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参
(上)
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力が、溢れていた。今までにないくらい強大な、力だった。穿たれた穴を通るたびに、身体を力が満たしていく。誰に気づかれることもなく、一瞬で別の場所へとたどり着く。常に新鮮な獲物にありつけ、力はさらに増していく。
「気に入ったかしら」
獲物に牙を立てた彼女に、傍らの影はささやくように問う。
「気に入ったかしら」
彼女は答えない。哀れな獲物は瞬く間に骨皮だけのモノとなる。しなやかな糸に絡め取られたそれを打ち捨て、彼女は影へと向き直る。
「気に入ったけれど、もう普通の人間では駄目ね。あっさり殺してしまえるから、物足りないわ」
「じゃあ、いいことを教えてあげる」
影は小首をかしげて笑った。
「じゃあ、いいことを教えてあげる。妖狩の本家を食らいなさい」
「妖狩……? あんな奴らのところに行くなんてごめんよ。消し炭にされるのが関の山」
「妖狩の本家を食らいなさい。あの子の血肉を飲み食えば、不老不死が手に入る」
彼女の目の色が、変わった。
「不老不死ですって? それは本当? 本当なの?」
「あの子の血肉を飲み食えば、不老不死が手に入る」
影は笑う。ころころと笑う。
「どこなの? 早くして頂戴。不老不死になれば、いつまでも私は美しいままなのだわ。その男の居場所を、早く、早く教えなさい」
「案内はしてあげる。案内はしてあげる」
彼女はついと立ち上がった。食い入るように影を見つめ、影は笑んで手首を返す。ノイズと共に現れた裂け目は、不安定に揺らめきながら口を開いていた。ためらいもなく彼女は潜る。裂け目は彼女の美しい姿を飲み込んで、ぱちりとノイズを弾けさせた。
影はその背を見送りながら、一人でころころと笑い続ける。
「歳の若い妖狩がいるわ。歳の若い妖狩がいるわ。名前は氷室弓月」
うっとりと、どこかほの暗い笑みを浮かべ、影は一人の名前をささやいた。
「名前は、氷室弓月……ゆづ。ゆづ」
影はいつしかノイズに消えて、後には干からびた死骸だけが残された。
*
弓月は頬杖をつき、窓の外を眺めていた。時刻はもうすぐ正午になる。数学の授業中だが、いくら聞いても頭の中に入ってこない。大体気が散るような授業をするほうが悪い。どうせ赤点を取るなら、見ない聞かないを徹底したほうが気分的に楽でいい。
木漏れ日がキラキラと机に落ちている。前にいる女子の白いセーラー服にも、緑がかった光が踊っている。スズメが光の中で舞うのが見える。それをぼんやりした目で追っていると、その中に突然紅が混じった。
(……ん?)
動いている紅を凝視する。これから暑くなるだろう時期なのに、真っ赤なロングコートを着た女であった。校庭に入ってきたところを見ると、誰かの保護者かもしれないが、どうもそうではないらしい。
女は校庭の中央まで来ると、躊躇うようなそぶりを見せた。あと一歩が踏み出せない、そんな様子で校庭をうろついている。
弓月はふと眉をひそめた。人間のものと得体の知れないものが溶け合い、混ざり合ったかのような奇妙な感覚がある。時折投げかけられる視線には、明らかなためらいがあった。まるでこちらの動向をうかがっているような、ひどく鋭く冷たいものも混じっている。
(何だ……?)
