11 / 11
ご主人様の腕の中
しおりを挟む
響く爆発音。飛び散る破片。立ち込める砂煙。
崩れた壁の向こうにたくさんの黒い影が蠢く。
(警察が来てくれた……?)
埃っぽい空気の中、希望を持って目を凝らすと、その影たちの正体は──
大量の動く骸骨だった。
「みぎゃああぁぁぁぁぁああぁぁっっっ?!!!」
「うわあぁぁぁぉぁぁぉぁああぁっっっ?!!!」
私が叫んだことで催眠の解けた男たちも同時に叫ぶ。
「なん何だよコレ?!」
「アトラクションの誤作動か?!」
パニックになり逃げ惑う誘拐犯を、止めどなく溢れ続ける骸骨がガシャガシャと音を立てて追いかける。その様は正に地獄絵図。
だけど容赦なく男たちに襲いかかる骸は、何故か私には一定の距離以上近づいて来なかった。
腰が抜けて動けないまま、場が鎮圧されるのを呆然と見守る。
──急に、骸骨たちが何かに気づいたように道を開けた。
崩れた壁の穴から、座り込む私にまで伸ばされた骨の道。
その真ん中をスーツ姿の累さんが歩いて来る。
珍しく後ろに流された前髪。仕立ての良いグレーのスリーピーススーツ。長身が着こなす黒のロングコート。手入れの行き届いた革靴。
こんな時なのに、累さんはランウェイを歩くトップモデルのようだった。
「サーヤ、ケガは無い?」
高いスーツが汚れてしまうのに、埃にまみれた床に累さんが膝をつく。
大きな掌に頬を包まれて堪らなく安心した。心配そうに覗き込んでくれる瞳が泣きたいほどに愛しい。
「だい、じょうぶ……です。どこも、痛くないです」
「良かった」
ぎゅっと頭を抱き締められる。
「今すぐサーヤにたくさんキスをしたいけど……始末しなきゃいけないからちょっと待っててね」
物騒な言葉を口にして、累さんは蕩けそうなくらい柔らかく微笑んだ。
「主犯格は誰かな?」
立ち上がり振り返った累さんの問いに、骸骨に床に押さえつけられた男たちは答えない。
「そう……。まあ誰でも良いや。どうせ同じだし」
そう言いながら一番近くで拘束されていた男に近付く。
骸骨が累さんに従うように男を差し出した。
軽々と差し出された男の胸ぐらを片手で掴んで立たせる。
男も私同様腰が抜けているのか足に力が入っていない。
──と、累さんの長い足が男の腹にめり込んだ。
強烈な膝蹴りを食らって男が呻く間もなく今度はその左頬を殴り付ける。
吹き飛んだ男の口から血と一緒に白い欠片が吐き出された。──きっと歯が折れたんだろう。
「る、累さんっ!」
殴り飛ばした男が失神したのを確認して他の二人の元へ歩き出す累さんを慌てて止める。
「ん? どうしたのサーヤ?」
「これ以上やったら累さんの社会的地位と信用がっ」
「これくらいでどうにかなる地位なんて持ってないよ。……どうにかなりそうな時でも握り潰せるし」
爽やかな笑顔に似合わない悪魔の言葉。
「私っ無事でしたから! 体も貞操も無事でしたから!」
だからどうか人殺しだけはっ!!
