神社のゆかこさん

秋野 木星

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第二章 ゆかこさんの一年間

梅雨

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 毎日続く長雨に、ゆかこさんはにこにこと笑っています。

「しっとりたっぷりいい感じ。根っこがぐんぐん伸びてるわ。」

ゆかこさんには見えるのでしょうか。


ゆかこさんが住む神社には、庭に小さな池があるのです。
その池のほとりの紫陽花あじさいが雨を含んで大きな紫の花をたくさん咲かせていました。

その花をザーザー降りの雨の中、見に来る人もいるのです。

「おうおう、今年も立派に咲いたのう。」

鳥居の近くの家の重田さんです。
この人は三日前にも見に来ていました。よほど紫陽花が好きなのでしょう。


ゆかこさんが尋ねます。

「どうしてそんなにこの花が好きなのかしら?」

「ふん、それはじゃな。死んだ女房の忘れ形見・・・だからかな。」

ここの花は、亡くなった重田さんの奥さんが七月七日の七夕に挿し木を取って植えたものなんだとか。

「ああ、それでね。この花はあなたをとっても愛してる。」

ゆかこさんがそう言うと、重田さんはしわしわの顔を真っ赤にして照れました。


「わしは帰るっ。」

急いで階段を下りて行こうとしていた重田さんが転びそうになりました。

「危ないっ!」

紫陽花に触れたゆかこさんが、一瞬で雨を止めます。

すると紫陽花からつぶつぶの虹の光線が出て、重田さんの身体を持ち上げて山の下まで運びました。

虹の滑り台ですね、ゆかこさん。

「やれやれ、無事でよかったわ。」


瞬く間の出来事で、鳥居の下で重田さんはキョトキョトしています。

「気を付けて下さいね。おじいさん。」

どこからか、そんな声が聞こえましたよ。


「素敵。人の思いは永遠ね。」

ゆかこさんはいっそうにこにこして笑いました。

そうですね、ゆかこさん。愛はここにあるんですね。


雨上がりの空の上、虹が町の人たちをキラキラと微笑みながら見守っていました。
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