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第一章 英雄の娘
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空は一面が蒼く、透明に透き通っていた。周囲は険しい山々が続き、その透明な蒼に黒々と厳かな姿を沈めている。いたる場所は緑で埋め尽くされ、綿雪のように可憐な花があちらこちらで揺れている。
「エオナねえちゃーん、飛竜がたくさん飛んでるよーっ」
弟のユクニが羊を追いながらそう叫んだ。言われるままに視線を動かせば、威厳のある山の稜線上に、空を飛ぶ生き物が複数見受けられる。
あれは飛竜。険しい岩山の中腹に巣を作り、群れで暮らす生き物だ。飛竜だけではなく、基本的に竜は群れを作って行動する。
人間が馬と同じように慣らして使うのは、飛竜と駆竜、水竜だけである。軍隊にも使われているという話だが、ほとんど山から出ないエオナにとっては、あまりぴんと来る話ではなかった。
「羊狙ってるのかなあ……」
羊たちを小屋に追い込んでから、ユクニは不安そうに呟く。遠くで鳴きかわす飛竜の声に耳を澄まし、エオナはちょっと笑って見せた。
「大丈夫。あの鳴き方は、家族が無事かを確認をしているだけ。狩りをするなら、もっと鋭く長く叫ぶよ」
「ほんと?」
「うん。そういうときは、またおすそ分けをしておけばいいだけだから」
小さな弟の頭をなでて、エオナは再び空を仰いだ。
このあたりの山々は、昔から飛竜が住み着いている。彼らは頭がいい。飢えると羊を捕っていってしまうのだが、羊を解体したときにいくらか肉や骨、内臓をわけておいてやれば、彼らも飼っている羊をむやみやたらに捕ったりはしない。
そのことも、竜の鳴き方も、教えてくれたのは母だ。母も、その母から聞いたという。ずっと昔から伝わる、飛竜とともにあるための教えだった。
見事な濃淡を帯びて続いていく空。優しい風に流されていく雲。ここは平和だ。便宜上その一部はイヴァノン国に属するらしいが、あまりにも山々が険しく人が少ないため、周辺の軍隊はまったくここを相手にしないという。
「エオナ、ユクニ、羊は迷子になってない?」
家の窓が開き、母が顔を出す。艶やかな光沢を含んだ蒼い髪は、幼い時分よりエオナの憧れだった。
「だいじょうぶだよ!」
ユクニが小さな胸を張り、得意げに鼻を鳴らす。それがどうにもおかしくて、エオナは思わず声を立てて笑った。
蒼い風が吹き抜け、エオナの蒼い長髪を梳いていく。後頭部でまとめ上げたそれは、嫌になるほど癖が強かった。唯一好きになれるのは、母と同じ蒼い髪だけだ。瞳の色は似ていない。エオナのそれは、母の部屋に飾られた湖の絵と同じ、碧を帯びた青色をしている。
ごう、と風がうなりをあげ、ゆったりしたふたりの服を身体に押し付けてくる。
「……風が強いね」
顔に流れてくる髪を軽く押さえ、エオナは呟く。
「姉ちゃん、俺、さらわれたりしないかな」
棒を振り回していた手を止めて、ユクニがまた心配そうに問いかけてくる。
「ユクニはいい子だから、連れていかれたりはしないよ」
エオナは笑って、もう一度弟の頭をなでてやる。こちらはまぶしい金色。瞳は母と同じ、淡い黄緑だった。不安げに揺らめくその中に、エオナが映っている。
「姉ちゃんが同じくらいだったときより、ユクニはずっといい子だもの。だから、大丈夫」
その言葉を聞き、ユクニはようやく安堵した風に抱きついてくるのだった。
弟はまだ八つになったばかり。かつて自分もそうだったように、これから少しずつ、母からいろいろなことを教わるだろう。ここは人里から離れているから、全部自分の力でやらなければならない。馬の乗り方や買い付けの方法、肉の捌き方、生きていくための知識や技術を学んでいく。