力の入らない下半身でズリズリと自分に近づこうとする私を見て、累さんが焦ったように駆け寄ってきた来た。
「こんな汚い所を這って怪我したらどうするの!」
──色々突っ込みたい点は置いておいて、意識が逸れている間に気になっていた疑問をぶつける。
このままだと誘拐犯の命が危ない。
「どうやってココがわかったんですか?」
「随分お粗末な犯人だったからね。逆探知なんて簡単だったよ」
私の無事をその唇で確認するみたいに、手の指に一本ごとに口付けられる。
「このガイコツたちは……?」
「警察を動かすのに時間がかかりそうだったから、うちの祓魔師に召喚して貰ったんだ」
フツマシって本当にいたんだ。そしてガイコツって召喚できるんだ。
世の中にはまだまだ知らないことがたくさん有る。自らも淫魔の身で在りながら世界の広さに感心する。
「遊園地の施設、壊しちゃって怒られませんか?」
「あぁ。それなら大丈夫。今日からこの遊園地の権利は俺の物だから。買っちゃった」
……。
………………。
…………………………。
「何しちゃってるんですかーーーーっ?!」
人参が安かったから買っちゃった☆ みたいなノリで言われて思わず絶叫する。
身代金5億と遊園地の権利ってどっちが安いの?!
私が累さんに迷惑かけないように頑張ろうとした意味は?!
「……だって、サーヤは俺の大切な人だから」
脳内で桁違いの計算器を叩く私の頭を、優しい手が撫でる。
「累さん……」
普段とは違う髪型の綺麗な顔が角度を変えて近付く。
こんな時に見惚れる私はどうかしてる。
でも、その唇を受け入れたい。
そう私が瞼を閉じた時──
「シャチョー。全部、片付いたけど」
突然聞こえた声にバッ! と音がしそうな勢いで密着した身体を離す。
「あぁトーマ君。ご苦労様」
「アイツらも警察に運んでる」
「さすが協会のSクラス。仕事が早くて助かるよ」
平然と会話をしながら私の髪を撫でる手は止まらない。
そんな私たちを無表情に見るのは、氷の彫刻で作られたみたいな整った顔の男の子。白い神父さんのようなコートを着ている。
格好と話の流れから、この子が骸骨を召喚した祓魔師さんだろう。
いつの間にか、部屋を埋め尽くすほどいた骸骨も誘拐犯もいなくなっていた。
「休日出勤の手当てもっと上乗せするよ」
「金はこれ以上いらない」
「じゃあ最初の約束通り、君の彼女が好きなキャラクターの限定版ぬいぐるみを届けさせるね」
「どーも」
「あっあの!」
そのまま軽く会釈して去っていこうとする男の子の袖を掴んで引き止める。
「なに?」
「助けてくれてありがとうございました! ガイコツさんたちにもお礼を伝えてください!」
ガラス玉みたいな目を瞬かせて、しばらく無言で私を見下ろした男の子がボソリと呟く。
「あんた、そのチョーカー、発信器……」
え、ナニ? ハッシンキ?
「いや……あんたのアクセサリー、全部……」
ゼンブ、ナニ?
「トーマ君、ぬいぐるみ要らないの?」
お礼を言ったのに謎の言葉が降ってきて困惑する私の思考を、累さんの言葉が遮断する。
ぬいぐるみのことを持ち出されたエクソシストの男の子はアッサリと踵を返した。
「ま、いいや。お疲れ」
夕暮れの遊園地の中をお姫様抱っこで累さんに運ばれる。
囚われた私をお城に助けに来てくれたこの腕の持ち主は、本当に王子様みたいだった。
