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カルテ
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「では早速ですが、こちらがシスカさんに試していただきたい化粧水と白粉です。化粧水の方は肌荒れを改善する効果の方を優先したので少し薬草臭いかもしれませんが、効果は高いはずです」
「確かに、独特の香りがしますね」
「そして白粉の方なのですが……こちらは皮膚に優しいと言ってもさすがに傷などが無い状態での使用を想定しています。シスカさん、貴女の肌の状態を確認してもよろしいでしょうか?」
「あ、えっと、はい……」
ウィルドのような美男子に自分の荒れた額を見せるのは恥ずかしかったが、覚悟を決めて俯きながら自分の前髪を上げる。家族以外の前で目元を晒すのなんて何年ぶりだろう。
(ウィルド先生はお医者様なのだから大丈夫、大丈夫……。でも絶対に瞳の色は見られないように……)
ギュッと瞼を閉じていると、体温の低いウィルドの指が頬に触れてドキリとする。
見ていないからわからないが、彼は丹念にシスカの皮膚の状態を観察しているようだ。
(恥ずかしい……! それに、なんだかウィルド先生は良い匂いがする……!)
思えば、婚約者だったマグルにだってこんな至近距離で見つめられたことはない。
「……そうですね。やはりこの前髪で覆わずに清潔にするのが肌の状態を改善するのに一番の近道だとは思うのですが……」
「それは、無理です……っ。人前で素顔を出すのは、怖いです……」
「……わかりました。ではまずは塗り薬を処方するので、朝と晩に洗顔をしてから塗ってください」
「はい……」
ウィルドの気配が離れたことを察して前髪を戻し顔を上げると、彼はカルテにペンを走らせているところだった。流れるような筆跡で治療方針が書き込まれていく。
「そう言えばウィルド先生、こちらには他の患者さんもいらっしゃるんですか?」
「えぇ、来ますよ。騎士団の連中が一番怪我をするので、そのためにこの場所を選んだくらいです。あとはまぁ、王族の方もたまに」
「まぁ」
「――ほら。噂をすればなんとやらで、早速来たみたいです」
「……え?」
シスカが聞き返すのと同時に、診療所のドアが開いた。
「確かに、独特の香りがしますね」
「そして白粉の方なのですが……こちらは皮膚に優しいと言ってもさすがに傷などが無い状態での使用を想定しています。シスカさん、貴女の肌の状態を確認してもよろしいでしょうか?」
「あ、えっと、はい……」
ウィルドのような美男子に自分の荒れた額を見せるのは恥ずかしかったが、覚悟を決めて俯きながら自分の前髪を上げる。家族以外の前で目元を晒すのなんて何年ぶりだろう。
(ウィルド先生はお医者様なのだから大丈夫、大丈夫……。でも絶対に瞳の色は見られないように……)
ギュッと瞼を閉じていると、体温の低いウィルドの指が頬に触れてドキリとする。
見ていないからわからないが、彼は丹念にシスカの皮膚の状態を観察しているようだ。
(恥ずかしい……! それに、なんだかウィルド先生は良い匂いがする……!)
思えば、婚約者だったマグルにだってこんな至近距離で見つめられたことはない。
「……そうですね。やはりこの前髪で覆わずに清潔にするのが肌の状態を改善するのに一番の近道だとは思うのですが……」
「それは、無理です……っ。人前で素顔を出すのは、怖いです……」
「……わかりました。ではまずは塗り薬を処方するので、朝と晩に洗顔をしてから塗ってください」
「はい……」
ウィルドの気配が離れたことを察して前髪を戻し顔を上げると、彼はカルテにペンを走らせているところだった。流れるような筆跡で治療方針が書き込まれていく。
「そう言えばウィルド先生、こちらには他の患者さんもいらっしゃるんですか?」
「えぇ、来ますよ。騎士団の連中が一番怪我をするので、そのためにこの場所を選んだくらいです。あとはまぁ、王族の方もたまに」
「まぁ」
「――ほら。噂をすればなんとやらで、早速来たみたいです」
「……え?」
シスカが聞き返すのと同時に、診療所のドアが開いた。
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