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私に触れて
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「天童さん最近なんだか雰囲気がやわらかくなったわよね」
退勤時間になりロッカールームで着替えている最中。事務の大橋さんにそう声をかけられて目を瞬かせる。
彼女はもう二十年以上うちの会社に勤めているベテランで、女子たちのお母さん的存在だけどそんな風に言われたのは初めてだ。
「そう……でしょうか?」
「そう。正直、前は『今声をかけたら悪いかな?』って時が多かったんだけど、最近は全然そんなことなくなったの。コンタクトにして凄く綺麗になったし、良いご縁があったのかなと思ってたのよ」
「自分では綺麗になったとかわからないんですけど……でも褒めてくださって、ありがとうございます」
「それ! それ! そういう反応! やっぱり天童さん彼氏できたでしょっ?! ──ってあらヤダおばちゃんはしゃいじゃってごめんなさいね! 若い子の恋バナ大好きなのよぅ!」
ふくよかな輪郭の中で小動物のような瞳をキラキラさせて大橋さんは前のめりに迫ってくる。プライベートのことを聞かれるのは苦手だけれど、不思議と嫌な気分にはならなかった。
「彼氏……かぁ、できたら、ご報告しますね。今週もお疲れ様でした! お先に失礼します」
そう言いながら閉めるロッカーの内側についている鏡をチラリと確認する。
そこには分厚い眼鏡を外し、バサバサだった髪を艶やかに整えた私の顔が映っていた。
絶対教えてね~!という大橋さんの声に送られて帰り道を急ぐ。金曜日の電車の中はどことなく浮ついた雰囲気で、これから遊びに出かけるであろう人たちの姿も多かった。
だけど、私がまっすぐ目指すのはあの1DKのカド部屋だ。
「ただいま」
声をかけながら玄関のドアを開けると空腹を刺激する焦げたお醤油の匂いがした。
(この匂いは……お肉でも焼いてるのかな?)
私の声に反応して火を止めた人物がパタパタとかけてくる。
「お帰りケイナ! 今日は肉野菜炒めを作ってみたよ!」
「ふふ、やっぱり。そうかな。って思ったんだ」
「あとこの前ケイナが美味しいって褒めてくれたアボカドとエビのサラダも!」
「覚えててくれたんだ。嬉しい」
「ケイナが喜ぶと俺も嬉しい!」
ぎゅううぅぅぅっとハグしてくる大型犬のような『彼』の広い背中に手をまわし、私もキュッと抱きしめ返す。
「ただいま。リュート」
三週間前から一緒に暮らし始めたリュートは毎回こうして仕事から帰って来た私を出迎えてくれる。最初は戸惑ったスキンシップの激しさも、今ではこの体温がないと寂しく感じてしまうようになった。
顔を埋めていたリュートの胸から視線だけで見上げると、深い深い夜色の瞳が優しく私を見つめている。
中東の血が混ざっているようにも、どこかもっと別の異国の血が混ざっているようにも見える不思議な顔立ち。高い鼻梁に人懐っこく微笑む厚めの唇。そしてその顔を縁取る黒いくせ毛はふわふわと可愛らしい。
(本当に、なんてイケメンなんだろう……)
思わず見とれていたらその唇が私のそれに重なった。
「……はぁっ、ん」
「っふ、ケイナに、早く帰って来て欲しくて、寂しかった。俺、いい子で待ってたよ。今日は金曜日だから『ご褒美』ガマンしなくて良いんだよね?」
「んんんっ!」
我慢しないという言葉通りに私の口内を蹂躙した熱いリュートの舌が私の首筋を舐め上げる。湿ったその熱と彼の犬歯が敏感なところに触れる感覚に、それだけで崩れ落ちそうになる。