――甘やかさないようにしないといけないんだけど。
エオナは内心苦笑する。この間の食器作りも、あんまりにナイフの扱いが危なっかしすぎて、つい手を貸してしまった。年が八つも離れているせいか、どうも弟をかわいがりすぎている。気をつけなければならない。
不意に強い風が体をたたく。白い花弁が舞い上がり、くるくると螺旋を描いて昇っていく。花弁をさらう風も後を追いかける風も、同じように空に吸い込まれていった。
「姉ちゃん、」
ユクニの緊張した声が聞こえたのは、それとほぼ同時だった。
「どうしたの、ユクニ」
密着した小さな肢体は、明らかに震えている。視点は固定されて動いていない。エオナも顔を上げ、弟の見ている方角にじっと目をこらす。
くっきりと描かれた稜線の際、先ほどと同じ飛竜の群れがいる。影は先ほどよりも大きい――こちらに近づいている。わき目も振らず、大勢の仲間を従えて、疾駆の構えを見せている。
彼らがどこを目指しているかを理解したときには、すでに群れはエオナの頭上に影を落とすまで迫っていた。逃げなければ。わかっているのに、身体が動かない。エオナはただ弟を抱きしめ、凍りついたように立ちすくむしかできなかった。
風が激しく巻き上げられ、草を散らしていく。倒れないように足を踏みしめる。角が陽光を照り返したのか、銀の光が目の奥を刺す。翼のふちがきらめき、何度も翻る。飛竜は中空で体勢を整え、体の大きさで威圧してから一気に襲い掛かる。母から何度も聞いていたことが、脳裏をよぎった。そこから逃げる術は――ない。
姉ちゃん、と腕の中でユクニがささやく。泣いているのか、洟をすする音がした。答える代わりに力いっぱいに抱きしめる。目の前で威嚇する竜を真正面からにらみ据え、必死で逃れる方法を探した。冷や汗があごを伝う。
そうして見詰め合うことしばし。
「ほう! 勇敢な娘だ。さすがは彼女の娘だな」
女性の愉快そうな声音が、エオナの耳に届いた。竜が草地に着地する。それを確認したように、上空で旋回していた竜たちも次々と降り立っていく。
たくましく伸びる竜の首、ちょうどその付け根と肩の中間から、人影が音もなく滑り落ちてくる。
女、だった。年はおそらく四十の半ば。柔らかな波を作る髪は夕暮れの色、瞳はちょうど今の草原と同じ緑だった。背筋はまっすぐに伸ばされ、しかも身長が高い。縁取りの装飾が施された、金属の鎧を身にまとっている。真っ白いマントを羽織り、金の装飾で留めていた。
軍人だ、と身を硬くした瞬間、エオナの意識は二箇所へと捕まえられる。腰につるされた剣の鞘にも、両脇が大きく開いたスカートの裾にも、同じような文様が描かれている
盾と矛を抱いて翼を広げる、白い飛竜。見たことがある。否、現にいつも見ているものだ。暖炉のそば、絵画の横に誇らしげに飾られている、あの。
「あの槍と、同じだ」
こぼれた独り言は、女にも聞こえたらしかった。得心したようにひとつうなずき、エオナの前へと歩み寄る。弟を抱いたまま後ろに下がれば、女はかすかに苦笑した。
「イヴァノン三竜騎士団が一、飛竜騎士団の長の名にかけて、そなたたちに危害を加える真似はしない」
言いながら、彼女は腰の剣をはずす。それから飛竜の背に放り投げ、もう一度エオナを振り返った。滑らかな曲線を描く彼女の腰に、もう剣はない。
三竜騎士団。その噂は、ふもとの村に下りるたびに聞いている。イヴァノン国の誇る三つの騎士団の総称だ。駆竜騎士団、水竜騎士団、飛竜騎士団、彼らがそろっている限り、イヴァノンの未来は約束されているとまで言われている。
