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「――花南。アイス、とけてきてるよ」
そう声をかけられてハッとする。
樹莉の声に顔を上げて見回せば、皆で同時に食べ始めたはずのアイスの棒を持っているのは私だけだった。
落ちかけたオレンジ色の夕陽にも、濃い紫が混ざり始めている。
今は、肝試し前に生徒会メンバーで集まって、学校近くの公園でアイスを食べている時間だったのに。
私はまた自分の世界に没頭して周りが見えなくなってしまっていたらしい。
水色のラムネ味が溶けて手首を伝っていた。
「わっわっごめんね樹莉。私、またボーッとしちゃって。って、やだ……! アイスめっちゃ溶けてスカートにまで垂れてきてる……!」
また来栖がドジをしている。
そんな風に呆れながら笑っていた生徒会メンバーだったけれど、溶けたアイスを追って咄嗟に手首を舐めた私の行動を見てその笑顔が固まった。
「え、あれ、みんなどうしたの? あ、お行儀悪かった? ごめん、私ハンカチ忘れちゃって……っ」
あぁ、またやってしまった。ハンカチも持ってないだらしない女子だと、みんな軽蔑しているに違いない。こういうところが私はダメなんだ。
特に生徒会長と会計は男子だから、信じられないという表情で私を凝視している。
「……花南、おいで。私のハンカチ貸してあげるから、洗いに行こ」
優しく樹莉に手を引かれて。水飲み場でベタベタになった手を洗う。スカートに垂れたアイスも、樹莉が自分のハンカチを濡らして拭ってくれた。
「ごめん樹莉。ハンカチ、濡れちゃったね」
「別に良いよハンカチくらい」
そう言って目を細めた樹莉の笑顔。輪郭が茜色に染まってポートフォリオみたいに綺麗だ。
(――あぁ、敵わないなぁ)
ポツリ。黒い染みが心に広がって、また意識が内側に沈みそうになる。
「それよりも花南! 男子の前で無防備な顔を見せちゃダメでしょう! 生徒会、ううん、学園の男子はみんな、花南を狙ってるんだから食べられちゃうよ!」
形が良い細い指を立てて。腰に手を当てながら樹莉が私に忠告する。樹莉がこんな風に私を注意するのは、初めてのことではない。
なんなら、入学初日に出会って以来、3日に一回は言われている言葉だ。
「ふふ、また樹莉はそんな冗談を言って。樹莉がいて、男子が私を見るわけないじゃない。私、樹莉と違って男子からラブレター貰ったことも、告白されたこともないよ?」
「だーかーらーー! それはアイツが……!」
何かを言いかけた樹莉が、私の背後を見て慌てたように自分の手で口を塞ぐ。
そう声をかけられてハッとする。
樹莉の声に顔を上げて見回せば、皆で同時に食べ始めたはずのアイスの棒を持っているのは私だけだった。
落ちかけたオレンジ色の夕陽にも、濃い紫が混ざり始めている。
今は、肝試し前に生徒会メンバーで集まって、学校近くの公園でアイスを食べている時間だったのに。
私はまた自分の世界に没頭して周りが見えなくなってしまっていたらしい。
水色のラムネ味が溶けて手首を伝っていた。
「わっわっごめんね樹莉。私、またボーッとしちゃって。って、やだ……! アイスめっちゃ溶けてスカートにまで垂れてきてる……!」
また来栖がドジをしている。
そんな風に呆れながら笑っていた生徒会メンバーだったけれど、溶けたアイスを追って咄嗟に手首を舐めた私の行動を見てその笑顔が固まった。
「え、あれ、みんなどうしたの? あ、お行儀悪かった? ごめん、私ハンカチ忘れちゃって……っ」
あぁ、またやってしまった。ハンカチも持ってないだらしない女子だと、みんな軽蔑しているに違いない。こういうところが私はダメなんだ。
特に生徒会長と会計は男子だから、信じられないという表情で私を凝視している。
「……花南、おいで。私のハンカチ貸してあげるから、洗いに行こ」
優しく樹莉に手を引かれて。水飲み場でベタベタになった手を洗う。スカートに垂れたアイスも、樹莉が自分のハンカチを濡らして拭ってくれた。
「ごめん樹莉。ハンカチ、濡れちゃったね」
「別に良いよハンカチくらい」
そう言って目を細めた樹莉の笑顔。輪郭が茜色に染まってポートフォリオみたいに綺麗だ。
(――あぁ、敵わないなぁ)
ポツリ。黒い染みが心に広がって、また意識が内側に沈みそうになる。
「それよりも花南! 男子の前で無防備な顔を見せちゃダメでしょう! 生徒会、ううん、学園の男子はみんな、花南を狙ってるんだから食べられちゃうよ!」
形が良い細い指を立てて。腰に手を当てながら樹莉が私に忠告する。樹莉がこんな風に私を注意するのは、初めてのことではない。
なんなら、入学初日に出会って以来、3日に一回は言われている言葉だ。
「ふふ、また樹莉はそんな冗談を言って。樹莉がいて、男子が私を見るわけないじゃない。私、樹莉と違って男子からラブレター貰ったことも、告白されたこともないよ?」
「だーかーらーー! それはアイツが……!」
何かを言いかけた樹莉が、私の背後を見て慌てたように自分の手で口を塞ぐ。
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