そんなロマンチックなシチュエーションなのに、私の心は沈んでいた。
「早く家に帰ろうね」
累さんはそう言ってくれたけど、累さんは婚約者がいる身。
これ以上、人外の私が一緒にいてはいけない人だろう。
「累さん……」
「なぁに?」
甘く優しい声が私の決心を鈍らせる。
それでも累さんの将来のことを考えて口を開いた。
「私、あの家には帰りません。もう、累さんと一緒には暮らせません……」
ピタっと私を抱いたまま累さんの足が止まる。
急に周囲の気温が下がった気がするのは気のせいだろうか。
「あの男達に、何か言われたの?」
私を見下ろす瞳に何故か怒りの炎が燃えた。
「やっぱり殺しておけば良かったかな?」
「殺さないでください!」
誘拐は許せない犯罪だけど、累さんの人生に汚点がつくのは困る。
「累さんは婚約者がいるんでしょう? その彼女に悪いから、もう一緒には暮らせないです」
「……俺のところから出て行って『食事』はどうするの?」
ギリギリと痛いくらいに私を抱く手に力がこもる。
「それは……どうにか……」
本当はもう、累さん以外の人間の精気なんて吸いたくない。
考えただけで胸焼けがする。
だけど、私以外の女性の隣で微笑む彼の姿を見ることの方がもっと嫌だった。
「自分で歩くので下ろして下さい……」
「離さないよ」
「……え?」
夕日を受けた壮絶な美貌が怖いくらいの眼差しで私を見つめる。
「婚約者って何のこと? 俺には誰かと婚約した覚えは無いけど?」
「だってあの誘拐犯たちが私を累さんの婚約者と間違えて。大切な婚約者のためなら5億円くらい払うだろうって……」
そう。私は累さんの婚約者と勘違いされて身代金のために誘拐されたのだ。
「間違ってないよ。サーヤは俺の大切な人だよ。さっきもお城の中で言ったのに、聞いてなかったの?」
チュッとおでこにキスをされる。
「で、でも! 私は淫魔でっ」
「それが何? サーヤの個性でしょ」
「戸籍だって無くて!」
「戸籍くらいいくらでも用意出来るけど? ……と言うかもう作ってあるよ?」
……作っちゃったの? それってはんざ(略)
「でもでも! 累さんの子供だって産めるかわからない!」
尚も言い募ろうとする私の唇を人差し指が止める。
「そんなこと気にしないで。俺は、サーヤが好きだよ」
その言葉に我慢していた涙が溢れた。
「私だって! 累さんが好きです!」
「じゃあ何も問題は無いよね? 一生、俺の側にいてくれる?」
「っ、はい……!」
長い長いキスの後、濡れた唇を舐めながら累さんが笑う。
「──でも、そんなに心配なら、今夜から、赤ちゃんができるか試してみようね」
「……はい」
カッと体温が上がるのを意識しながら頷いた。
「大丈夫。たくさんしてれば人間と淫魔の間にでもすぐできるよ」
うなじをなぞる指に、原因不明の快楽以外の震えを感じる。
「累さん……?」
「たくさん子供ができれば、俺から離れようなんてもう二度と思わないよね?」
「で、できなくても離れないですっっ!」
だからそのドス黒い笑顔を引っ込めて?!
「ダーメ。今夜から、たっぷり、サーヤが誰のものかその身体にまた教えてあげる。──お仕置きだよ」
──こうして、私はその後3日間、ベッドから出られないはめになったのだった。
fin
崩れた壁の向こうにたくさんの黒い影が蠢く。
(警察が来てくれた……?)