栄えある三竜騎士団の、団長。どうしてそんな人が、ここに来るのだろう。警戒を解かぬまま、エオナは黙って女をにらむ。女は再び、整った顔立ちに苦笑をにじませた。
「我々はヤーファと話をしにきたのだ。断じて争うつもりはない」
ヤーファ。母の名だ。ということは、母の知り合いなのだろうか。しかし、軍人の知り合いがいるという話は聞いたことがない。
エオナはどう反応すればよいのかわからず、うろたえて腕の中の弟を見た。ユクニはエオナにしがみつきながら、食い入るように女を見つめている。先ほどまでおびえていたとは思えない。
返す言葉に困り、エオナは黙って女に目を戻した。女もエオナに視線を置き、エオナの狼狽に気づいたのか、苦笑を微笑に昇華する。
「申し遅れた。私は三竜騎士団がひとつ、飛竜騎士団長ソフィア・バイゼル。ジークハルトの妹、と言えばすぐにわかる。取り次いではくれないか」
母には数年に一度、客人が訪ねてくることがある。きっとこの人も、母のそういった知り合いの妹なのだろう。それに、嘘を言っている風にも思えない、まっすぐな目をしている。悪い人ではないのかもしれない。
今度はエオナもうなずいた。ユクニの手を引き、家の中に入るよう促す。が、ユクニは頑として動きたがらなかった。ソフィアの乗っていた飛竜に興味がすべて奪われたようだ。
それに気が付いたのか、ソフィアは柔らかく笑ってうなずく。笑った顔は、どこか母が浮かべる優しい表情に似ていた。
「構わないよ。ディアドーラはおとなしいし、子供が何よりも大好きだからな。好きなだけ遊んでいるといい」
エオナが何かを言う前に、ソフィアは全部を把握していたらしい。ユクニはぱっと顔を輝かせ、
「ありがとう、おばちゃん!」
鞍と手綱をつけた飛竜の元へと駆けていった。竜もまた翼を広げ、歓迎するように首を子どもに擦り付ける。
「あの、ごめんなさい。弟が無茶言って……」
「なに、気にすることはない。私にも同じくらいの年頃の息子がいるのでね」
そう言うと、ソフィアはまぶしそうに目を細めるのだった。
「エオナねえちゃーん、飛竜がたくさん飛んでるよーっ」
弟のユクニが羊を追いながらそう叫んだ。言われるままに視線を動かせば、威厳のある山の稜線上に、空を飛ぶ生き物が複数見受けられる。
あれは飛竜。険しい岩山の中腹に巣を作り、群れで暮らす生き物だ。飛竜だけではなく、基本的に竜は群れを作って行動する。
人間が馬と同じように慣らして使うのは、飛竜と駆竜、水竜だけである。軍隊にも使われているという話だが、ほとんど山から出ないエオナにとっては、あまりぴんと来る話ではなかった。
「羊狙ってるのかなあ……」
羊たちを小屋に追い込んでから、ユクニは不安そうに呟く。遠くで鳴きかわす飛竜の声に耳を澄まし、エオナはちょっと笑って見せた。
「大丈夫。あの鳴き方は、家族が無事かを確認をしているだけ。狩りをするなら、もっと鋭く長く叫ぶよ」
「ほんと?」
「うん。そういうときは、またおすそ分けをしておけばいいだけだから」
小さな弟の頭をなでて、エオナは再び空を仰いだ。
このあたりの山々は、昔から飛竜が住み着いている。彼らは頭がいい。飢えると羊を捕っていってしまうのだが、羊を解体したときにいくらか肉や骨、内臓をわけておいてやれば、彼らも飼っている羊をむやみやたらに捕ったりはしない。
そのことも、竜の鳴き方も、教えてくれたのは母だ。母も、その母から聞いたという。ずっと昔から伝わる、飛竜とともにあるための教えだった。
見事な濃淡を帯びて続いていく空。優しい風に流されていく雲。ここは平和だ。便宜上その一部はイヴァノン国に属するらしいが、あまりにも山々が険しく人が少ないため、周辺の軍隊はまったくここを相手にしないという。
