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観葉植物と二日目のカレー

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 中西さんが車を乗り入れたのは、この辺りの農家によくあるタイプの黒い瓦屋根の日本建築のお家だった。
母屋の東側に納屋が建っていて、そこを別れ家にリフォームしているようだ。

しかし庭の方は枯山水や松があるような和風庭園ではなくて、色々な木や草花をバランスよく配置したイングリッシュガーデンのようになっている。
お母さんの趣味なのだろうか?


中西さんが車から降りて、ここに止めて下さいと言ってくれたので、咲子は四台ほど止められるスペースのある駐車場の一番南寄りに、車を乗り入れた。

なんだかここに来て、とても厚かましいことをしているような気分になる。

「あの、やっぱり帰り…。」

「遠慮はいりませんって。気になるんだったら、またお菓子を作った時にお裾分けをください。田舎の付き合いというのは、そんな感じなんですよ。」

「はぁ…。」


郷に入りては郷に従えということだろうか。
咲子もあの家を終の棲家と決めたからには、この地方のやり方に従っていくべきなのかもしれない。

「わかりました。よろしくお願いします。」

「改まってそう言われると…なんか照れちゃうな。ちょっと、おふくろに声をかけてきますね。」

「はい。」


咲子が庭を眺めていると、中西さんとお母さんが連れ立って家から出て来た。

「まあまあ、ようこそいらっしゃいました。哲也の母です。」

「穂村咲子と申します。この度は、厚かましいお願いをして申し訳ございません。」

「とんでもない。私の方がレシピを教えてくれって言ったんですから…。いくつかは誰かにあげようと思って、裏にビニールポットに入れて置いてるんですよ。どれがいいか見てくださる?」

「はい。」

もう贈答用?にポットに入ってるんだね。
中西さんが言うように、村のみんなであげたり貰ったりしてるのかな?


気のいいお母さんの後について家の裏口に回ると、そこには夢のような世界が広がっていた。

広いウッドデッキがあって、その側にはピザが焼けるようなレンガ造りの薪窯がある。
ここでバーベキューパーティーができそうだ。

パーゴラにはクリーム色のつる薔薇ばらが咲いているし、白い花が咲いている木からは何ともいえない芳香が漂ってくる。そして黄色や紫の初夏の花があちこちで満開だった。

奥の方には果樹園もあるのだろうか? 紙袋で覆いをされた果物が木の枝にたくさんぶら下がっている。

「天国みたい…。」

「ふふ、そうでしょ。絵本作家のターシャ・テューダが『天国は自分で作るもの』と言ったそうだけど、それを実践してるのよ。」

「中西さん! 弟子入りさせてください!」

「まぁ、嬉しいことをいってくれるじゃない。今日はもうすぐ日が暮れるからゆっくりできないけど、またお休みの日にいらっしゃいな。庭でお茶でも飲みましょう。」

「ぜひ! 今度はお菓子を焼いてきます。」


咲子は中西さんのお母さんとすっかり意気投合して、光枝みつえさん、咲子さんと呼び合うことになった。
携帯のメール番号も交換して、観葉植物どころか花の苗もいただいてしまった。

光枝さんと話ばかりしていて、息子さんのことをすっかり忘れてしまっていたが、哲也さんが、咲子がもらったたくさんの苗を自動車の所まで運んでくれた。

「今日はありがとうございました。素敵なお母さんですね。知り合いになれて良かったです。」

「気があったようでなによりです。また来てくださいね。」

「はい、失礼します。」

ご近所さんにいい人がいて良かったな~。

茜色に染まった田んぼ道を帰りながら、咲子は心から満足していた。



◇◇◇



 今日はカレーがあるからサラダとスープだけ作ればいいな。

楽ちんだ。

サラダはキャベツを千切りにして、半分残っていた最後のトマトを薄く切って入れる。
味のポイントに乾燥オニオンをふりかけて、最近お気に入りの黒酢オニオンドレッシングとカロリーハーフのマヨネーズをかけた。

スープは半端に余っていた芽が出かかっていたジャガイモ一個、ラップで包まれた半分のニンジン、カボチャの切れ端と、それに玉ねぎとキャベツを入れることにする。野菜を全部小さく切って、コンソメブイヨンを四個入れ、ベイリーフを香りづけにする。
たっぷりのお湯でコトコト煮込んだら、最後に塩、一つまみの砂糖、粒胡椒で味つける。

ジャガイモとニンジンは明日、買って来た方がいいな。


昨日のカレーを温め直してたっぷりとご飯の上にかけると、ラッキョウと福神漬、そして温泉卵をトロリと上に乗せた。

おー、贅沢だ~。

一口食べると、ニンマリと笑ってしまう。

二日目のカレーは美味しいが、温泉卵はその美味しさをさらにグレードアップしてくれている。

し・あ・わ・せ

とことん食べたらお腹がいっぱいになった。


なんか今日は充実した一日だった。
明日は花の土や肥料を買って、食品の補充だな。

こういう生活をしてみると、村にホームセンターとスーパーがあるというのがよくわかる。
シンプルにこの二軒の間を行き来していたら、基本の生活が成り立つ感じだ。


咲子は新しい大学ノートを出してきて、今日見た中西さんの庭をモデルにして、自分の家の理想の庭を書いていった。

シンボルツリーに、風に枝が揺れるような樹が欲しいな~。
南西の方の木を高くして、東側の入り口付近は低い草花でまとめようかな。
明日、図書館でガーデニングの本を探してみよう。


田んぼの蛙たちが、そんな咲子に同意するようにゲロゲロゲロと鳴いていた。
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