埃っぽい空気の中、希望を持って目を凝らすと、その影たちの正体は──
大量の動く骸骨だった。
「みぎゃああぁぁぁぁぁああぁぁっっっ?!!!」
「うわあぁぁぁぉぁぁぉぁああぁっっっ?!!!」
私が叫んだことで催眠の解けた男たちも同時に叫ぶ。
「なん何だよコレ?!」
「アトラクションの誤作動か?!」
パニックになり逃げ惑う誘拐犯を、止めどなく溢れ続ける骸骨がガシャガシャと音を立てて追いかける。その様は正に地獄絵図。
だけど容赦なく男たちに襲いかかる骸は、何故か私には一定の距離以上近づいて来なかった。
腰が抜けて動けないまま、場が鎮圧されるのを呆然と見守る。
──急に、骸骨たちが何かに気づいたように道を開けた。
崩れた壁の穴から、座り込む私にまで伸ばされた骨の道。
その真ん中をスーツ姿の累さんが歩いて来る。
珍しく後ろに流された前髪。仕立ての良いグレーのスリーピーススーツ。長身が着こなす黒のロングコート。手入れの行き届いた革靴。
こんな時なのに、累さんはランウェイを歩くトップモデルのようだった。
「サーヤ、ケガは無い?」
高いスーツが汚れてしまうのに、埃にまみれた床に累さんが膝をつく。
大きな掌に頬を包まれて堪らなく安心した。心配そうに覗き込んでくれる瞳が泣きたいほどに愛しい。
「だい、じょうぶ……です。どこも、痛くないです」
「良かった」
ぎゅっと頭を抱き締められる。
「今すぐサーヤにたくさんキスをしたいけど……始末しなきゃいけないからちょっと待っててね」
物騒な言葉を口にして、累さんは蕩けそうなくらい柔らかく微笑んだ。
「主犯格は誰かな?」
立ち上がり振り返った累さんの問いに、骸骨に床に押さえつけられた男たちは答えない。
「そう……。まあ誰でも良いや。どうせ同じだし」
そう言いながら一番近くで拘束されていた男に近付く。
骸骨が累さんに従うように男を差し出した。
軽々と差し出された男の胸ぐらを片手で掴んで立たせる。
男も私同様腰が抜けているのか足に力が入っていない。
──と、累さんの長い足が男の腹にめり込んだ。
強烈な膝蹴りを食らって男が呻く間もなく今度はその左頬を殴り付ける。
吹き飛んだ男の口から血と一緒に白い欠片が吐き出された。──きっと歯が折れたんだろう。
「る、累さんっ!」
殴り飛ばした男が失神したのを確認して他の二人の元へ歩き出す累さんを慌てて止める。
「ん? どうしたのサーヤ?」
「これ以上やったら累さんの社会的地位と信用がっ」
「これくらいでどうにかなる地位なんて持ってないよ。……どうにかなりそうな時でも握り潰せるし」
爽やかな笑顔に似合わない悪魔の言葉。
「私っ無事でしたから! 体も貞操も無事でしたから!」
だからどうか人殺しだけはっ!!
力の入らない下半身でズリズリと自分に近づこうとする私を見て、累さんが焦ったように駆け寄ってきた来た。
「こんな汚い所を這って怪我したらどうするの!」
──色々突っ込みたい点は置いておいて、意識が逸れている間に気になっていた疑問をぶつける。
このままだと誘拐犯の命が危ない。
「どうやってココがわかったんですか?」
「随分お粗末な犯人だったからね。逆探知なんて簡単だったよ」
私の無事をその唇で確認するみたいに、手の指に一本ごとに口付けられる。
「このガイコツたちは……?」
「警察を動かすのに時間がかかりそうだったから、うちの祓魔師に召喚して貰ったんだ」
フツマシって本当にいたんだ。そしてガイコツって召喚できるんだ。
世の中にはまだまだ知らないことがたくさん有る。自らも淫魔の身で在りながら世界の広さに感心する。
「遊園地の施設、壊しちゃって怒られませんか?」
「あぁ。それなら大丈夫。今日からこの遊園地の権利は俺の物だから。買っちゃった」
……。
………………。
…………………………。
「何しちゃってるんですかーーーーっ?!」
人参が安かったから買っちゃった☆ みたいなノリで言われて思わず絶叫する。
身代金5億と遊園地の権利ってどっちが安いの?!
私が累さんに迷惑かけないように頑張ろうとした意味は?!
