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後編

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王子のベッドは広い。
私が今まで家具量販店で見てきたどのベッドよりも面積が有る。
そして天蓋付き。装飾が凝ってて、映画で見る王族のベッドそのままって感じだ。

「俺がいくら誘っても断られたのに、まさか体液採取のためにこの寝室まで来てくれるなんてね」
ヘッドボードの前に積み重ねられたクッションに上体を預けアレン様が寝そべる。

「私が王子と関係を持つわけにはいきませんから」
手招きをされベッドに上がった。クッションの下に試験官とビーカーを入れる。
「どうして?」
「どうしてって……」
垂らしていた髪に指を絡められた。
「俺が誘うのはハルカだけだよ?」
「それは知っています。だけど、私は異邦人で、ただの庶民で……」
「フィオーナの命を救った上に国のためにあれだけの武器や薬を作った君なら誰も反対しないよ? むしろ父からは早く捕まえておけとせっつかれてるくらいだ」
惑わせるように王子は囁く。
「アレン様を始めサウザグルスの方には本当に良くしていただきました。だけど、それでも──」

「いつか自分の国へ帰るから俺とは関係を持てない?」
ズキリと心臓が痛んだ気がした。
「──そう、です。私はいつか絶対に元の世界へ帰りたい」
王子が諦めたように溜息をつく。
「……そっか。出会った頃の君はいつも帰りたいと言っていたものね。最近は帰りたいと口にしなくなったから、サウザグルスに永住してくれる気になったのかと思ったんだけど……。
まあそれでも、採取の相手に俺を選んでくれたことは嬉しく思うよ」

私は、カケル君のために日本に帰りたい。
いつかこの国から居なくなるのだから、アレン様と関係を持つわけにはいかない。
だけど、高貴な人物の体液という文字を見た時に頭に浮かんだのはアレン様の顔だけだった。
そして関係は持たないと言いながら私は彼の体液を採取しようとしている。

彼の身体に触れることは一線を越えるのとどう違うのだろう?
万が一の可能性に備えて呑んだ避妊薬にはどんな意味が有った?

自分でも矛盾していると思いながら王子の胸に手を置いた。

「失礼します」
そう言って、上半身を起こしているアレン様の膝の上に向かい合うように跨る。
「お身体に触れてもよろしいでしょうか?」
「良いよ。だけど、服はそのまま? せっかく協力するのにそれじゃぁつまらないな」
王子の言葉に自分の着ている白いワンピースのような服を見下ろす。
この下はブラジャー代わりのビスチェとパンツだけだ。

「俺が脱がしたら暴走して抱いちゃいそうだから、ハルカが自分で脱いで?」
「……っ!」
羞恥に顔が赤くなるのがわかる。
「ハルカ?」
促す王子の声には逆らえない響きが有った。

そろり……とスカートの裾を自分でたくし上げる。
至近距離から注がれるアレン様の視線が熱い。
踝くるぶしまでを覆っていた布が順にふくらはぎ、膝、太ももを露わにしていく。
これ以上たくし上げたら足の付け根が見えてしまう。

だけど、だけど私は────

ゆっくりと、ゆっくりと。焦らすように布を上げる。
足の付け根、臍、胸元。
王子の視線を意識しながら服を脱ぎ捨て、強調するように上半身を反らして微笑む。
ゴクリ。とアレン様の喉が鳴った。

「それでは、始めさせていただきますね」
そう言って、私の足の下で主張し始めた存在を布越しに撫で上げた。


やわやわと、猫の子をあやすように指を這わせる。
最初は柔らかかったそれが、私の掌が動く度に硬度を増していく。
何度も摩った今では随分とズボンが窮屈そうだ。

「アレン様、ご自身に直接触れても?」
「……っ、良いよ」
普段は何が起きても余裕を持って微笑んでいる目元が赤い。

初めて見る彼のそれは、逞しく脈打っていた。
血管の形一本一本を確かめるようになぞり、軽く握った手を上下させる。
片手では指が周りきらない。
時にはゆっくりと、時には忙しなく、緩急をつけて愛撫する。

そしてそのまま──その先端へと口づけた。
既に先走りに濡れたそこは苦いようなしょっぱいような独特の味がした。

「躊躇、無いんだね」
「協力していただいているんだからこれくらい当然です」
チロチロと割れ目に舌を這わせながら答える。
先端だけでもかなり大きい。
私のそう多くない経験でこれを最後まで導くことができるだろうか?
でも、決めたからには成し遂げなければ。
自分の心に喝を入れつるつるとした表面に何度もキスをする。

「──そこまでしてっ、君は国に帰りたいの?」
突然、肩を掴まれ動きを止められた。
「アレン様? これでは続きができません」
困惑していると怖いくらいに真剣な眼差しに射抜かれる。

「君が俺の体液を欲しがるのは『別の世界へ移動するための道具』が理由だよね?」
「っ、その道具を作るためだってことまで、気づいてらっしゃったんですか……」
「そんなにも帰りたいと願うのは、前に言っていたカケルという男のため?」

