神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

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 静かな初夏のよいのことです。

町の西側を流れる川から、はぐれほたるが迷い込んできました。

フゥ~フワッフワッと池の周りをふらふらと飛んでいます。

深い闇やみの所々にかすかな光をともしているようです。

「あらあら、迷子の蛍ね。」

そうですね、ゆかこさん。川からの風に乗って飛んできたんですね。


「これは連れて行ってやらなきゃね。」

ゆかこさんはホタル草を採って来て、器用に丸いボンボリを編んでいきました。

「さあ、出来た。ほらほらこれに入るのよ。」

蛍も喜んで、フワッとボンボリの中へ入って行きましたよ。

ゆかこさんがそれを手に持つと明るい提灯ちょうちんのようにボンボリが光り始めました。


ゆかこさんは蛍を驚かせないようにふんわりと空に登っていきます。

そしてゆっくりと大川の支流にある草の繁った川岸に降りて行ったのでした。

そこには|明滅めいめつする光の群れが、魂を宿したように幽玄ゆうげんに舞っていました。

「さあ仲間たちのところへ帰るのよ。」

ゆかこさんはホタル草のボンボリをそっと放り投げて結んでいた紐を解きました。

はぐれ蛍は、くるんと一回転して仲間のところへ飛んでいきました。

そうしてチカチカまたたいて御礼を言ってくれましたよ。


「さあ、帰るとしましょうか。」

ゆかこさんが空に飛びあがると、海の近くの港の方にキラキラときらめく光の渦がありました。

「ふーん。夜の工場は機械の蛍族なのね。」

高い塔のてっぺんでチカチカ瞬いている赤い光をゆかこさんは空の上から眺めます。

海からの風が火照ほてった身体をなだめてくれているようでした。

「夏の夜の空は楽しいわ。」

そうですね、ゆかこさん。
遠い空の上では、この地球を星たちが囲んでいます。皆を光が見守ってくれているんですね。


何億光年のはるかから、光たちがそっとウィンクをしてくれましたよ。
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