「……だって、サーヤは俺の大切な人だから」
脳内で桁違いの計算器を叩く私の頭を、優しい手が撫でる。
「累さん……」
普段とは違う髪型の綺麗な顔が角度を変えて近付く。
こんな時に見惚れる私はどうかしてる。
でも、その唇を受け入れたい。
そう私が瞼を閉じた時──
「シャチョー。全部、片付いたけど」
突然聞こえた声にバッ! と音がしそうな勢いで密着した身体を離す。
「あぁトーマ君。ご苦労様」
「アイツらも警察に運んでる」
「さすが協会のSクラス。仕事が早くて助かるよ」
平然と会話をしながら私の髪を撫でる手は止まらない。
そんな私たちを無表情に見るのは、氷の彫刻で作られたみたいな整った顔の男の子。白い神父さんのようなコートを着ている。
格好と話の流れから、この子が骸骨を召喚した祓魔師さんだろう。
いつの間にか、部屋を埋め尽くすほどいた骸骨も誘拐犯もいなくなっていた。
「休日出勤の手当てもっと上乗せするよ」
「金はこれ以上いらない」
「じゃあ最初の約束通り、君の彼女が好きなキャラクターの限定版ぬいぐるみを届けさせるね」
「どーも」
「あっあの!」
そのまま軽く会釈して去っていこうとする男の子の袖を掴んで引き止める。
「なに?」
「助けてくれてありがとうございました! ガイコツさんたちにもお礼を伝えてください!」
ガラス玉みたいな目を瞬かせて、しばらく無言で私を見下ろした男の子がボソリと呟く。
「あんた、そのチョーカー、発信器……」
え、ナニ? ハッシンキ?
「いや……あんたのアクセサリー、全部……」
ゼンブ、ナニ?
「トーマ君、ぬいぐるみ要らないの?」
お礼を言ったのに謎の言葉が降ってきて困惑する私の思考を、累さんの言葉が遮断する。
ぬいぐるみのことを持ち出されたエクソシストの男の子はアッサリと踵を返した。
「ま、いいや。お疲れ」
夕暮れの遊園地の中をお姫様抱っこで累さんに運ばれる。
囚われた私をお城に助けに来てくれたこの腕の持ち主は、本当に王子様みたいだった。
そんなロマンチックなシチュエーションなのに、私の心は沈んでいた。
「早く家に帰ろうね」
累さんはそう言ってくれたけど、累さんは婚約者がいる身。
これ以上、人外の私が一緒にいてはいけない人だろう。
「累さん……」
「なぁに?」
甘く優しい声が私の決心を鈍らせる。
それでも累さんの将来のことを考えて口を開いた。
「私、あの家には帰りません。もう、累さんと一緒には暮らせません……」
ピタっと私を抱いたまま累さんの足が止まる。
急に周囲の気温が下がった気がするのは気のせいだろうか。
「あの男達に、何か言われたの?」
私を見下ろす瞳に何故か怒りの炎が燃えた。
「やっぱり殺しておけば良かったかな?」
「殺さないでください!」
誘拐は許せない犯罪だけど、累さんの人生に汚点がつくのは困る。
「累さんは婚約者がいるんでしょう? その彼女に悪いから、もう一緒には暮らせないです」
「……俺のところから出て行って『食事』はどうするの?」
ギリギリと痛いくらいに私を抱く手に力がこもる。
「それは……どうにか……」
本当はもう、累さん以外の人間の精気なんて吸いたくない。
考えただけで胸焼けがする。
だけど、私以外の女性の隣で微笑む彼の姿を見ることの方がもっと嫌だった。
「自分で歩くので下ろして下さい……」
「離さないよ」
「……え?」
夕日を受けた壮絶な美貌が怖いくらいの眼差しで私を見つめる。
「婚約者って何のこと? 俺には誰かと婚約した覚えは無いけど?」
「だってあの誘拐犯たちが私を累さんの婚約者と間違えて。大切な婚約者のためなら5億円くらい払うだろうって……」
そう。私は累さんの婚約者と勘違いされて身代金のために誘拐されたのだ。
「間違ってないよ。サーヤは俺の大切な人だよ。さっきもお城の中で言ったのに、聞いてなかったの?」
チュッとおでこにキスをされる。
「で、でも! 私は淫魔でっ」
「それが何? サーヤの個性でしょ」
「戸籍だって無くて!」
「戸籍くらいいくらでも用意出来るけど? ……と言うかもう作ってあるよ?」
……作っちゃったの? それってはんざ(略)
「でもでも! 累さんの子供だって産めるかわからない!」
尚も言い募ろうとする私の唇を人差し指が止める。
「そんなこと気にしないで。俺は、サーヤが好きだよ」
その言葉に我慢していた涙が溢れた。
「私だって! 累さんが好きです!」
「じゃあ何も問題は無いよね? 一生、俺の側にいてくれる?」
「っ、はい……!」
長い長いキスの後、濡れた唇を舐めながら累さんが笑う。
「──でも、そんなに心配なら、今夜から、赤ちゃんができるか試してみようね」
「……はい」
カッと体温が上がるのを意識しながら頷いた。
「大丈夫。たくさんしてれば人間と淫魔の間にでもすぐできるよ」
うなじをなぞる指に、原因不明の快楽以外の震えを感じる。
「累さん……?」
「たくさん子供ができれば、俺から離れようなんてもう二度と思わないよね?」
「で、できなくても離れないですっっ!」
だからそのドス黒い笑顔を引っ込めて?!