ギクリ。と肩が揺れる。
言った。確かに私はこの世界に来た頃、アレン様にカケル君に会いたいから日本に帰りたいと何度も言った。
今となってはそんな自分を張り倒してでも止めたい。

帰りたいのはわかるけど何もカケル君のことまで言うことはなかった。
よく友人たちにアニメのキャラを実在の恋人みたいに語るのを止めろと言われていたじゃないか。
しかも、アニメと言っても伝わらないだろうからと、カケル君の話はしても彼が二次元の存在だとはアレン様に言わずにいた。
だけど最近はカケル君のことを口にしていなかったから、まさか覚えていると思わなかった。

「そいつは、ハルカの恋人、なの?」
「いえ……恋人、ではないです……。話したことも無いですし」
生きてる次元も違いますし。

「君はっ話したこともない男のためにこんなことまですると言うの?!」
王子の光彩が燃えるような緑に変わる。

気が付いたら押し倒されて噛み付くようなキスをされていた。
アレン王子との、初めてのキス──

「だ、め……っ! 駄目です王子!」
頭を横に振ってなんとか口づけが深くなるのを拒む。

「──そう、わかった。君は、体液の採取のためにここに居るんだもんね? じゃあ、続きをお願いしようか」
「は、い……」
そう言って再びそれに唇を近付けた私に、王子の冷たい声が命令した。

「違う。そうじゃなくて、君は俺の顔を跨ぐんだ」
「え……」
それって、つまり。

「このままじゃ嫉妬に狂って採取に協力どころじゃないからね。俺にも君を舐めさせて?」
大丈夫。触れても抱くことはしないよ。
初めて見る凶暴な笑みを浮かべ、アレン様はそう言った。



「あっあぁぁぁっっ」
下着の隙間から、彼の指と舌が何度も出入りをする。
脳が痺れそうな程の快楽に背中の肌が粟立つ。
跨いだ彼の顔を押しつぶしてしまわないように、抜けそうな力をなんとか足に込めた。

「ハルカ? さっきから全然手も口も動いていないよ? こんなんじゃ、採取できないと思うなぁ」
「だ、って……っ!それは、アレン様、がっ、あぁ!!」
巧みな動きに翻弄されてもう手はシーツを掴むことしかできない。

「君のここ、ドロドロのグチャグチャでお漏らししてるみたいだ」
その事実を私に突きつけるように王子の指がぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てる。
「俺の体液じゃなくて、ハルカの愛液ならいくらでも採取できそうなのにね」

数年ぶりに他人の指と舌に敏感なそこを触れられて理性が保てない。
口からは嬌声を上げることしかできない。

「もうこの下着、着ている意味がないし脱いじゃおうか」
「それ、は……」
駄目だ。頭の中で危険信号が点滅する。
だけど────

「なんだか俺、君に触られるより、触ってる方が興奮するみたい」

君が脱いでくれた方が早く採取できると思うな。

言葉と同時に尖りきった花芯を強く吸われて私の理性は陥落した。


「足、自分で抱えて俺の方に広げて見せて」

ビスチェもパンツも脱がされた生まれたままの姿で、王子に向かって足を開く。
「あぁ……真っ赤に充血して、物欲しそうにヒクヒクしてるのがよくわかるね。ヌルヌルだ」
居た堪れなくて目をギュッとつぶった。
それでも足を閉じてしまわないように膝を抱え直す。

そんな私の姿に王子が絞り出すように呟いた。

「──まったく、君にここまでさせるカケルという男を心底殺してやりたいよ」

「おう、じ?」
瞼を上げると泣きそうに歪んだアレン様の顔が有った。

「本当は、初めて君に触れる時は慎重に慎重に、君が嫌がることなんて一つもしないで愛したかったんだ」
「アレン様……」
「好きな娘が、他の男のところへ帰るために口淫までする姿を見て冷静でいられなかった」

好き。
今まで冗談めかして好意を告げられたことは有っても、はっきりと言われたことのなかった言葉に胸が高鳴る。

「出会ったばかりの頃の君は、本当にいつもカケルの話ばかりしていたから本気で気持ちを伝えられなかった。
だけどカケルが、君と言葉を交わしたこともないような存在だと言うのなら、俺は、君を元の世界に帰したくない」

王子の声には、聞いている私の方が切なくなる響きが有った。
そろり……と体勢を崩してそっとアレン様の頬に触れる。


『別の世界へ移動するための道具』
それを見つけた時にはページをめくる指が震えた。
そして、真っ先に頭に浮かんだのはアレン様の顔だった。

これで、やっと日本に帰れる。これで、やっとカケル君に会える。
両親や友人、職場の人も心配しているかもしれない。
必死に取った薬剤師の資格も無駄にならなくて済む。
この世界での贅沢な生活にはなんの未練も無かった。


だけど。
だけど、日本に帰ってしまったら、もうアレン様には会えないかもしれない。


帰りたい。帰りたくない。帰りたい。
自分でも、自分がどうしたいのかわからなかった。

──だから、私は今日アレン様の部屋に来ると決めた。
もし日本に帰ることになっても、最後に彼に触れた思い出が欲しかった。
流されて抱かれてしまっても良いと、心のどこかで思っていた。
……アレン様自身の気持ちなんて、考えずに。

