【R18】ハイスペDKと年上喪女 〜君の初チューを奪ったことは謝るから、もう逃がしてください〜

茅野ガク

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二次元の理由

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『茜ちゃん! 俺18歳になったよ! 結婚しよ! 俺、4月生まれで良かった~!』

 ――寝言は寝て言え小僧。
 結婚も何も、お前と私は付き合ってすらいないだろう。幼少期の生育環境が多少被っていただけの赤の他人だ。リア充はリア充の巣に帰れ。
 陽キャは陽キャの、陰キャは陰キャの森にわかれて暮らそう。それがお互いの、特に私の精神衛生のためだ。

 数ヶ月前。
 玄関のドアを開けた途端に浴びせられた湊のキラキラオーラとプロポーズの言葉を、茜は半眼で切り捨てた。

『えーでも、茜ちゃんみたいなワガママ子猫ちゃんのお世話をできるの、俺だけだと思うんだよね。茜ちゃんの生活スタイルと偏食の好みを熟知してて、漫画とアニメの話にも付き合える。オマケにピチピチのイケメン。しかも自分で資産運用してるから動かせるお金も多い。将来有望。こんなお買い得な夫候補、他にいなくない?』

 そーゆー自分のことを自分でイケメンって言う光属性のところが、無理。眩しすぎて目が潰れる。
 私みたいな腐海に住む淀んだオーラの女が街でアンタの隣を歩いてみてご覧なさいよ。ソッコーSNSで写真回されて炎上するわ。怖い。アンタを狙うJKたちの視線が怖い。
 アンタならその気になれば学校どころか芸能界でも経済界でもトップ取れるでしょ。女が欲しかったらそっちで食い散らかしてどうぞ。

『……茜ちゃん、小学生までは学年で一番モテてたのに何言ってるの? それに俺は食い散らかしたりなんかしないよ? 茜ちゃん一途だよ?』

 そう不思議そうに首を傾げられて言葉に詰まる。
 確かに茜は小学校――正確には中一の春までクラスのカースト上位女子だった。なんなら中学入学後、10日で告白されて彼氏もできた。

 しかし、あれはその年のゴールデンウィーク初日のこと。
 今では名前も顔も朧気な記憶の『元カレ』と、茜は初デートに出掛けた。
 場所はフードーコートのある大きなスーパー。文具コーナーでお揃いのシャーペンを選んだりした後、彼に奢ってもらってソフトクリームを食べた。
 なんて中学生らしい、初々しい『デート』だろう。

 出身小学校もクラスも違う男子に告白されてなんとなくOKしてみたものの、男女交際って案外ときめかないものなんだな。
 スーパーからの帰り道、夕日が差し始めた道路を『元カレ』と歩きながら、茜はしきりに話しかけてくる上擦った声を受け流して空を見つめた。

(それにうちの中学、湊くんみたいな綺麗な男の子いないんだもん。つまんない)

 そうぼんやりしていたからだろうか。『元カレ』に突然肩を掴まれて、とっさに反応できなかった。

『南雲さん……!』

 はぁはぁと吐かれる荒い息。ギラギラした血走った目。うっすら生える髭の跡。毛穴、ニキビ。

(え、男子って、こんなに汚いの?!)

 それは今まで、父親と二次成長期前の男子と湊しか間近で見たことのなかった茜には衝撃の姿だった。『元カレ』にとって不幸なことに、彼は成長が早かった。

『――ごめん! 無理っっっ!!』

 そして彼を突き飛ばし、逃げ帰った茜は湊の家へと飛び込んだ。綺麗な湊を見て、記憶の上書きをしたかったからだ。
 広い玄関でお手伝いさんと共に茜を迎えた湊は、ブルブルと震える茜を自分の部屋に連れて行き、茜の頭を撫でながら話を聞いてくれた。

『そっかぁ、怖かったね茜ちゃん。現実の男子って汚いもんね。……なら茜ちゃん、これからは男子には気をつけた方がいいよ。中学高校なんて、ヤルことしか考えなくなるって聞くもん。危ないよ。――ね、だからさ。茜ちゃんが大人になって危なくない男を見分けられるようになるまで、恋愛は漫画とかアニメの中でだけで良いんじゃない?』

 同世代の男子は危ない。大人になるまで恋愛はゲームや漫画の中だけで。

『本当は俺がずっと側にいて守ってあげたいけど、俺たち3歳違うから……。でも、うちにある漫画もゲームも、茜ちゃんなら自由に読んで良いしやって良いから。だから、いつでも俺の部屋においでよ茜ちゃん』

 そう抱き締めてきた湊の身体からは、元カレの汗臭さとは違う甘いお菓子の匂いがした。

 こうして開いた二次元の世界への扉。
 確かにきっかけは湊の言葉だったが、ある作品との出会いが茜の人生を変えた。

 『ズッきゅん☆海とキノコの仲間たち~想い出は潮風に乗って~』略して『きゅん☆キノ』。
 きゅん☆キノは少年たちの熱い友情を描いた何クールも続く人気アニメで、様々なメディアミックスが展開されている作品だった。

 だから。
 だから茜は手に取ってしまったのだ。
 そう、二次創作作品アンソロジーというものを。

『――あれ、きゅん☆キノの知らないファンブックが出てる。なんだろ、すごい可愛い絵』

 何気なく古本屋さんで売られていたソレを買って帰った茜はページをめくってぶったまげた。


『な、なんで主人公(男)とカケル君(主人公の仲間キャラ・男)がエッチなことしてるの~?!』


 でも、でも!
 リアルの男子は汚いけど二次元の世界の男の子たちは綺麗。
 その男の子たちの恋愛はもっと綺麗。
 好き同士だからエッチだってしちゃうけど、彼らのエッチはエッチまで綺麗!

 ――こうして、二次創作(BL)の世界に足を踏み入れた茜はドンドン二次元の世界にのめり込み、気づけば腐と陰の空気を愛する立派なオタクになっていた。

 そして二次元の世界にドップリ浸かって3年。
 高一になった茜は、いつものごとく湊の部屋で漫画を読もうと来栖家の前まで来て『ある光景』に遭遇してしまうのだ。

 ――湊が女の子に告白されてる……!

 中学に入学して急に背の伸びた湊。
 二次成長期を迎えても白くサラサラとした陶器のような肌の湊。
 有名進学校中等部の制服をモデル並みに着こなした湊。

 ――あれは、私が側にいちゃいけないキラキラした世界の住人だ……!

 頬を染めて湊に想いを告げる、湊と同じブレザー姿の女の子。自分なんかより、あの子の方がよっぽど彼の隣に相応しい。

 本当は住む世界が違ったのに。
 自分はたまたま湊の幼なじみという立場なだけで、通う学校制服すら同じじゃないのに。

 急に自分が湊の側にいることが恥ずかしくなった茜は、セーラー服の裾をひるがえし湊たちから背を向けた。

 ――しかし茜は気づいていなかった。

 湊の紅茶色の瞳が、逃げ出した茜の姿をしっかりと捉えていたことを。

 そして、この日から茜に対する湊の猛攻が始まった。

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