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第二章 「のっぽのノッコ」に恋した長男アレックス

人には悩みがあるもので

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 ノッコには三重苦がある。

今、街を歩いているノッコの姿を見てもらえば、その1つ目の悩みは誰にでもわかるだろう。

「でっけー。」

そこの高校生の男の子達、小声でも聞こえてるから…。


そう、女の子とは思えないこの背の高さ。
困ったことに、うちの双子の兄よりもノッコの方が背が高いのだ。

うちの母は「遺伝子操作を誤った。」と言い訳しているが、兄である伸也が身長のことにコンプレックスを持っているので、家ではあまりこの話題は出せない。


そしてここ、セイシェル女子大が2つ目の悩みだ。

ここはクライスト教系のお嬢様学校だ。
つたの絡まるチャペルに憧れて半年前に東京にあるこの大学に来たのはいいのだが、如何いかんせんお嬢様学校過ぎた。

きゃぴきゃぴのお嬢様たちの中で、ノッコはすっかり浮いてしまっている。
大学に入ったら大勢の友達を作って華やかなキャンパスライフをおくろうと思っていた。
入学式までは…。

けれど田舎から出て来たのっぽのノッコには、ここのお嬢様方のお話やノリに全然ついていけなかった。
大学生になって出来た友達は、ノッコと同じ田舎者のターチこと田原千里たはらちさとといつも冷静なアミこと宗田亜美そうだあみの2人だけ。


そして3つ目の悩みは、一番深刻だ。

実は私、人の前世が見えるのだ。

ほーら、引くでしょ。
ノッコがこれを打ち明けた人は大抵引く。

もっと悪いのは、面白がって「見て見て。」と言ってくる人たちだ。
全員がいい前世ばかりではない。
何でもかんでも話せないし、こういうことを伝えるには技術がいるらしい。
ちゃんと占い師の資格というか、人に伝えるための勉強をするそうだ。

ノッコはプロではないし、それを職業にするつもりもない。
だから東京に来てからは、自分のこの特異体質の事は誰にも言っていない。

いや、たった1人だけには打ち明けたことがあるけれど…。

友達には言わないことにしている。
地元では、大勢の人に前世を占ってと言われて困ってたからね。

みんなどうして自分の前世など知りたがるのだろう?


 ノッコは学生掲示板で、休講がないかどうかチェックした。

すると…土曜日は1講目のこの教育概論しかないのに、休講だった。

勘弁してよ。
ネットでチェックしてくればよかった。

うちの両親は高校生が親から与えられてまで携帯を持つべきではない。
自分でバイトが出来るようになったら稼いだお金で携帯を買おうがどうしようがご自由にどうぞ。
というような古い考え方だったので、ノッコは最近買った携帯電話の使い方にいまいち慣れていない。

大学に来てみたら、レポートはパソコンからメールで先生に送るようになっているし、こういう連絡も全部ネット上に書き込まれる。
先輩方に聞くと就職活動もパソコンがないとできないらしい。

私も早く21世紀モードにならなくっちゃダメだね。


せっかく大学まで出て来たので、エドガー神父さまのところに寄っていくことにした。
そろそろクリスマスの準備にかかると言ってらしたから、なにかお手伝いできることがあるかもしれない。

ノッコは夏休みの時から、大学の近くの教会に英語を習いに通っている。

田舎ではできる方だと思っていた英語が東京に来てみると全然通用しなかった。
セイシェル女子大では帰国子女の人も多く、ディスカッションの授業でもずっと早口の英語で喋られると、ノッコのような田舎者はお手上げ状態だ。

英文科は自分には無理だったかと入学早々落ち込んだが、高い授業料や都会での生活費を苦労して捻出してくれている両親に泣き言は言えない。
なんとか英語教師の免状だけは取らなければと思い、どこか安くて英会話を学べるところはないかと捜していた。

すると友達になったばかりのアミが良い情報を教えてくれて助かった。
大学の近くにある教会でお手伝いをしながら学べる英会話教室があるということだったのだが、ここが行ってみると居心地の良い教室だった。


