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診療所

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「――どうぞ。ここが私の診療所、兼、研究室です。治療法や薬の開発のために泊まり込むことが増えたので、騎士団の練習場の近くに住居を兼ねた診療所を経ててくれって頼んだんですよ」

 化粧品の開発に協力するとウィルドに返事をしてから3日後。シスカはまだ何かの夢を見ているような気分でウィルドに案内された建物のドアをくぐった。

(まさか私がお城に通うことになるなんて)

 ウィルドの手伝いをする、すなわち彼の勤め先……王宮に通うことだとシスカが気づいたのは、ウィルドに「ではいつから通って来ていただけますか?」と聞かれた後だった。

 12歳の時から華やかな場に縁の無かったシスカにとっては緊張する場所だが、引き受けてしまった以上そうも言っていられない。

(まぁ私はニクス侯爵のお手伝いをするのであって、お茶会に出たり王族の方にご挨拶をするわけでもないし……。大丈夫よね……?)

 診療所部分として使われている部屋は白を基調とした清潔感のある造りで消毒液の匂いがした。壁に備え付けられた棚には薬草や薬の瓶、包帯などが入っているであろう箱が並べられている。

「頼んだって……、それで建ててもらえるなんて、ニクス侯爵はそれだけ信頼されているんですね」

「仕事しかすることがなくて没頭していただけですよ。最近は研究がメインで包帯の巻き方なんて忘れそうです」

「まぁ。ニクス侯爵が冗談をおっしゃるんなんて」

「よく勘違いされるのですが、私はそこまで真面目な男でもないですよ。……どうぞここではウィルドと呼んでください。城の者にはそう呼ばれているので。それと医師として接してもらった方が助かります」

「では、……ウィルド先生」

「はい」

「今日はアルバレットの屋敷から王宮までの馬車を手配してくださっただけでなく、ドレスまで用意してくださってありがとうございます。……我が家だけでは、王宮に着て来られるような衣装なんて何着も準備できませんでした」

「私の研究に協力してもらう以上、シスカさんに不便な思いをさせるわけにはいきませんからね。既製品ですが違和感などないみたいで良かった。制服の支給みたいなものだと思って金銭面のことは気にしないでください」

 今シスカが着ている深緑色のドレスは、街一番と有名な仕立屋からウィルドの名で届いたものだ。上品なデザインで動きやすく、伯爵令嬢というシスカの立場を汲みつつも、診療所でも邪魔にならないすっきりとしたシルエットになっている。

(本来ならここは怪我人や具合の悪い方が来る場所だものね。華美なデザインじゃ浮いてしまうもの。ニクス侯爵……ウィルド先生も今日は白衣姿で別人みたい)

 前髪の隙間からそっとウィルドの方を窺うと彼は慣れた様子でカルテや器具を準備していた。
 先日シスカをマグルの元から連れ出してくれた彼は堂々とした貴公子だったが、今日の彼がかもし出す雰囲気は医師のそれだ。


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