神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

初蝉

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 ゆかこさんが起き抜けのコーヒーを飲んでいた時です。

神社の松の木の枝で、賑やかな声が聞こえてきました。

ミーンミンミンミンミーン ジージジッ

「うわっ、びっくりしたわ。」

あらあら、今年初めての蝉の声ですね。


どうやら本格的な夏がやってきたようです。空の色が青さを増して、高度を上げたように見えます。

「光を集める時が来たようね。」

ゆかこさんはゆっくりとコーヒーを飲み干すと、カップを片手に杉の木のてっぺんに飛び上がりました。

朝の光が町全体をキラキラと眩しく包んでいます。

「うーん、いー匂いっ。空気が光を吸ってるわ。」

いったいどういう意味なんでしょう。


ゆかこさんはカップの中にサラサラと光の粒を集めていきます。

「ふふっ、コーヒー色の光たちね。」

そうですね、ゆかこさん。こんがりと焦げていい匂い。

ひとつひとつの粒々たちが生き生きとうごめいて光っています。


神社のある山のふもとの広場からラジオ体操の音が響いてきましたよ。

お年寄りと子ども達の汗と気配が風に乗ってゆかこさんの元まで届きました。

「うーん、夏の朝はこうでなくっちゃね。町中の気怠けだるい眠気を皆の元気が吹き飛ばしているようね。」

ゆかこさんには見えるんでしょうか。


ゆかこさんはビュッと空の上まで飛び上がると、黒いかすみのかかった家々に集めた光をパパッとかけていきます。

「ふんっ、いい気味だわ。」

チリチリと小さく燃えながら溶けていった黒い霧の中から、緑のつたが生えてきました。

ぐんぐんと家を包んで、朝露の宿ったたくさんの葉っぱが家全体を浄化していきます。

「ふぅ~、ここはもう安心ね。」

そうですね、ゆかこさん。心の中が澄み渡って来ました。


町中の蝉たちがゆかこさんを応援するように、ミーンミンミンと一斉に鳴きだしましたよ。

「ありがと。これからも頑張れそうね。」

ゆかこさんもみんなに手を振って応えました。
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