【R18】魔法少女は御曹司を許さない

茅野ガク

文字の大きさ
上 下
2 / 3

ティエラ星人・レオンバルト

しおりを挟む
 レオンバルトは紳士だった。
 あまり表情筋が動かないタイプらしく真顔の美貌は凄みが有ったけれど、レオンバルトは紳士だった。

 関係者以外は人払いがされたラウンジに、ティエラ星の正装だという黒い軍服で現れたレオンバルト。
 そして迎える私も魔法少女ハニームーンの華ロリ姿。

 高級ホテルの一場面としてはなかなかのシュールな光景。でもまぁ洋画俳優みたいなレオンバルトの美形効果で映画の撮影現場に見えなくもなかった。

「はじめまして、ハニームーンです」
 身長155センチの私より30センチは高い位置に有るレオンバルトの顔。じっと見下ろしてくる瞳は、よく見ると左が青で右が緑のオッドアイ。

「レオンバルトです。お会いできて光栄です」
「日本語お上手ですね」
「貴女とお話ししたくて勉強しました」
「まぁ」

 ウフフと穏やかに済んだ自己紹介。
 その後のフランス料理のお店へのエスコートも、食事中のマナーもレオンバルトは完璧だった紳士だった。
 ……私の酒癖が炸裂するまでは。


『──あ、このワイン飲みやすい』
『女性に人気の銘柄らしいですね』
『すみません、もう一杯頼んでも良いですか? こんなに美味しいワイン初めてで』
『俺は構いませんよ』

 やめとけ。

『うにゃー、世界がグルグル回るよ~』
『酔いが醒めるまで俺の泊まってる部屋で休みますか?』
『ほぇっ! 良いんですかぁ? スイートルーム広いお部屋見てみたーい!』

 やめとけ私。

『すごーい! ひろーい! ホテルの部屋の中なのにキッチンスペースとバーカウンターがあるー!』
『バスルームとベッドルームも広いですよ』
『見たーーい!』
『良いですよ、どちらから先に見ます?』
『えーとぉ……』

 やめとけって言ってるだろこの酔っぱらいバカ女ぁぁぁぁぁ!(※私)
 目の前にいる異星人、紳士なんかじゃなくちゃっかり据え膳食うタイプのムッツリ無表情スケベ野郎の異星人だぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 おまえ、その後その野郎に────っ




「──きゃっ?!」



 
 レオンバルトとの初対5か月前面の記憶のフラッシュバックに気を取られたのが悪かったのか。
 ショートブーツの踵が思い切りステージの床に滑って体のバランスが崩れる。

「危ない」

 転びかけた私の身体を、瞬時に移動してきたレオンバルトの腕が支えた。

「ちょっと! 憎きあんたがなんで私を助けるのよ!」
「だって転んだらハニーが怪我しちゃうし。俺は憎くないし。むしろ愛し──」
「変なとこで略さないでっていつも言ってるでしょ! 私はハニームーンですっ!」
「長い……」
「長くないわよ!」
「日本語難しい……」
「だったら自分の星へ帰れっつーの!!」

 優男な外見のくせに馬鹿力で絡んで離れない腕をなんとか腰から引き剥がそうと力を込める。──が全然ビクともしない!

「って言うか! 今日の魔法少女の仕事はハロウィンイベントの警備なの! あんたに構ってる暇は無いの! なんで毎回毎回、ハニームーンの仕事現場に現れるのよ! しかも軍服正装で! 悪目立ちするでしょうがっ!」
「ハニーに会いたいって言うと課長さんが教えてくれる……」

 糸目の上司課長ぉぉぉぉぉっ?!

「あと、やっぱり好きな子に会いに来るなら正装かな、って」
「余計な気遣いだわよ! おかげで最近、あんたと私、セットのパフォーマーみたいに勘違いされてんだからねっ?」
「ハニーとセット……嬉しい……」

 ポッ。と無表情のままレオンバルトが器用に頬を染める。
 顔の筋肉が死んでるのでは? と疑いたくなるほど表情が動かない割には感情表現が豊かだ。
 その頬の色に何か感じてはいけないものを感じそうになった時、存在を忘れかけていた観客の声が私の耳に届いた。


「……え、なになに、魔法少女と敵のバトルショーじゃなくて、ラブストリーなの?」
「これ、私たち完全に痴話喧嘩見せられてるよね……?」
「チャイナっ娘、ツンデレー?!」
「お兄さん、頑張れー!」


 イイ感じにアルコールが回り始めたご機嫌な歓声。
 キース!キース!と囃し立てる様は最早ただの合コンのノリだ。

「ハニー……」

 何を思ったのか私の腰を支えるレオンバルトの腕に力が入り奴が長身を屈ませた。

「嫌だからね! 人前でなんて! 絶対に! 嫌! したら許さないから!」
「……君が望むなら」

 珍しく目元をゆるませたレオンバルトが自身の腕時計を操作すると私たちの周りの空気が歪み始める。
 ──ティエラ星の技術で作られた腕時計型転移装置。それが作動した証拠の浮遊感。

 課長ー! ごめんなさーい! 後のことは上手く誤魔化しておいてくださーいっ!

 そう願いながら、浮き上がる感覚に身を任せる。



「──って、だからってなんで、億ションあんたんちのデカいベッドの上に転移するのよ?!」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...