やがて女は立ち去った。遠ざかる背には、見事な黒い髪が流れている。それが一瞬ざわめいたようにも見えて、弓月はさらに眉を寄せる。
あれは一体なんだったのだろう。異形のものにしてはあまりにも人間すぎるし、人間にしてはあまりにも異形すぎる。ハーフなんて話は、よほどのことが無い限り聞いたことすらない。もっとも――人間と異形の合いの仔は、大抵どちらかの手によって処理されることがほとんどだ。
稀少例がほいほいと出てくるはずがない。そうすると、妖怪か人間かどちらかしかないわけだが……
「……妙だな」
「何がおかしいんだ? 氷室」
独り言が先生に聞こえてしまったらしい。仕方なく視線を戻せば、案の定気を散らせる張本人がいた。
まだ誰も言ってなかったのか。指摘してやればいいのに。周囲に視線をやれば、机に突っ伏して笑っている奴が多数いた。
まぁ、たまには狙ったことをしてもいいか。弓月はまっすぐに教師の目を見つめ、
「先生。櫛、貸しますか。ご自慢の髪が、大いにずれて落ちそうですよ」
弓月はいたって冷静に、珍しく大真面目に、そして力強く――言い切った。教師の頭を彩る髪束が、ぱさり、とかすかな音を立てて床に落ちた。
そんなこんなで昼休み。大いにプライドを傷つけられた数学教師は、大人気なく担任に告げ口したらしい。職員室に呼び出され、担任にこってりと絞られた。が、肝心の説教内容は頭には入らない。紅のコートの女の影が、脳裏にちらついて離れずにいる。
教室に戻り、弓月は比呂也に女についてそれとなく尋ねてみた。比呂也は小さくうなって腕を束ねる。数学教師の頭を視界に入れぬよう、窓の外を眺めていたという彼だが、やはりコートの女は見ていないらしい。
「校庭に入ってきてたんだろ? だとしたら、保健室の先生が見てるんじゃねーか?」
保健室は一階の中央部に面している。校門から部外者が入ってきたときには、真っ先に気づく位置にあった。しかし、職員室から戻る途中で聞いてみたが、やはり目撃の証言は得られなかった。
「そのときに先生がいなかったってことは?」
「体育館で九組と十組が体育やってんだ、いなかったら困るだろ」
実際に何人かが怪我をして、手当てをしてもらったという話を聞いている。当然、紅コートの女は見ていないそうだ。
「……それにしても、紅いコートねえ……大体さ、こんなクソ暑ぃ時に着るか? フツー」
比呂也の意見ももっともである。そもそも今の季節は初夏、おまけに今日はかなり暑くなるとの予報が出ている。風まで熱気を帯びているのだ、そんな時にコートなど着込んでいれば、たちまち倒れてしまうだろう。
となると――やはり可能性は一つしかない。弓月は下敷きで顔を仰ぎつつ答えた。
「じゃあ、フツーじゃなかったらどうだ」
「え? ……あ」
つまりはそういうことである。人間が妖の力を持ったか、はたまたその逆かは分からないが、人外の力を持っている者は大概痛みや熱、寒さにも強くなる。例外も当然いるし相性もあるが、概ね人から離れれば離れるほど耐性が増すのである。コートを着ている理由は不明だが、それで気を引くこともできるだろう。
「俺好みの女っぽいんだがな……どうすっかな」
よくよく思い出してみれば、身長が高くてほっそりとした美人だった気がする。弓月はスレンダーな大人の女が好みなのだが、当てはまっていたら少し困る。そんなことを考えていたら、幼馴染が肩を落としていた。相当派手な落ち込みっぷりである。
「おい比呂也、どうした」
「や、俺ってさぁ……何でもない……」
目が虚ろなのは暑さのせいだろう。とりあえず気にしないことにした。
比呂也の部活が終わった帰り道。学校帰りの学生たちでにぎわう通りを、弓月は比呂也とそろって歩いていた。
「あれが妖だとすると、獲物を求めてさまよってる可能性がある」
「そんなこと、できるのか?」
「たまにそういう奴がいるんだよ」
すれ違う人々に目を走らせつつ、弓月は苦々しく言い捨てる。
妖――妖魔と妖怪、通常はそのどちらも夕刻から夜にかけて行動する。月の光は昔から、よきにしろ悪しきにしろ、魔の力を増幅させる作用があるという。妖狩を筆頭とする同業者たちが、危険を承知で夜半に行動するのは、それだけ多くの妖が活動する時間帯だからだ。
しかし、稀に該当しない者がいる。人間に擬態する能力を持つ妖がそれである。
「奴らは人間社会に溶け込むために、身体の適応をしてるんだよ」
「何のために?」