「ぁ──ん! ま、待って、シャワーっシャワー浴びたい! 私、汗かいてっ。それに、ここ玄関……っ」
「俺がケイナの『味』が好きだって知ってて、シャワーを浴びるだなんてイジワル言うの? 『ご主人さま』?」
「でも、今日っ特に暑くて──!」
「あぁ──! 美味しい! ケイナの、汗、美味しい……っ!」
「いやぁぁん!」
ベロベロと噛みつくみたいに耳の中と首を舐められて、立っていられずにその逞しい長身にすがりつく。
「っあ、その表情も堪んない……っ、ケイナのその欲望に蕩けた瞳も舐めてやりたい……!」
「ぁあっ!」
「お願いご主人さまっ、今すぐ俺にケイナをちょうだい! ケイナを食べさせてっ!」
大きな手のひらが片方は服の上から私の胸を揉みしだき、もう片方がスカートを捲し上げ太ももを露にする。
「ガーターベルトっ! なんてイケナイご主人さまっ! 俺と出会った時はつけ方も知らなかったのに! ケイナはいつの間にこんなに淫乱な子になったの? 俺に、見せたくてこれを選んだの?」
ゴツゴツとした長い指が繊細なレースの下に潜り割れ目をなぞる。
リュートの言葉通り、彼に見られることを、彼に触れられることを望んでいたソコは既にぬかるみ始めていた。
「ひぅんっ、リュートが……っ、喜ぶかなって、思ってぇ……っ!」
そう言って谷間に滲んだ汗を舐めていたリュートの頭を抱きしめる。
「っきゃぁ?!」
「ああ、もうっ! この俺が! こんな人間の女なんかに転がされるなんてっ! こんな、下着くらいで喜ぶなんて!」
強引にブラジャーから溢れさせた先端を興奮した獣みたいに強く噛まれて、この三週間で覚えさせられた女の部分をジュブジュブと突かれて、身体が一気に絶頂へとかけ上がる。
「ああああああ──っ!」
私が達した瞬間、逃がさない。とでも言うようにリュートが私の口に貪りつく。
その瞳の色は、深い夜の色から、燃えるような深紅色に変わっていた。
リュートは、三週間前に私が呼び出したあの本の悪魔だ。
退勤時間になりロッカールームで着替えている最中。事務の大橋さんにそう声をかけられて目を瞬かせる。
彼女はもう二十年以上うちの会社に勤めているベテランで、女子たちのお母さん的存在だけどそんな風に言われたのは初めてだ。
「そう……でしょうか?」
「そう。正直、前は『今声をかけたら悪いかな?』って時が多かったんだけど、最近は全然そんなことなくなったの。コンタクトにして凄く綺麗になったし、良いご縁があったのかなと思ってたのよ」
「自分では綺麗になったとかわからないんですけど……でも褒めてくださって、ありがとうございます」
「それ! それ! そういう反応! やっぱり天童さん彼氏できたでしょっ?! ──ってあらヤダおばちゃんはしゃいじゃってごめんなさいね! 若い子の恋バナ大好きなのよぅ!」
ふくよかな輪郭の中で小動物のような瞳をキラキラさせて大橋さんは前のめりに迫ってくる。プライベートのことを聞かれるのは苦手だけれど、不思議と嫌な気分にはならなかった。
「彼氏……かぁ、できたら、ご報告しますね。今週もお疲れ様でした! お先に失礼します」
そう言いながら閉めるロッカーの内側についている鏡をチラリと確認する。
そこには分厚い眼鏡を外し、バサバサだった髪を艶やかに整えた私の顔が映っていた。
絶対教えてね~!という大橋さんの声に送られて帰り道を急ぐ。金曜日の電車の中はどことなく浮ついた雰囲気で、これから遊びに出かけるであろう人たちの姿も多かった。
だけど、私がまっすぐ目指すのはあの1DKのカド部屋だ。
「ただいま」
声をかけながら玄関のドアを開けると空腹を刺激する焦げたお醤油の匂いがした。
(この匂いは……お肉でも焼いてるのかな?)
