神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

暑中

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 チュピチュピチュピ、鳥が誰かを呼んでいます。

お日様に温められてムワッとふくらんだ空気が、色濃くなってきた緑の木々を包みます。

「なんて暑くなったんでしょう。」

そうですね、ゆかこさん。ここ二、三日 しますねぇ。


あちこちの家からクーラーの室外機の回る音が聞こえてきます。

道を行く人たちも帽子をかぶって、ふぅーふぅーいって汗をぬぐっています。

「頭がジンジンしびれてるわ。帽子でも作りましょうか。」

ゆかこさんはそう言って、ぴゅーと伸びてきているしなやかな徒長枝とちょうえだを切って来ました。そうして社務所のひんやりしている石の上に座って、ガサゴソと帽子を編み始めました。


「出来たっ!」

ゆかこさんの作った帽子は森の帽子でした。ゆかこさんが被ると涼やかな小さな森が頭の上に乗っかっているようです。

ガンガン照り付けていたお日様も「こりゃあ、まいった。」と笑いましたよ。

緩やかに吹いていた風も、どんなものが出来たのか「どれどれ。」と見に来ました。


喜んだのは小鳥です。

チュピチュピチュピとやって来て、ゆかこさんの帽子の中に潜り込みました。

この鳥は妊婦さんだったみたいです。

薄水色の可愛い卵をポポンポンと三個も生み落としましたよ。


「あらあら、頭の上が保育園になっちゃったわ。」

ひなたちがピーピーチュクチュクとえさをねだります。

親鳥は田んぼの上を飛んで、羽虫をとらえて戻ってきました。

「いっぱい食べて、大きくなりなさい。」

そうですね、ゆかこさん。豊かな自然が応援しています。


「夏が皆を育ててるわ。」

ゆかこさんはそう言って、かしの木陰でお昼寝をしました。


神社の森の木々たちも、うんうんと風と一緒に頷いていましたよ。

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