「狩りをしやすくするために決まってるだろうが」
人間の中に紛れ込めば、狩りをすることはたやすい。ましてやそういった輩は皆、任意の姿となることができる。さらには現在の状況だ。元々擬態を得意とし、さらに人を襲う妖怪が、何らかの影響を受けて暴走すれば――その先は言うまでもないだろう。
「……じゃあ、どうやって探すんだ? 探すのは難しいんじゃねえの? 目撃者もいないみたいだしさ」
弓月は一度視線を外し、軽くため息をついた。
「もしかしたら、ここ以外の場所で紅いコートの女を見てる奴がいるかもしれねぇ……そういうのがないか、後で九十九鬼の尊杜にでも連絡つけてみる」
「み……尊杜さんか……なら大丈夫、かな」
比呂也が引きつった笑いを浮かべる。絡まれたときのことを思い出しているのだろう。
九十九鬼尊杜は妖狩の分家、自分の次に強い能力を持つ九十九鬼家の跡取りである。頭の回転が速く有能な男だが、いかんせんあのノリとテンションについていけない。比呂也はなぜかターゲットにされており、しょっちゅうもてあそばれていた。弓月自身も血がつながっていること自体が信じられないし、できることならば会いたくない部類に入る。
学生でなければ、自分で調査ができた。あんな奴の力を借りなくてもいい。しかし、高校進学を取りやめることはどうしてもできなかった。未だ引きずる過去の傷が、幼馴染と離れることを拒絶したのだ。今はもう触れたくもない、重く蓋の閉ざされた記憶。同じことは繰り返したくない。せめて、自分の理解者だけでも同じような道を通らせたくない。
尊杜と最後に会ったのが二年前、高校進学はもちろん止められていた。妖狩は人の盾、より多くの命を守るために、時間をこれ以上取られるわけにはいかない。弓月に繰り返し語ってきた尊杜に何と言われるか、想像するには難くない。
(あいつ、普段はちゃらちゃらしてる癖に、一族のことになると気持ち悪ぃくらい真面目になるからな……)
あの派手な顔を思い浮かべ、もう一度、今度は深いため息をつく。気は進まないが仕方がない。言及されたら、そのときはそのときだ。
再度周囲へ注意を向ける。依然として、昼間の気配は現れなかった。
「気に入ったかしら」
獲物に牙を立てた彼女に、傍らの影はささやくように問う。
「気に入ったかしら」
彼女は答えない。哀れな獲物は瞬く間に骨皮だけのモノとなる。しなやかな糸に絡め取られたそれを打ち捨て、彼女は影へと向き直る。
「気に入ったけれど、もう普通の人間では駄目ね。あっさり殺してしまえるから、物足りないわ」
「じゃあ、いいことを教えてあげる」
影は小首をかしげて笑った。
「じゃあ、いいことを教えてあげる。妖狩の本家を食らいなさい」
「妖狩……? あんな奴らのところに行くなんてごめんよ。消し炭にされるのが関の山」
「妖狩の本家を食らいなさい。あの子の血肉を飲み食えば、不老不死が手に入る」
彼女の目の色が、変わった。
「不老不死ですって? それは本当? 本当なの?」
「あの子の血肉を飲み食えば、不老不死が手に入る」
影は笑う。ころころと笑う。
「どこなの? 早くして頂戴。不老不死になれば、いつまでも私は美しいままなのだわ。その男の居場所を、早く、早く教えなさい」
「案内はしてあげる。案内はしてあげる」
彼女はついと立ち上がった。食い入るように影を見つめ、影は笑んで手首を返す。ノイズと共に現れた裂け目は、不安定に揺らめきながら口を開いていた。ためらいもなく彼女は潜る。裂け目は彼女の美しい姿を飲み込んで、ぱちりとノイズを弾けさせた。
影はその背を見送りながら、一人でころころと笑い続ける。
「歳の若い妖狩がいるわ。歳の若い妖狩がいるわ。名前は氷室弓月」
うっとりと、どこかほの暗い笑みを浮かべ、影は一人の名前をささやいた。
「名前は、氷室弓月……ゆづ。ゆづ」
影はいつしかノイズに消えて、後には干からびた死骸だけが残された。
*
弓月は頬杖をつき、窓の外を眺めていた。時刻はもうすぐ正午になる。数学の授業中だが、いくら聞いても頭の中に入ってこない。大体気が散るような授業をするほうが悪い。どうせ赤点を取るなら、見ない聞かないを徹底したほうが気分的に楽でいい。
木漏れ日がキラキラと机に落ちている。前にいる女子の白いセーラー服にも、緑がかった光が踊っている。スズメが光の中で舞うのが見える。それをぼんやりした目で追っていると、その中に突然紅が混じった。
(……ん?)