大学から5分も歩けば、この聖ビンセント教会に着く。

住宅街の中にひっそりと佇むこの教会は派手なところはないが素朴で、来る人を手を広げて待っているような温かさがあった。

「いつでも来て、この呼び鈴を押してくださいね。」と言われているので、ノッコは玄関のドアを開けて中に入り、呼び鈴を押してから待合椅子にかけて暫く待った。

すぐにエドガー神父さまが、奥から出て来て下さった。

「おう、典子っ! 神は素敵な采配をされるようですね。あなたに連絡しようと思っていたんですよ。今日は、ゆっくりしていけますか? 」

優しい笑顔の神父様に、ノッコはイエスと言って頷いた。

「よかった。あなたに紹介したい方がいらしてるんですよ。こちらに来てください。」

神父さまの後について部屋に入ると、そこには先客がいた。


濃い茶色の髪に青い瞳のハンサムな男性が窓際に置かれたソファに座っていた。

私達が入っていくと同時に、その人は座っていた椅子からすぐに立ち上がった。

あ、私より背が高い。

男性を見る時には、つい背の高さを確認してしまう。

エドガー神父さまは外人なのに、ノッコより背が低い。
これにはちょっとがっかりしていたのだ。

私より背の高い外国人もいるんだな~。
ちょっと、安心した。


「典子、こちらはイギリスからいらしたアレックス・サマーさんです。観光のお仕事でつい先日、日本に来られたばかりなんです。私のいた村の領主さまの息子さんなんですよ。」

領主? 
私、翻訳を間違えていないよね。
現代でもそんな制度があるの?

「シグ・アレックス、こちら私が先程申し上げた案内人にちょうどいいのではないかと思っている方で、セイシェル女子大の1回生の片岡典子さんです。うちの英会話教室でも一番熱心で優秀な生徒さんなんですよ。関西にご実家があるのであなたの要求に答えられると思います。」

案内人? 
要求? 
いったい、何のことだろう?

「ミズ・キャタオッカ ノ・・リコ、初めまして。ヨロシクオネガイシマス。私は皆にアルと呼ばれているので、アルと呼んでください。」

え? 
領主の息子をアルと呼び捨てにしていいのだろうか?

ノッコはその疑問はひとまず置いておいて、挨拶をした。

「初めまして。よろしくお願いします。日本人の名前は呼びにくいでしょう。私のことはノッコと呼んでください。友達はみんなそう呼びますので。」

「ノッコ、ノッコ…変わった呼び名ですね。でも言いやすい。早速ですが、私は貴方に頼みたいことがあるんです。私が行きたいところを教えていただきたい。そしてできればそこに案内していただきたいんです。」


そしてこのアルが語った行きたいという場所は、どんぴしゃり、うちの地元だった。

大賀県中備市小溝おおかけんちゅうびしこみぞはうちの家がある所だ。

岸蔵きしくら市は隣の市だし、後で調べてわかったのだが河内村樋ノ口こうちむらひのくちというのは大賀県の北の方にある村だった。

これには紹介した神父さまも驚いていた。
「なにか神の御業みわざが働いたのかもしれませんねぇ。」と感慨深そうに言っていた。


しかしなんでまたこのイギリスの領主の家のお坊ちゃんが、こんな日本の田舎の地名を知っているのだろう?
中備なんかは外人が来るような観光地でもないんだけど…。

よく話を聞くと、このアルさんの妹さんに前世の人が何人も入れ代わり立ち代わり現れて、なにやら日々のアドバイスをするんだそうだ。

その前世の幾人かのうちの2人が日本出身だったため、せっかく日本に来る機会があったのだからその人たちの暮らした地を訪ねてみたいとアルさんは考えたらしい。

それで同じ土地の出身だったエドガー神父さまを訪ねて、相談しに来たということね。

エドガー神父さまもその日本出身のなつみさんと言う名前の前世の人に料理を教えてもらったんだって。
驚きだね。

どうりで、ノッコが前世が見えることをエドガー神父さまに打ち明けた時に、自然に聞いてくれたはずだよ。

ノッコが神父さまの方を問いかけるように見ると、神父様は顔を微妙に横に振った。
告解こっかいを受けて得た情報は他人には話さないのだろう。

んー…このアルさんなら、自分の特異体質のことを話しても差し支え無さそうな気がする。

ノッコは普段では考えられないことだが、自分は人の前世が見えるということを、この場でアルさんに話した。

アルさんは青い目を見開いて驚いていたが、妹さんのことで耐性があるのだろう、騒ぎもせずまた引きもせず、すっとそれをあたりまえのこととして受け入れてくれた。

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