「エオナ、ユクニ、羊は迷子になってない?」
家の窓が開き、母が顔を出す。艶やかな光沢を含んだ蒼い髪は、幼い時分よりエオナの憧れだった。
「だいじょうぶだよ!」
ユクニが小さな胸を張り、得意げに鼻を鳴らす。それがどうにもおかしくて、エオナは思わず声を立てて笑った。
蒼い風が吹き抜け、エオナの蒼い長髪を梳いていく。後頭部でまとめ上げたそれは、嫌になるほど癖が強かった。唯一好きになれるのは、母と同じ蒼い髪だけだ。瞳の色は似ていない。エオナのそれは、母の部屋に飾られた湖の絵と同じ、碧を帯びた青色をしている。
ごう、と風がうなりをあげ、ゆったりしたふたりの服を身体に押し付けてくる。
「……風が強いね」
顔に流れてくる髪を軽く押さえ、エオナは呟く。
「姉ちゃん、俺、さらわれたりしないかな」
棒を振り回していた手を止めて、ユクニがまた心配そうに問いかけてくる。
「ユクニはいい子だから、連れていかれたりはしないよ」
エオナは笑って、もう一度弟の頭をなでてやる。こちらはまぶしい金色。瞳は母と同じ、淡い黄緑だった。不安げに揺らめくその中に、エオナが映っている。
「姉ちゃんが同じくらいだったときより、ユクニはずっといい子だもの。だから、大丈夫」
その言葉を聞き、ユクニはようやく安堵した風に抱きついてくるのだった。
弟はまだ八つになったばかり。かつて自分もそうだったように、これから少しずつ、母からいろいろなことを教わるだろう。ここは人里から離れているから、全部自分の力でやらなければならない。馬の乗り方や買い付けの方法、肉の捌き方、生きていくための知識や技術を学んでいく。
――甘やかさないようにしないといけないんだけど。
エオナは内心苦笑する。この間の食器作りも、あんまりにナイフの扱いが危なっかしすぎて、つい手を貸してしまった。年が八つも離れているせいか、どうも弟をかわいがりすぎている。気をつけなければならない。
不意に強い風が体をたたく。白い花弁が舞い上がり、くるくると螺旋を描いて昇っていく。花弁をさらう風も後を追いかける風も、同じように空に吸い込まれていった。
「姉ちゃん、」
ユクニの緊張した声が聞こえたのは、それとほぼ同時だった。
「どうしたの、ユクニ」
密着した小さな肢体は、明らかに震えている。視点は固定されて動いていない。エオナも顔を上げ、弟の見ている方角にじっと目をこらす。
くっきりと描かれた稜線の際、先ほどと同じ飛竜の群れがいる。影は先ほどよりも大きい――こちらに近づいている。わき目も振らず、大勢の仲間を従えて、疾駆の構えを見せている。
彼らがどこを目指しているかを理解したときには、すでに群れはエオナの頭上に影を落とすまで迫っていた。逃げなければ。わかっているのに、身体が動かない。エオナはただ弟を抱きしめ、凍りついたように立ちすくむしかできなかった。
風が激しく巻き上げられ、草を散らしていく。倒れないように足を踏みしめる。角が陽光を照り返したのか、銀の光が目の奥を刺す。翼のふちがきらめき、何度も翻る。飛竜は中空で体勢を整え、体の大きさで威圧してから一気に襲い掛かる。母から何度も聞いていたことが、脳裏をよぎった。そこから逃げる術は――ない。
姉ちゃん、と腕の中でユクニがささやく。泣いているのか、洟をすする音がした。答える代わりに力いっぱいに抱きしめる。目の前で威嚇する竜を真正面からにらみ据え、必死で逃れる方法を探した。冷や汗があごを伝う。
そうして見詰め合うことしばし。
「ほう! 勇敢な娘だ。さすがは彼女の娘だな」
