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069 VS盗賊(マリー視点)
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人から剣を向けられるのは怖い。でも人に剣を向けることも同じくらい怖い。
レックスさんは優しいから、生け捕りにするようにと言った。私も、できれば人を傷つけたくない。けれど、私とエリック君で相対する盗賊は四人。
「男はどうでもいいが、女は無傷で確保しろよ」
盗賊たちは皆、片手に剣を構えているが、その剣はまともに手入れされていないのか、錆びていたり欠けていたりする。下卑た視線をこちらに向けながら、振り回すようにこちらに剣を走らせる。
私だって剣をきちんと習ったわけじゃないんだけど、この剣筋はあまりにもお粗末だ。ただ、複数人が雑に剣を振るうものだから、警戒するべき方向が多数あって対応しづらい。
それに力ばっかりは強いから、無理に受け止めようとしたら剣が折れてしまいそうだ。
「マリー、無理に合わせるな。回避優先、俺がなんとかする」
エリック君は、向かってくる盗賊の足元の土を隆起させて、つんのめったところをメイスで思い切りスイングする。胴を盛大に撃たれた盗賊の一人がうつ伏せに倒れこむ。
「当たれ!」
「せいやぁ!!」
一人倒してしまえば、こちらにはセフィリアさんもいて三対三の状況にもって行ける。放たれた矢が盗賊の一人の太ももに刺さる。吹き出す血に怯みつつも、剣の腹で思い切り盗賊の頭部を叩く。鉄板でぶたれた盗賊はあっさりと倒れこんだ。
一瞬、レックスさんが視界の端に入る。盗賊のボスみたいな強そうな人と一人で戦っているけれど、ケガはしていないだろうか、勝てるのだろうか、ふとした瞬間の不安が隙になって、気づけば盗賊の剣が私の防具を浅く切りつけていた。
「マリー、よそ見しないで!」
私を切り付けた盗賊の腕にセフィリアさんが放った矢が刺さる。ハッとした私が剣を横なぎに振るうと、思ったより生々しい手ごたえがして私は慌てて剣を引いた。
「ぐおぉ……」
血を流しながら、私を睨みつける盗賊。その視線には明らかに殺意があった。振り上げた剣に思わず足がすくむ。
「いっちょあがあり、っておい!」
エリック君が三人目の盗賊を昏倒させたみたいだ。でも私は振り下ろされた剣を、自分の剣で受け止めることに精一杯だった。セフィリアさんは多分、レックスさんの援護をしているところか、詠唱をしている最中だろう。
「うりゃあ!!」
繰り返し力任せに振り下ろされた剣に、とうとう剣が折れてしまった。盗賊の剣も折れてしまったが、あちらは攻撃の手をゆるめることなく、がら空きになってしまった私の胴を容赦なく蹴り上げた。なすすべなく、私は守るべき馬車の車輪に体をぶつけた。
「嬢ちゃん!」
荷台からジュードさんの心配そうな声がする。剣で斬られたわけじゃない、血は流れていない、立ち上がれないのは恐怖のせい、なら、まだ戦える。
「火はまずい!」
手のひらに意識を集中して火球を作ろうとする私を諫めるように、エリック君がメイスの一撃で四人目の盗賊を昏倒させた。
「無事?」
セフィリアさんが短く問う。私ははいと答えて立ち上がる。痛みは多少残るけど、ケガというケガはない。
気付けばレックスさんがこちらを向いている。どうやらあちらも終わったようだ。レックスさんに心配かけないよう、セフィリアさんに続いて意識的に明るい声を発する。
「全員無事よ」
「やりましたね!!」
「こっちも片付いたところだ」
「ふぅ、お疲れ様」
彼のホッとした表情を見ると、なんだか私も無性に安心できたのだった。
レックスさんは優しいから、生け捕りにするようにと言った。私も、できれば人を傷つけたくない。けれど、私とエリック君で相対する盗賊は四人。
「男はどうでもいいが、女は無傷で確保しろよ」
盗賊たちは皆、片手に剣を構えているが、その剣はまともに手入れされていないのか、錆びていたり欠けていたりする。下卑た視線をこちらに向けながら、振り回すようにこちらに剣を走らせる。
私だって剣をきちんと習ったわけじゃないんだけど、この剣筋はあまりにもお粗末だ。ただ、複数人が雑に剣を振るうものだから、警戒するべき方向が多数あって対応しづらい。
それに力ばっかりは強いから、無理に受け止めようとしたら剣が折れてしまいそうだ。
「マリー、無理に合わせるな。回避優先、俺がなんとかする」
エリック君は、向かってくる盗賊の足元の土を隆起させて、つんのめったところをメイスで思い切りスイングする。胴を盛大に撃たれた盗賊の一人がうつ伏せに倒れこむ。
「当たれ!」
「せいやぁ!!」
一人倒してしまえば、こちらにはセフィリアさんもいて三対三の状況にもって行ける。放たれた矢が盗賊の一人の太ももに刺さる。吹き出す血に怯みつつも、剣の腹で思い切り盗賊の頭部を叩く。鉄板でぶたれた盗賊はあっさりと倒れこんだ。
一瞬、レックスさんが視界の端に入る。盗賊のボスみたいな強そうな人と一人で戦っているけれど、ケガはしていないだろうか、勝てるのだろうか、ふとした瞬間の不安が隙になって、気づけば盗賊の剣が私の防具を浅く切りつけていた。
「マリー、よそ見しないで!」
私を切り付けた盗賊の腕にセフィリアさんが放った矢が刺さる。ハッとした私が剣を横なぎに振るうと、思ったより生々しい手ごたえがして私は慌てて剣を引いた。
「ぐおぉ……」
血を流しながら、私を睨みつける盗賊。その視線には明らかに殺意があった。振り上げた剣に思わず足がすくむ。
「いっちょあがあり、っておい!」
エリック君が三人目の盗賊を昏倒させたみたいだ。でも私は振り下ろされた剣を、自分の剣で受け止めることに精一杯だった。セフィリアさんは多分、レックスさんの援護をしているところか、詠唱をしている最中だろう。
「うりゃあ!!」
繰り返し力任せに振り下ろされた剣に、とうとう剣が折れてしまった。盗賊の剣も折れてしまったが、あちらは攻撃の手をゆるめることなく、がら空きになってしまった私の胴を容赦なく蹴り上げた。なすすべなく、私は守るべき馬車の車輪に体をぶつけた。
「嬢ちゃん!」
荷台からジュードさんの心配そうな声がする。剣で斬られたわけじゃない、血は流れていない、立ち上がれないのは恐怖のせい、なら、まだ戦える。
「火はまずい!」
手のひらに意識を集中して火球を作ろうとする私を諫めるように、エリック君がメイスの一撃で四人目の盗賊を昏倒させた。
「無事?」
セフィリアさんが短く問う。私ははいと答えて立ち上がる。痛みは多少残るけど、ケガというケガはない。
気付けばレックスさんがこちらを向いている。どうやらあちらも終わったようだ。レックスさんに心配かけないよう、セフィリアさんに続いて意識的に明るい声を発する。
「全員無事よ」
「やりましたね!!」
「こっちも片付いたところだ」
「ふぅ、お疲れ様」
彼のホッとした表情を見ると、なんだか私も無性に安心できたのだった。
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