動いている紅を凝視する。これから暑くなるだろう時期なのに、真っ赤なロングコートを着た女であった。校庭に入ってきたところを見ると、誰かの保護者かもしれないが、どうもそうではないらしい。
女は校庭の中央まで来ると、躊躇うようなそぶりを見せた。あと一歩が踏み出せない、そんな様子で校庭をうろついている。
弓月はふと眉をひそめた。人間のものと得体の知れないものが溶け合い、混ざり合ったかのような奇妙な感覚がある。時折投げかけられる視線には、明らかなためらいがあった。まるでこちらの動向をうかがっているような、ひどく鋭く冷たいものも混じっている。
(何だ……?)
やがて女は立ち去った。遠ざかる背には、見事な黒い髪が流れている。それが一瞬ざわめいたようにも見えて、弓月はさらに眉を寄せる。
あれは一体なんだったのだろう。異形のものにしてはあまりにも人間すぎるし、人間にしてはあまりにも異形すぎる。ハーフなんて話は、よほどのことが無い限り聞いたことすらない。もっとも――人間と異形の合いの仔は、大抵どちらかの手によって処理されることがほとんどだ。
稀少例がほいほいと出てくるはずがない。そうすると、妖怪か人間かどちらかしかないわけだが……
「……妙だな」
「何がおかしいんだ? 氷室」
独り言が先生に聞こえてしまったらしい。仕方なく視線を戻せば、案の定気を散らせる張本人がいた。
まだ誰も言ってなかったのか。指摘してやればいいのに。周囲に視線をやれば、机に突っ伏して笑っている奴が多数いた。
まぁ、たまには狙ったことをしてもいいか。弓月はまっすぐに教師の目を見つめ、
「先生。櫛、貸しますか。ご自慢の髪が、大いにずれて落ちそうですよ」
弓月はいたって冷静に、珍しく大真面目に、そして力強く――言い切った。教師の頭を彩る髪束が、ぱさり、とかすかな音を立てて床に落ちた。
そんなこんなで昼休み。大いにプライドを傷つけられた数学教師は、大人気なく担任に告げ口したらしい。職員室に呼び出され、担任にこってりと絞られた。が、肝心の説教内容は頭には入らない。紅のコートの女の影が、脳裏にちらついて離れずにいる。
教室に戻り、弓月は比呂也に女についてそれとなく尋ねてみた。比呂也は小さくうなって腕を束ねる。数学教師の頭を視界に入れぬよう、窓の外を眺めていたという彼だが、やはりコートの女は見ていないらしい。
「校庭に入ってきてたんだろ? だとしたら、保健室の先生が見てるんじゃねーか?」
保健室は一階の中央部に面している。校門から部外者が入ってきたときには、真っ先に気づく位置にあった。しかし、職員室から戻る途中で聞いてみたが、やはり目撃の証言は得られなかった。
「そのときに先生がいなかったってことは?」
「体育館で九組と十組が体育やってんだ、いなかったら困るだろ」
実際に何人かが怪我をして、手当てをしてもらったという話を聞いている。当然、紅コートの女は見ていないそうだ。
「……それにしても、紅いコートねえ……大体さ、こんなクソ暑ぃ時に着るか? フツー」
比呂也の意見ももっともである。そもそも今の季節は初夏、おまけに今日はかなり暑くなるとの予報が出ている。風まで熱気を帯びているのだ、そんな時にコートなど着込んでいれば、たちまち倒れてしまうだろう。
となると――やはり可能性は一つしかない。弓月は下敷きで顔を仰ぎつつ答えた。
「じゃあ、フツーじゃなかったらどうだ」
「え? ……あ」
つまりはそういうことである。人間が妖の力を持ったか、はたまたその逆かは分からないが、人外の力を持っている者は大概痛みや熱、寒さにも強くなる。例外も当然いるし相性もあるが、概ね人から離れれば離れるほど耐性が増すのである。コートを着ている理由は不明だが、それで気を引くこともできるだろう。