女性の愉快そうな声音が、エオナの耳に届いた。竜が草地に着地する。それを確認したように、上空で旋回していた竜たちも次々と降り立っていく。
たくましく伸びる竜の首、ちょうどその付け根と肩の中間から、人影が音もなく滑り落ちてくる。
女、だった。年はおそらく四十の半ば。柔らかな波を作る髪は夕暮れの色、瞳はちょうど今の草原と同じ緑だった。背筋はまっすぐに伸ばされ、しかも身長が高い。縁取りの装飾が施された、金属の鎧を身にまとっている。真っ白いマントを羽織り、金の装飾で留めていた。
軍人だ、と身を硬くした瞬間、エオナの意識は二箇所へと捕まえられる。腰につるされた剣の鞘にも、両脇が大きく開いたスカートの裾にも、同じような文様が描かれている
盾と矛を抱いて翼を広げる、白い飛竜。見たことがある。否、現にいつも見ているものだ。暖炉のそば、絵画の横に誇らしげに飾られている、あの。
「あの槍と、同じだ」
こぼれた独り言は、女にも聞こえたらしかった。得心したようにひとつうなずき、エオナの前へと歩み寄る。弟を抱いたまま後ろに下がれば、女はかすかに苦笑した。
「イヴァノン三竜騎士団が一、飛竜騎士団の長の名にかけて、そなたたちに危害を加える真似はしない」
言いながら、彼女は腰の剣をはずす。それから飛竜の背に放り投げ、もう一度エオナを振り返った。滑らかな曲線を描く彼女の腰に、もう剣はない。
三竜騎士団。その噂は、ふもとの村に下りるたびに聞いている。イヴァノン国の誇る三つの騎士団の総称だ。駆竜騎士団、水竜騎士団、飛竜騎士団、彼らがそろっている限り、イヴァノンの未来は約束されているとまで言われている。
栄えある三竜騎士団の、団長。どうしてそんな人が、ここに来るのだろう。警戒を解かぬまま、エオナは黙って女をにらむ。女は再び、整った顔立ちに苦笑をにじませた。
「我々はヤーファと話をしにきたのだ。断じて争うつもりはない」
ヤーファ。母の名だ。ということは、母の知り合いなのだろうか。しかし、軍人の知り合いがいるという話は聞いたことがない。
エオナはどう反応すればよいのかわからず、うろたえて腕の中の弟を見た。ユクニはエオナにしがみつきながら、食い入るように女を見つめている。先ほどまでおびえていたとは思えない。
返す言葉に困り、エオナは黙って女に目を戻した。女もエオナに視線を置き、エオナの狼狽に気づいたのか、苦笑を微笑に昇華する。
「申し遅れた。私は三竜騎士団がひとつ、飛竜騎士団長ソフィア・バイゼル。ジークハルトの妹、と言えばすぐにわかる。取り次いではくれないか」
母には数年に一度、客人が訪ねてくることがある。きっとこの人も、母のそういった知り合いの妹なのだろう。それに、嘘を言っている風にも思えない、まっすぐな目をしている。悪い人ではないのかもしれない。
今度はエオナもうなずいた。ユクニの手を引き、家の中に入るよう促す。が、ユクニは頑として動きたがらなかった。ソフィアの乗っていた飛竜に興味がすべて奪われたようだ。
それに気が付いたのか、ソフィアは柔らかく笑ってうなずく。笑った顔は、どこか母が浮かべる優しい表情に似ていた。
「構わないよ。ディアドーラはおとなしいし、子供が何よりも大好きだからな。好きなだけ遊んでいるといい」
エオナが何かを言う前に、ソフィアは全部を把握していたらしい。ユクニはぱっと顔を輝かせ、
「ありがとう、おばちゃん!」
鞍と手綱をつけた飛竜の元へと駆けていった。竜もまた翼を広げ、歓迎するように首を子どもに擦り付ける。
「あの、ごめんなさい。弟が無茶言って……」
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