ、大切にお迎えしたいですね。


「さあ、もう一回りしてきましょうか。」

ゆかこさんは、足で馬の胴を締め付けて先へ行くように意思を伝えます。
キュウリの馬はもう一度ヒヒーンと鳴いて翔けだしました。


今度は町の空に向かって翔けていきます。

夜が深くなっていく濃紺の空の上にはさざめくように星たちが顔を出し始めていました。

天の川ですね、ゆかこさん。

「そうね、夏の夜は安らぐわ。」


風を切って翔けて行く馬とすれ違うように、たくさんの魂たちが里帰りに下界へ向かって降りて行きます。

それを星たちが優しく見守っていたのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

夏の日の時の段差

秋野 木星
ライト文芸
暑い夏の日に由紀恵は、亡くなったおばあちゃんの家を片付けに来た。 そこで不思議な時の段差に滑り込み、翻弄されることになる。 過去で出会った青年、未来で再会した友達。 おばあちゃんの思いと自分への気づき。 いくつもの時を超えながら、由紀恵は少しずつ自分の将来と向き合っていく。 由紀恵の未来は、そして恋の行方は? 家族、進路、恋愛を中心にしたちょっと不思議なお話です。 ※ 表紙は長岡更紗さんの作品です。 ※ この作品は小説家になろうからの転記です。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

アンナのぬいぐるみ

蒼河颯人
児童書・童話
突然消えてしまったぬいぐるみの行く先とは? アンナは五歳の女の子。 彼女のお気に入りのくまのぬいぐるみが、突然姿を消してしまい、大変なことに! さて、彼女の宝物は一体どこに行ったのでしょうか? 表紙画像は花音様に企画で描いて頂きました。

処理中です...