「俺好みの女っぽいんだがな……どうすっかな」
よくよく思い出してみれば、身長が高くてほっそりとした美人だった気がする。弓月はスレンダーな大人の女が好みなのだが、当てはまっていたら少し困る。そんなことを考えていたら、幼馴染が肩を落としていた。相当派手な落ち込みっぷりである。
「おい比呂也、どうした」
「や、俺ってさぁ……何でもない……」
目が虚ろなのは暑さのせいだろう。とりあえず気にしないことにした。
比呂也の部活が終わった帰り道。学校帰りの学生たちでにぎわう通りを、弓月は比呂也とそろって歩いていた。
「あれが妖だとすると、獲物を求めてさまよってる可能性がある」
「そんなこと、できるのか?」
「たまにそういう奴がいるんだよ」
すれ違う人々に目を走らせつつ、弓月は苦々しく言い捨てる。
妖――妖魔と妖怪、通常はそのどちらも夕刻から夜にかけて行動する。月の光は昔から、よきにしろ悪しきにしろ、魔の力を増幅させる作用があるという。妖狩を筆頭とする同業者たちが、危険を承知で夜半に行動するのは、それだけ多くの妖が活動する時間帯だからだ。
しかし、稀に該当しない者がいる。人間に擬態する能力を持つ妖がそれである。
「奴らは人間社会に溶け込むために、身体の適応をしてるんだよ」
「何のために?」
「狩りをしやすくするために決まってるだろうが」
人間の中に紛れ込めば、狩りをすることはたやすい。ましてやそういった輩は皆、任意の姿となることができる。さらには現在の状況だ。元々擬態を得意とし、さらに人を襲う妖怪が、何らかの影響を受けて暴走すれば――その先は言うまでもないだろう。
「……じゃあ、どうやって探すんだ? 探すのは難しいんじゃねえの? 目撃者もいないみたいだしさ」
弓月は一度視線を外し、軽くため息をついた。
「もしかしたら、ここ以外の場所で紅いコートの女を見てる奴がいるかもしれねぇ……そういうのがないか、後で九十九鬼の尊杜にでも連絡つけてみる」
「み……尊杜さんか……なら大丈夫、かな」
比呂也が引きつった笑いを浮かべる。絡まれたときのことを思い出しているのだろう。
九十九鬼尊杜は妖狩の分家、自分の次に強い能力を持つ九十九鬼家の跡取りである。頭の回転が速く有能な男だが、いかんせんあのノリとテンションについていけない。比呂也はなぜかターゲットにされており、しょっちゅうもてあそばれていた。弓月自身も血がつながっていること自体が信じられないし、できることならば会いたくない部類に入る。
学生でなければ、自分で調査ができた。あんな奴の力を借りなくてもいい。しかし、高校進学を取りやめることはどうしてもできなかった。未だ引きずる過去の傷が、幼馴染と離れることを拒絶したのだ。今はもう触れたくもない、重く蓋の閉ざされた記憶。同じことは繰り返したくない。せめて、自分の理解者だけでも同じような道を通らせたくない。
尊杜と最後に会ったのが二年前、高校進学はもちろん止められていた。妖狩は人の盾、より多くの命を守るために、時間をこれ以上取られるわけにはいかない。弓月に繰り返し語ってきた尊杜に何と言われるか、想像するには難くない。
(あいつ、普段はちゃらちゃらしてる癖に、一族のことになると気持ち悪ぃくらい真面目になるからな……)
あの派手な顔を思い浮かべ、もう一度、今度は深いため息をつく。気は進まないが仕方がない。言及されたら、そのときはそのときだ。
再度周囲へ注意を向ける。依然として、昼間の気配は現れなかった。
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