12 / 29
第二章 ゆかこさんの一年間
蛍
しおりを挟む
静かな初夏の宵のことです。
町の西側を流れる川から、はぐれ蛍が迷い込んできました。
フゥ~フワッフワッと池の周りをふらふらと飛んでいます。
深い闇やみの所々に微かな光を灯しているようです。
「あらあら、迷子の蛍ね。」
そうですね、ゆかこさん。川からの風に乗って飛んできたんですね。
「これは連れて行ってやらなきゃね。」
ゆかこさんはホタル草を採って来て、器用に丸いボンボリを編んでいきました。
「さあ、出来た。ほらほらこれに入るのよ。」
蛍も喜んで、フワッとボンボリの中へ入って行きましたよ。
ゆかこさんがそれを手に持つと明るい提灯のようにボンボリが光り始めました。
ゆかこさんは蛍を驚かせないようにふんわりと空に登っていきます。
そしてゆっくりと大川の支流にある草の繁った川岸に降りて行ったのでした。
そこには|明滅めいめつする光の群れが、魂を宿したように幽玄に舞っていました。
「さあ仲間たちのところへ帰るのよ。」
ゆかこさんはホタル草のボンボリをそっと放り投げて結んでいた紐を解きました。
はぐれ蛍は、くるんと一回転して仲間のところへ飛んでいきました。
そうしてチカチカ瞬いて御礼を言ってくれましたよ。
「さあ、帰るとしましょうか。」
ゆかこさんが空に飛びあがると、海の近くの港の方にキラキラと煌めく光の渦がありました。
「ふーん。夜の工場は機械の蛍族なのね。」
高い塔のてっぺんでチカチカ瞬いている赤い光をゆかこさんは空の上から眺めます。
海からの風が火照った身体を宥めてくれているようでした。
「夏の夜の空は楽しいわ。」
そうですね、ゆかこさん。
遠い空の上では、この地球を星たちが囲んでいます。皆を光が見守ってくれているんですね。
何億光年の遥から、光たちがそっとウィンクをしてくれましたよ。
町の西側を流れる川から、はぐれ蛍が迷い込んできました。
フゥ~フワッフワッと池の周りをふらふらと飛んでいます。
深い闇やみの所々に微かな光を灯しているようです。
「あらあら、迷子の蛍ね。」
そうですね、ゆかこさん。川からの風に乗って飛んできたんですね。
「これは連れて行ってやらなきゃね。」
ゆかこさんはホタル草を採って来て、器用に丸いボンボリを編んでいきました。
「さあ、出来た。ほらほらこれに入るのよ。」
蛍も喜んで、フワッとボンボリの中へ入って行きましたよ。
ゆかこさんがそれを手に持つと明るい提灯のようにボンボリが光り始めました。
ゆかこさんは蛍を驚かせないようにふんわりと空に登っていきます。
そしてゆっくりと大川の支流にある草の繁った川岸に降りて行ったのでした。
そこには|明滅めいめつする光の群れが、魂を宿したように幽玄に舞っていました。
「さあ仲間たちのところへ帰るのよ。」
ゆかこさんはホタル草のボンボリをそっと放り投げて結んでいた紐を解きました。
はぐれ蛍は、くるんと一回転して仲間のところへ飛んでいきました。
そうしてチカチカ瞬いて御礼を言ってくれましたよ。
「さあ、帰るとしましょうか。」
ゆかこさんが空に飛びあがると、海の近くの港の方にキラキラと煌めく光の渦がありました。
「ふーん。夜の工場は機械の蛍族なのね。」
高い塔のてっぺんでチカチカ瞬いている赤い光をゆかこさんは空の上から眺めます。
海からの風が火照った身体を宥めてくれているようでした。
「夏の夜の空は楽しいわ。」
そうですね、ゆかこさん。
遠い空の上では、この地球を星たちが囲んでいます。皆を光が見守ってくれているんですね。
何億光年の遥から、光たちがそっとウィンクをしてくれましたよ。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
瑠璃の姫君と鉄黒の騎士
石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。
そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。
突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。
大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。
記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。
小さな王子さまのお話
佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』……
**あらすじ**
昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。
珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。
王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。
なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。
「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。
ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…?
『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』――
亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。
全年齢の童話風ファンタジーになります。

椀貸しの河童
関シラズ
児童書・童話
須川の河童・沼尾丸は近くの村の人々に頼まれては膳椀を貸し出す椀貸しの河童である。ある時、沼尾丸は他所からやって来た旅の女に声をかけられるが……
※
群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる