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実質タダ、むしろプラス
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王族と剣と魔法が存在する世界の全寮制の学園。
それが日本で生きていた時の私の最推し乙女ゲームの舞台だった。
森に間違えそうなほどの緑に囲まれた時計塔のある校舎。
広大な敷地内には三年制の中等部と四年制の高等部があり、生徒の大多数は貴族の子供たちだ。稀に魔法の才能が開花し認められた庶民も入学してくるが、一部の生徒たちはそれを快く思っていない。
ゲームの主人公はこういうストーリーでは定番の庶民出身で、17歳の誕生日に水を操る力に目覚め学園に2年生として編入することになる。
ただでさえ価値観の違う生徒が多い中でのなれない寮生活。更には何の前触れもなく自分の体に溢れ出した魔法の力。
それでも健気で前向きな主人公は勉学に励み、攻略対象たちとの仲を深めていく。
彼女と愛を育む攻略対象は全部で5人。
まず、メインヒーローであるこの国の第二王子。
そして王子の腹心の知的眼鏡キャラ。
主人公と同じ庶民出身でちょっとワルな感じが魅力の先輩。
態度も見た目も、あざと可愛い後輩。
好感度が上がった時のギャップがたまらない教師。
私はいわゆる箱推しというやつで、この5人全員が推しだった。
最初はメインヒーローの王子目当てで始めたのに、個別ルートに入る度にそのルートのキャラに落ちていった結果、最終的に王子も眼鏡もちょいワル先輩も後輩くんも先生も推しになった。
おかげでグッズなんか発売された日には全種類ゲットしなければいけないので一万円札が何枚飛んだかわからない。
いや、グッズを買ったことに後悔は一切無いけれども! 推しが部屋にいる生活、実質タダ! むしろプラスだから!
そしてそんな彼らとの物語にスパイスを添えるのが、私が今回転生した悪役令嬢のマリーローズ・ドランだった。
公爵家で蝶よ花よと育てられたマリーローズ。
3年生の彼女は学園長の親戚という立場と、その可憐な美貌で生徒たちの女王として君臨していた。
腰まである緩やかな曲線を描いたプラチナブロンド。アクアマリンの瞳。ミルク色の肌とぷっくりとした桃色の唇。
みなが彼女の機嫌を伺い、彼女の思い通りにならないことなど何一つ無い。唯一、彼女を諌められる立場の学園長も彼女には激甘だった。
しかし、主人公が編入してきたことによりマリーローズの学園生活は一変する。
本編ゲームスタート……つまり主人公編入から3日後。
魔法で花壇に水をやるという課題に奮闘する主人公の前に、取り巻きを引き連れ登場したマリーローズは高飛車にこう言い放つ。
『あら、あなたが噂の編入生さん? 学園長が大げさに褒めるからどんなに素敵な人かと思ったら……。あなた、ずいぶん貧乏臭いのね? でもあなたのその珍しい黒い髪は嫌いじゃないわ。うちのエリザベス(※愛犬)と同じ色だもの。ねぇ、私の取り巻きにあなたを入れてあげても良いわよ?』
それを聞いた主人公は大激怒。
バレーボール大の水球を作り出し、マリーローズめがけて全力アタック。
その見事な球を顔面で受け止めたマリーローズは取り巻きたちがいなかったら数メートルは吹っ飛んでいただろう。それくらい主人公の怒りのパワーは凄かった。
『学園の女王だかなんだか知らないけど、あなたみたいな失礼な人に興味ありませんから!』
そう言って走り去る主人公の後ろ姿を呆然と見つめながら、びしょ濡れのマリーローズはこう呟く。
「私になびかないなんて、面白い女」
この出会いで主人公に強く興味をひかれたマリーローズはそれ以降ことあるごとに主人公の前に現れ、攻略対象たちとのラブイベントを引っ掻き回すようになる。
しかし、根が箱入り娘で世間知らずなためにいつも間抜けな失敗をしてイベントから退場。その様はユーザーたちの笑顔を誘った。
そう。マリーローズは一応は公式サイトのキャラクター紹介ページに悪役令嬢として記載されていたが、ファンの間ではツンデレお嬢様キャラとして愛でられていたのだ。
だからこそ、私はマリーローズとしてこの世界に転生したかった。
彼女のことを好きだったし、何度も何度もプレイしたゲームの世界を別の視点と立場から見てみたかった。主人公に向けるのとは違う攻略対象たちの表情を見てみたかった。
あと単純にマリーローズの美乳が羨ましかった。
箱推しで最推し1人を決められないから主人公の恋を応援しつつ大団円エンドを目指して、彼女が選ばなかった相手を好きになれたら良いなと思っていた。
異世界転生にテンションが上がり、浅はかな計画を立てていた私は忘れていたのだ。
マリーローズを溺愛する彼の存在を。
それが日本で生きていた時の私の最推し乙女ゲームの舞台だった。
森に間違えそうなほどの緑に囲まれた時計塔のある校舎。
広大な敷地内には三年制の中等部と四年制の高等部があり、生徒の大多数は貴族の子供たちだ。稀に魔法の才能が開花し認められた庶民も入学してくるが、一部の生徒たちはそれを快く思っていない。
ゲームの主人公はこういうストーリーでは定番の庶民出身で、17歳の誕生日に水を操る力に目覚め学園に2年生として編入することになる。
ただでさえ価値観の違う生徒が多い中でのなれない寮生活。更には何の前触れもなく自分の体に溢れ出した魔法の力。
それでも健気で前向きな主人公は勉学に励み、攻略対象たちとの仲を深めていく。
彼女と愛を育む攻略対象は全部で5人。
まず、メインヒーローであるこの国の第二王子。
そして王子の腹心の知的眼鏡キャラ。
主人公と同じ庶民出身でちょっとワルな感じが魅力の先輩。
態度も見た目も、あざと可愛い後輩。
好感度が上がった時のギャップがたまらない教師。
私はいわゆる箱推しというやつで、この5人全員が推しだった。
最初はメインヒーローの王子目当てで始めたのに、個別ルートに入る度にそのルートのキャラに落ちていった結果、最終的に王子も眼鏡もちょいワル先輩も後輩くんも先生も推しになった。
おかげでグッズなんか発売された日には全種類ゲットしなければいけないので一万円札が何枚飛んだかわからない。
いや、グッズを買ったことに後悔は一切無いけれども! 推しが部屋にいる生活、実質タダ! むしろプラスだから!
そしてそんな彼らとの物語にスパイスを添えるのが、私が今回転生した悪役令嬢のマリーローズ・ドランだった。
公爵家で蝶よ花よと育てられたマリーローズ。
3年生の彼女は学園長の親戚という立場と、その可憐な美貌で生徒たちの女王として君臨していた。
腰まである緩やかな曲線を描いたプラチナブロンド。アクアマリンの瞳。ミルク色の肌とぷっくりとした桃色の唇。
みなが彼女の機嫌を伺い、彼女の思い通りにならないことなど何一つ無い。唯一、彼女を諌められる立場の学園長も彼女には激甘だった。
しかし、主人公が編入してきたことによりマリーローズの学園生活は一変する。
本編ゲームスタート……つまり主人公編入から3日後。
魔法で花壇に水をやるという課題に奮闘する主人公の前に、取り巻きを引き連れ登場したマリーローズは高飛車にこう言い放つ。
『あら、あなたが噂の編入生さん? 学園長が大げさに褒めるからどんなに素敵な人かと思ったら……。あなた、ずいぶん貧乏臭いのね? でもあなたのその珍しい黒い髪は嫌いじゃないわ。うちのエリザベス(※愛犬)と同じ色だもの。ねぇ、私の取り巻きにあなたを入れてあげても良いわよ?』
それを聞いた主人公は大激怒。
バレーボール大の水球を作り出し、マリーローズめがけて全力アタック。
その見事な球を顔面で受け止めたマリーローズは取り巻きたちがいなかったら数メートルは吹っ飛んでいただろう。それくらい主人公の怒りのパワーは凄かった。
『学園の女王だかなんだか知らないけど、あなたみたいな失礼な人に興味ありませんから!』
そう言って走り去る主人公の後ろ姿を呆然と見つめながら、びしょ濡れのマリーローズはこう呟く。
「私になびかないなんて、面白い女」
この出会いで主人公に強く興味をひかれたマリーローズはそれ以降ことあるごとに主人公の前に現れ、攻略対象たちとのラブイベントを引っ掻き回すようになる。
しかし、根が箱入り娘で世間知らずなためにいつも間抜けな失敗をしてイベントから退場。その様はユーザーたちの笑顔を誘った。
そう。マリーローズは一応は公式サイトのキャラクター紹介ページに悪役令嬢として記載されていたが、ファンの間ではツンデレお嬢様キャラとして愛でられていたのだ。
だからこそ、私はマリーローズとしてこの世界に転生したかった。
彼女のことを好きだったし、何度も何度もプレイしたゲームの世界を別の視点と立場から見てみたかった。主人公に向けるのとは違う攻略対象たちの表情を見てみたかった。
あと単純にマリーローズの美乳が羨ましかった。
箱推しで最推し1人を決められないから主人公の恋を応援しつつ大団円エンドを目指して、彼女が選ばなかった相手を好きになれたら良いなと思っていた。
異世界転生にテンションが上がり、浅はかな計画を立てていた私は忘れていたのだ。
マリーローズを溺愛する彼の存在を。
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