神社のゆかこさん

秋野 木星

文字の大きさ
上 下
28 / 29
第二章 ゆかこさんの一年間

春のはじまり

しおりを挟む
 外では台風のような風が吹いています。

残っていた桜の花びらも、この風にはひとたまりもありません。
強い風に運ばれて全部どこかに飛んで行ってしまいました。

「これはとんでもないことになったわね。花壇の花は大丈夫かしら?」

どうもチューリップの茎が二本ほど折れてしまってるようですよ。

「まぁ残念。今年は綺麗に咲き揃っていたのにね。」

ゆかこさんは窓の外を見ながら風の音を聞いています。

「ふーん。もう少ししたらおさまりそうね。」

ゆかこさんには、わかるんでしょうか?


昼を過ぎると、徐々に風がやんできました。

「わー、花びらがいっぱい落ちてるよ~。」

「たっくん、そこの桜の花を拾ってよ。」

「これ、まだ花の形をしてるね。」

「あ、ここにもあるっ!」

色とりどりのランドセルに黄色のビニールの覆いをした、一年生の子どもたちが学校から帰って来たようです。


5人グループの子ども達は、拾った花びらを小川に放って流し始めました。

「あらあら楽しそうね。でもちょっと危ないかも。」

ゆかこさんは春風に頼んで、見守ってもらうことにしました。
嵐の名残の春風のしっぽが、子ども達が川に落ちないように見てくれました。

たっくんの青いランドセルを支えている風は、顔を赤くして踏ん張っていましたよ。


子ども達がやっと遊びに飽きて家路を辿った頃、ゆかこさんは町のパトロールに出ることにしました。

「芽が出始めたばかりの新芽が心配よ。」

空から庭や公園を見て回りましたが、ほとんどの木々は無事のようです。

神社と同じように茎が折れている花が何本かあっただけでした。

「植物は生きる力があるのね。」

そうですね、ゆかこさん。
大地に根を張った草木は強いものです。


「あっという間に葉っぱが出揃ったわねぇ。」

黄緑色や真っ赤な新芽が風にゆらゆら揺れています。
日差しが戻って来た水色の空に、キラキラと輝いて伸びていっているようです。

「子ども達も葉っぱもピカピカの一年生ね。」

今年度はどんな年になるんでしょう。

新しく始まった生活を応援して、ゆかこさんは旗を振りました。


「フレーフレー、み・ん・な! 頑張れ頑張れ、こどもたち!」

町中にゆかこさんの応援の声が響き渡りましたよ。

今年も素晴らしい年になるといいですね。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

おかたづけこびとのミサちゃん

みのる
児童書・童話
とあるお片付けの大好きなこびとさんのお話です。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

処理中です...