【R18】私、悪役令嬢。〇〇をしないと出られない部屋をつくったせいでピンチです！

【4】

　銀の星が空に輝く冬の夜。
　聖夜祭を間近に控えたキリィアレス王国は、当日を楽しみにする人々で賑わっている。

　パウゼヴァング家のバルコニーから街の灯りを見下ろし、ハイデマリーは高笑いをしたい気分だった。

「間に合った！　間に合ったわ！　聖夜祭までに『○○をしないと出られない部屋』の完成にこぎ着けたわ……！」

　大人が四人寝転がっても余裕のあるサイズの天蓋ベッドに、花の形を模したロマンチックなシャンデリア。
　ここは、屋敷の一番端にある空き部屋をハイデマリーが魔力で改造した『○○をしないと出られない部屋』だ。

　何故こんなものをハイデマリーが造ったのか。
　それには深いようで浅い、浅いようで深い理由がある。

　今から十二年前に自分が乙女ゲームの悪役令嬢であり、更に自身が重ねた罪により破滅することを思い出したハイデマリー。

　この日から、ハイデマリーは断罪を回避するため清く正しく美しく生きることに決めた。

（幸い、ハイデマリーがどうしようもないほどに悪事を働くのは魔法学園に入学してからだもの。6歳の今からならいくらでも挽回できるはず……！）

　6歳の時のハイデマリーは、ただのワガママで強気な公爵令嬢に過ぎない。
　彼女の運命が狂い始めるのは、13歳で魔法学園に入学し黒魔法の才能を開花させてからだ。

　強力な黒魔法は魔力を練り上げれば、相手を意のままに操れる呪いとなる。
　そのことに気がついたハイデマリーは洗脳した生徒に犯罪行為をさせ、その証拠を元に更に自分に服従を誓わせた。
　こうして自分に逆らえない人間で周囲を固め、ハイデマリーは学園に女王として君臨する。

　邪魔者を全て排除し、欲しいものはなんだって手に入れて見せる。
　王太子と婚約するのも自分だ。
　完璧な王子こそ、完璧な自分の相手に相応しい。

　常々周囲に吹聴していたハイデマリーの学園生活は薔薇色だった。
　このまま学園を卒業すれば、王太子妃に選ばれるに違いない。

（そしてハイデマリーの悪事の直接的な実行役が、ライアスだったのよね）

　ライアスは赤ん坊の時から12歳まで闇の組織で育てられ、違法な薬物や毒の知識など暗殺術を仕込まれていたという、乙女ゲームの攻略対象の中でもかなり不憫な過去と設定が盛り盛りのキャラクターだった。
　そのせいでハイデマリーにも能力を利用され、暴力や脅迫行為、ハイデマリーに不利になる証拠の後始末をさせられることになってしまう。

（私はライアスにそんなことさせない……！　これは断罪回避のためだけじゃなく、そんな酷いことを私が許せないからよ……！）

　自分のためにもライアスのためにも、絶対にゲームとは違う人生を歩んでみせる。
　そう決意し拳を握るハイデマリーに、ライアスが冷めた声で話しかけた。