上 下
12 / 13

カルテ

しおりを挟む
「では早速ですが、こちらがシスカさんに試していただきたい化粧水と白粉おしろいです。化粧水の方は肌荒れを改善する効果の方を優先したので少し薬草臭いかもしれませんが、効果は高いはずです」

「確かに、独特の香りがしますね」

「そして白粉の方なのですが……こちらは皮膚に優しいと言ってもさすがに傷などが無い状態での使用を想定しています。シスカさん、貴女の肌の状態を確認してもよろしいでしょうか?」

「あ、えっと、はい……」

 ウィルドのような美男子に自分の荒れた額を見せるのは恥ずかしかったが、覚悟を決めて俯きながら自分の前髪を上げる。家族以外の前で目元を晒すのなんて何年ぶりだろう。

(ウィルド先生はお医者様なのだから大丈夫、大丈夫……。でも絶対に瞳の色は見られないように……)

 ギュッと瞼を閉じていると、体温の低いウィルドの指が頬に触れてドキリとする。
 見ていないからわからないが、彼は丹念にシスカの皮膚の状態を観察しているようだ。

(恥ずかしい……! それに、なんだかウィルド先生は良い匂いがする……!)

 思えば、婚約者だったマグルにだってこんな至近距離で見つめられたことはない。

「……そうですね。やはりこの前髪で覆わずに清潔にするのが肌の状態を改善するのに一番の近道だとは思うのですが……」

「それは、無理です……っ。人前で素顔を出すのは、怖いです……」

「……わかりました。ではまずは塗り薬を処方するので、朝と晩に洗顔をしてから塗ってください」

「はい……」

 ウィルドの気配が離れたことを察して前髪を戻し顔を上げると、彼はカルテにペンを走らせているところだった。流れるような筆跡で治療方針が書き込まれていく。

「そう言えばウィルド先生、こちらには他の患者さんもいらっしゃるんですか?」

「えぇ、来ますよ。騎士団の連中が一番怪我をするので、そのためにこの場所を選んだくらいです。あとはまぁ、王族の方もたまに」

「まぁ」

「――ほら。噂をすればなんとやらで、早速来たみたいです」

「……え?」

 シスカが聞き返すのと同時に、診療所のドアが開いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたけど、どうやら私は隣国の最強国家の王家の血筋だったようです

マルローネ
恋愛
セルフィ・リンシャンテ伯爵令嬢は婚約者のダルク・ハウーム侯爵令息に浮気による婚約破棄をされてしまう。 ダルクは隣国にある最強国家の貴族令嬢と浮気をしていたのだ。そちらに乗り換えることを画策していた。 しかし、セルフィはなんとその最強国家の王家の血筋であることが明らかになる。 ダルクのに襲い掛かる地獄が始まりの産声をあげた瞬間だった……。

元婚約者は入れ替わった姉を罵倒していたことを知りません

ルイス
恋愛
有名な貴族学院の卒業パーティーで婚約破棄をされたのは、伯爵令嬢のミシェル・ロートレックだ。 婚約破棄をした相手は侯爵令息のディアス・カンタールだ。ディアスは別の女性と婚約するからと言う身勝手な理由で婚約破棄を言い渡したのだった。 その後、ミシェルは双子の姉であるシリアに全てを話すことになる。 怒りを覚えたシリアはミシェルに自分と入れ替わってディアスに近づく作戦を打ち明けるのだった。 さて……ディアスは出会った彼女を妹のミシェルと間違えてしまい、罵倒三昧になるのだがシリアは王子殿下と婚約している事実を彼は知らなかった……。

無能と呼ばれ、婚約破棄されたのでこの国を出ていこうと思います

由香
恋愛
家族に無能と呼ばれ、しまいには妹に婚約者をとられ、婚約破棄された… 私はその時、決意した。 もう我慢できないので国を出ていこうと思います! ━━実は無能ではなく、国にとっては欠かせない存在だったノエル ノエルを失った国はこれから一体どうなっていくのでしょう… 少し変更しました。

転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。

柚木ゆず
恋愛
 前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。  だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。  信用していたのに……。  酷い……。  許せない……!。  サーシャの復讐が、今幕を開ける――。

婚約解消した後でもキス出来ると思っているのですか?

ルイス
恋愛
「お互いの為にも婚約はなかったことにしよう」 「非常に残念です……グローム様……」 伯爵令嬢のルシャ・ゼラードと侯爵のグローム・ナイトレイ。二人は婚約関係にあったが、性格の不一致やグロームの浮気が原因で婚約解消することになった。 ルシャは悲しみを乗り越え、新しい恋に生きることにする。 しかし、グロームはその後もルシャに対して馴れ馴れしく接して来るようになり……。

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

【完結】あなただけがスペアではなくなったから~ある王太子の婚約破棄騒動の顛末~

春風由実
恋愛
「兄上がやらかした──」  その第二王子殿下のお言葉を聞いて、私はもう彼とは過ごせないことを悟りました。  これまで私たちは共にスペアとして学び、そして共にあり続ける未来を描いてきましたけれど。  それは今日で終わり。  彼だけがスペアではなくなってしまったから。 ※短編です。完結まで作成済み。 ※実験的に一話を短くまとめサクサクと気楽に読めるようにしてみました。逆に読みにくかったら申し訳ない。 ※おまけの別視点話は普通の長さです。

婚約者の妹を虐めていたと虚偽の発言をされた私は……

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のミリーは侯爵であるボイドに婚約破棄をされてしまう。その理由は……ボイドの妹であるシエナを虐めていたからだった。しかし、それは完全に嘘であったがボイドは信じず、妹の言葉を100%信じる始末だった。 ミリーの味方は彼女の幼馴染ということになるが……。

処理中です...