「王子……私は、異邦人で、庶民で、王宮でのしきたりも、まだ完全には理解できていません」
「そんなもの、君の存在の前では無意味だ。しきたりなど、新しく作ってしまえば良い」
私の手にアレン様の手が重なる。

「私は、王の愛人などで生涯を終えたくありません。だけど、好きだと言ってくれる貴方に抱かれてしまったら、きっともう元の世界へは戻れなくなる」
「君を愛人なんかにする気は無い。君が俺を受け入れてくれるのなら、誰を黙らせてでもハルカを正妃にするよ」
続きを聞かせて──。声を出さずに唇が促す。

「アレン様、本当は私も貴方の側から離れたくなかった。
──愛しています。私の気持ちを、受け入れてくださいますか?」
脳裏に浮かぶ情景を振り切って、アレン様への想いを口にする。

「っ、もちろんだ」
強く抱きしめられて息が止まるかと思った。

もう離さない。
誓いの言葉はお互いの唇に吸い込まれた。



仰向けに寝そべったアレン様の腰に跨りその隆起に手を添える。
息を吐きながらゆっくりと腰を落とした。

もう日本へは戻らない。
そう決めた私は最後の告白を王子に打ち明けた。
つまり、実はカケル君は絵の中の登場人物なんです。と────。

それを聞いた王子は目を限界まで見開いた後、初めて見る笑顔パート2なドス黒い笑みを浮かべた。
「……うん。言いたいことは色々有るけど、ハルカ。今まで俺が悩んだお返しに、君自身で俺を受け入れてくれるかな?」
……その笑顔がカケル君が怒った時の顔に似ていてときめいたのはここだけの話だ。


行為自体は初めてじゃなくてもこれだけの質量を受け入れるのは初めてで、慎重にそれを沈める。
ミチミチと入り口と中が広がるのがわかった。根本までおさめると凄まじい圧迫感だ。
隙間なく体内を埋める存在が愉悦の場所に当たる。
浅く息を吐いてせり上がってくる快感をやり過ごしながら腰を動かした。
天蓋の中に、水音が響く。

腹の奥に溜まる熱に集中していたら、突然下から胸を持ち上げられ、形が変わるのを楽しむようにやわやわと揉まれた。先端を摘ままれ腰の動きが一瞬止まる。
「あ、今、きゅって締まったよ。ハルカはこれが好きなんだね」
面白い玩具を見つけたように何度も何度も指が遊ぶ。
その度にアレン様を受け入れているそこが疼いた。
水音が一層激しくなる。

「っあ、アレンさ、ま…!あぁっっ」
身体に走る感覚が堪らなくて、力の抜けた私をアレン様が抱えてひっくり返した。
背中の下でベッドが軋む。
「やっぱり、ハルカだけに頑張らせるのも悪いからね。今度は俺の番」
壮絶な色気を湛えた美しい微笑。

言うなりガツガツと奥を突かれた。
子宮口を刺激され限界まで快楽が高まるのがわかる。
「あ、あ、わたし、もう……っ!」
「良いよ。達して」
ぐりぐりと腰を押し付けられて体内が痙攣した。
目の前がチカチカと白く点滅する。

「凄い、ハルカの動き……絞り取られちゃいそうだ」
イったばかりの敏感な中を擦られてもう何も考えられない。
頭に浮かぶのはただ気持ち良いという欲望だけ。

「もう、採取はしなくて良いんだもんね。君の、中に、出すよ」
「だい、じょうぶで、す、来て、アレン様……っ」
私の中で彼が脈打ち、私は彼の白濁を受け入れた。





「君のことだからきっと避妊薬を呑んで来ていると思うけど」
情事の後、私の髪を撫でながらアレン様が切り出す。
「アレン様は本当に私の行動を読んでらっしゃいますね」
「なんだ。やっぱり呑んでいたのか。──次からは呑まなくて良いからね。俺の子を孕めば良い」
甘く蕩けるような瞳で見つめられて目眩がしそうだ。
この人の子供を産む日、そんな未来が来て欲しい。

「夜が明けたら父上たちにハルカのことを報告するよ」
「反対されないでしょうか……」
「まさか! 言っただろう? 君はこの国の恩人だ。反対なんかされるわけない。……されたとしても黙らせる。
まあ父上と母上は君を本当の娘のように思ってるみたいだから、そんな心配はいらないだろうけどね」

なんか、さっきからちょいちょい黒いよねアレン王子。
でもそんなところに胸が高鳴るのは、カケル君に似てるからだけじゃなくて、私が彼に恋しているからなんだろうと思う。

「私も、貴方の隣に相応しい存在になれるように努力します」
「ハルカ……何が有っても君を守り、どんな時も君を支えるよ」

お互いの頬に手を添えて、私たちはどちらからともなく長い口づけを交わした。





その後、この国の王の正妃となった錬金術師が、その技術でサウザグルスに末長い平和と繁栄をもたらすのは、それはまた別の話。



fin
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