ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ

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062 異世界の蕎麦文化

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 二日目の昼休憩、といってもこちらの世界では朝夕の二食が主流なので昼食休憩というよりはトイレ休憩だ。ついでにピンキッシュホースに水を少し飲ませる。
 女性陣が花摘みに行っている間に、俺は依頼人のスランツさんに気になっていたことを一つ尋ねる。

「ソバーロ地方の穀物を積んでいるって言ってたじゃないですか。麦ですか? それとも米?」
「蕎麦ですよ。ソバーロの地名は蕎麦作りが盛んであることから名づけられたくらいですから」
「そうだったんですね。じゃあ、けっこう涼しい地方なんですか?」
「あぁ、確かにソバーロはけっこう山間で涼しいですね。涼しい地方では麦より蕎麦作りが盛んだそうです。にしてもレックスさん、詳しいですね。さすがは冒険者というところですかな。ソバーロはもう旅されたんですか?」
「いやいや、たまたま聞きかじった程度の知識ですよ」

 日本で過ごしていれば、そば処はえてして冷涼な地域に多いのは分かる。それがこちらの世界でも通用する話だったのは、あくまで偶然だ。植物の特性が似通っているのは、その方が分かりやすいから、なのだろうか。もしも女神がたくさんの世界を作って管理しているなら、共通化させられる部分はそうしてしまいたいだろうし。

「じゃあ、蕎麦の食べ方ってどうしてますか? 麺にしたり……」
「いやはや、知識にムラがありますな。蕎麦を麺にする人はめっきり減りましたよ」

 さっきまでにこやかだったスランツさんが驚いたような表情になった。蕎麦と言ったら麺にするのは、さすがに日本人的な感想が過ぎたか。ガレットとかあるし、そっちが主流なのだろうか。でも、減ったということは、以前は食されていたということだよな。

「どうして減ってしまったのですか? 干して乾麺にすれば保存も利くというのに」
「なあレックス、めんつゆって知ってるか?」

 ここまで俺とスラッツさんの話を聞きつつあたりを警戒していたエリックが話に入ってきた。俺は彼の問いかけに当たり前のようにうなずく。

「じゃあ、作り方はどうだ?」
「え? えっと……醤油、あ、いや、穀醤に……え、何を加えるんだ?」
「そう、分からないよな。俺も知らない。ていうか、知っている人がほとんどいないくらいに製法が失伝しているのさ。正確に言えば何を入れるかは少しわかっている。でも全てじゃないし、そもそも何をどれだけ配合するものなのかは全然わからないんだ。だからめんつゆはもう作られていないし、蕎麦を麺として食すこともほとんどないんだよ」

 異世界でめんつゆがロストテクノロジーになっているなんて、さすがに想像の範疇になかったな。ひょっとして俺のマイホームスキルで生成できたら、塩より高額で取引されたりして。うーん、どうだろう。生成したら日本のパッケージで出てくるから原材料は分かるよな。でも確かに配分までは無理だ。俺はうどんより蕎麦が好きなんだが、こっちで食べるのは無理なのかもしれないな。……あれ、うどんはあるのかな。小麦の麺はどうなのか、エリックに尋ねる。

「小麦を麺にしたものはいろいろあるが、どれもスープの味を吸ってくれるのがいいよな。蕎麦の麺は特有の、なんつったらいいかな。クセみたいなのがあって好まない人もいるし。あぁでも前に他の冒険者から聞いたが、蕎麦の麺に少し塩を振って食べる村がソバーロ地方にはあるらしい」

 塩で蕎麦を食うってめっちゃ食通の人がやるやつじゃん。こっちは塩も貴重だから、ある意味贅沢な食べ方かもしれないな。

「じゃあ、結局蕎麦ってどう食うんだ?」

 俺の疑問にスラッツさんが答えてくれた。

「蕎麦粥やガレットが主食としてよく食べられます。また、めんつゆを復活させようと少量を試行錯誤しながら作っている個人もいると聞きます。完全に麺にする文化がなくなったわけじゃないのです。他には……人ではなくて家畜のエサになることもありますな。あと、変わったところですと枕の中身にも使われております」

 うわ、蕎麦のレストランで枕を売っているのを見たことがあったな。蕎麦殻の枕か、なるほどそういう使い道もあるのか。にしても、そばつゆは完全に潰えたわけじゃないんだな。ただ流通させるだけの量が安定して作れないだけで。再現できた人とかいるのかな。

「何か楽しそうな話をしてましたか?」

 森の茂みからマリーとセフィリアが戻ってきた。

「ちょっと蕎麦について詳しくなったのさ」

 塩だけでなくめんつゆで大儲けを少し夢見ながら、移動を再開する。もちろん警戒を怠るようなことはしない。この辺りはナランハ村とニオレングの中間地点、けっこう魔物の数も多いらしいからな。
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