夏の日の時の段差

秋野 木星

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これからの予想

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病院からの帰りに、由紀恵は山岡君と一緒にファミレスに寄って、食事をして帰ることになった。

ここのファミレスでは誠二の大学の友達がバイトをしているらしく、彼が持っていた割引券で、安く食事をすることができた。

昨日は同級生だと思っていた誠二が、ウェイトレスに躊躇なく食事を注文しているし、サラダバーから由紀恵の欲しいものを取ってきてくれたりもする。
なんだかちょっと差をつけられた感じ。

山岡君はもう18歳じゃないんだな。
たった一年経っただけなのに、山岡君はもう大人の男の人みたいだ。
高校生には逆立ちしても届かない、大学生の山岡君がそこにいた。

こうやって、あのスーツを着ていた25歳の山岡君になっていくんだろうか?

私は、山岡君と同じ19歳になった時に、いったい何をしてるんだろう?


おばあちゃんの家に帰ってから、山岡君と今後の話をすることになった。

「25歳の山岡君が言った『やることをやったら帰れる。』というのは、写真をおばあちゃんに見せることだったのかな?」

「たぶんね。おばあちゃんの意識が戻るわずかな日を選んでここに来たということは、一つはそういう事だったんだろうな」

「一つは?」

「うん。これは推測でしかないけど、君の友達の長峰さんに送る手紙があるだろ? あれに、次の鍵があると思うんだ。それはつまり、僕が見てはいけないもの…………えっと、け、結婚式の写真とかが関係するんじゃないかな?」

なぜか真っ赤になった山岡君の顔を、由紀恵は不思議そうに見た。
……どういう意味だか、いまいちよくわからない。

「山岡君が見てはいけないって……山岡君の知り合いと私が結婚するっていうこと?」

「……それも可能性としてある。……例えば相手が……その……僕……とか?」

「キャハハハッ、まさかっ! ……え?…………そうなの??」

「知らないよ! そんな未来のことを、僕が知るわけないだろっ」

「……なに怒ってるの? でも、自分で言ったんじゃない」

「はぁ~……もういい。なんか疲れた。僕はもう帰るね」

「うん、ありがと。ごめんね、二日続けて振り回しちゃって。」

山岡君は何か言いたそうだったが、由紀恵の顔を見て、何も口にせずに帰って行った。



結婚式か……
うー、男の子とつき合ったことも無いのに、そんなことを想像できるわけないじゃん。

相手が山岡君だっていったって、昨日会ったばかりのよく知らない人だよ。
まぁ……親切な人だけどさ。
いい人ではあるよね。
二日も続けてこんなおかしなことに付き合ってくれてるんだから。

あ、そう言えば今日は誕生日だって言ってたな。
なんかお礼のプレゼントをあげたほうがいいかも。
よっし、これから買いに行くか。

モールがないから、イケダの文房具屋だね。


由紀恵は駅の近くにあるイケダ文房具店に行くことにした。
隣にアラキの本屋があるので、この並びの二軒は昔から由紀恵の御用達ごようたしだ。

そういえばモールが出来てから、この店にはあんまり来てなかったなぁ。

よく使うものがいいと思ったので、黒のボールペンで少し値段の高いものを選んだ。
文房具屋を出ると、はす向かいにあるトングーのパン屋が目に留まった。

ふーむ、ボールペンだけじゃ寂しいから、ドーナツの大袋も奮発しとくかな。
育ち盛りの男の子といえば、やっぱり食い気よねー


「よしよし、こんな感じかな?」

パン屋を出て自転車に乗ろうとしたら、アラキの本屋の前で見たことがあるような男の子が立ち読みをしていた。

えーと、誰だっけ?

……あ、武ちゃんマンだ! 
丁度いいや、プレゼントを持って帰ってもらおう。


「すいませーん。武ちゃんマンじゃなくて、山岡君ですか?」

「へっ? お姉さん誰?」

あ、そうか。
私って今は、武ちゃんマンよりも年上になるのね。


「私は、後輩?じゃなくて、今は先輩っていうか……んー、もうどっちでもいいや。ええっと、遠坂由紀恵といいます。あなたのお兄さんにお世話になっているものです。今日、お兄さんの誠二さんが誕生日でしょ?」

「……ああ、そうだけど?」

「お家まで行こうかと思ってたけど、あなたを見かけたので持って帰ってもらおうと思って。これ、プレゼントです。お兄さんに渡してもらえます?」

由紀恵が声をかけてきたわけがやっと腑に落ちたのか、武史は快くプレゼントの包みを受け取ってくれた。
ドーナツの匂いがしていたからか、ニンマリと顔をほころばせる。

「へー、そういうことね。わかった、持って帰るよ」

「ありがとうー。じゃ、よろしくね!」

ラッキー。


この時由紀恵は、ラッキーと思っただけだったのだが、この出会いは後に、誠二が勘違いをするキッカケになったようである。

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