「ダーメ。今夜から、たっぷり、サーヤが誰のものかその身体にまた教えてあげる。──お仕置きだよ」
──こうして、私はその後3日間、ベッドから出られないはめになったのだった。
fin
0
お気に入りに追加
264
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
【R18】フッて追われておとされて
茅野ガク
恋愛
初恋の人魚の王子に執着されて絡め取られるお姫様の話。
※触手注意です。
※ムーンライトノベルズにも投稿中。
表紙はウメコさんに作っていただきました!
【R18】帰るための材料に××ください!
茅野ガク
恋愛
ある日突然異世界トリップした薬剤師のハルカ。
彼女は日本での調剤の知識を活かして宮廷錬金術師の地位を手に入れる。
恵まれた生活。しかし彼女にはどうしても日本に帰りたい理由があった。
そして遂に見つけた日本へ帰るためのアイテムの作成方法。
そのアイテムの材料は──高貴な人物の体液!
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
☆表紙はまるぶち銀河さん(Twitter→ @maru_galaxy )に描いて頂きました!
【R18】制裁!淫紋!?~嵌められた とりまき令嬢、助けを求めたのは隠し攻略対象(※王弟)でした~
茅野ガク
恋愛
悪役令嬢のとりまきに転生したけどこっそりヒロインを助けていたら、それがバレて制裁のために淫紋を刻まれてしまった伯爵令嬢エレナ。
逃げ出した先で出会ったのは隠しキャラの王弟で――?!
☆他サイトにも投稿しています
【R18】婚約破棄に失敗したら王子が夜這いにやってきました
ミチル
恋愛
婚約者である第一王子ルイスとの婚約破棄に晴れて失敗してしまったリリー。しばらく王宮で過ごすことになり夜眠っているリリーは、ふと違和感を覚えた。(なにかしら……何かふわふわしてて気持ちいい……) 次第に浮上する意識に、ベッドの中に誰かがいることに気づいて叫ぼうとしたけれど、口を塞がれてしまった。
リリーのベッドに忍び込んでいたのは婚約破棄しそこなったばかりのルイスだった。そしてルイスはとんでもないこと言い出す。『夜這いに来ただけさ』
R15で連載している『婚約破棄の条件は王子付きの騎士で側から離してもらえません』の【R18】番外になります。3~5話くらいで簡潔予定です。
【R18】この世界の魔王はツンでクールな銀髪美少年だ
茅野ガク
恋愛
日本から召喚された聖女と、銀髪少年魔王様の話。
★表紙はコンノさん(Twitter→@hasunorenkon )に頂きました!
※他サイトにも投稿しています
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とても面白かったです。番外編などを書く予定はありますか?
とても嬉しいコメントをありがとうございます♪
累とサーヤのことは気に入っているので、上手くまとめられたら後日談等を書きたいなと思っています