私の声に反応して火を止めた人物がパタパタとかけてくる。
「お帰りケイナ! 今日は肉野菜炒めを作ってみたよ!」
「ふふ、やっぱり。そうかな。って思ったんだ」
「あとこの前ケイナが美味しいって褒めてくれたアボカドとエビのサラダも!」
「覚えててくれたんだ。嬉しい」
「ケイナが喜ぶと俺も嬉しい!」
ぎゅううぅぅぅっとハグしてくる大型犬のような『彼』の広い背中に手をまわし、私もキュッと抱きしめ返す。
「ただいま。リュート」
三週間前から一緒に暮らし始めたリュートは毎回こうして仕事から帰って来た私を出迎えてくれる。最初は戸惑ったスキンシップの激しさも、今ではこの体温がないと寂しく感じてしまうようになった。
顔を埋めていたリュートの胸から視線だけで見上げると、深い深い夜色の瞳が優しく私を見つめている。
中東の血が混ざっているようにも、どこかもっと別の異国の血が混ざっているようにも見える不思議な顔立ち。高い鼻梁に人懐っこく微笑む厚めの唇。そしてその顔を縁取る黒いくせ毛はふわふわと可愛らしい。
(本当に、なんてイケメンなんだろう……)
思わず見とれていたらその唇が私のそれに重なった。
「……はぁっ、ん」
「っふ、ケイナに、早く帰って来て欲しくて、寂しかった。俺、いい子で待ってたよ。今日は金曜日だから『ご褒美』ガマンしなくて良いんだよね?」
「んんんっ!」
我慢しないという言葉通りに私の口内を蹂躙した熱いリュートの舌が私の首筋を舐め上げる。湿ったその熱と彼の犬歯が敏感なところに触れる感覚に、それだけで崩れ落ちそうになる。
「ぁ──ん! ま、待って、シャワーっシャワー浴びたい! 私、汗かいてっ。それに、ここ玄関……っ」
「俺がケイナの『味』が好きだって知ってて、シャワーを浴びるだなんてイジワル言うの? 『ご主人さま』?」
「でも、今日っ特に暑くて──!」
「あぁ──! 美味しい! ケイナの、汗、美味しい……っ!」
「いやぁぁん!」
ベロベロと噛みつくみたいに耳の中と首を舐められて、立っていられずにその逞しい長身にすがりつく。
「っあ、その表情も堪んない……っ、ケイナのその欲望に蕩けた瞳も舐めてやりたい……!」
「ぁあっ!」
「お願いご主人さまっ、今すぐ俺にケイナをちょうだい! ケイナを食べさせてっ!」
大きな手のひらが片方は服の上から私の胸を揉みしだき、もう片方がスカートを捲し上げ太ももを露にする。
「ガーターベルトっ! なんてイケナイご主人さまっ! 俺と出会った時はつけ方も知らなかったのに! ケイナはいつの間にこんなに淫乱な子になったの? 俺に、見せたくてこれを選んだの?」
ゴツゴツとした長い指が繊細なレースの下に潜り割れ目をなぞる。
リュートの言葉通り、彼に見られることを、彼に触れられることを望んでいたソコは既にぬかるみ始めていた。
「ひぅんっ、リュートが……っ、喜ぶかなって、思ってぇ……っ!」
そう言って谷間に滲んだ汗を舐めていたリュートの頭を抱きしめる。
「っきゃぁ?!」
「ああ、もうっ! この俺が! こんな人間の女なんかに転がされるなんてっ! こんな、下着くらいで喜ぶなんて!」
強引にブラジャーから溢れさせた先端を興奮した獣みたいに強く噛まれて、この三週間で覚えさせられた女の部分をジュブジュブと突かれて、身体が一気に絶頂へとかけ上がる。
「ああああああ──っ!」
私が達した瞬間、逃がさない。とでも言うようにリュートが私の口に貪りつく。
その瞳の色は、深い夜の色から、燃えるような深紅色に変わっていた。
リュートは、三週間前に私が呼び出したあの本の悪魔だ。
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