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060 野営の夜に
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異世界に来てからというもの、なんだかんだマイホームもしくは宿屋に泊まっていたから、夜営というものを体験するのは初めてだ。こちらで生活する人にとっては当たり前のことなのだろうけど、キャンプみたいで少しそわそわする。根が生粋のインドア派だからな。それに安心安全な日本と違ってここは異世界、魔物もいるしひょっとしたら盗賊みたいな不届き者もいるかもしれない。
夕食も済ませ、ひとまず女性陣には休んでもらい、俺とエリックが不寝番をすることになった。とりあえずぶっちゃけ不慣れな俺が先に担当させてもらい、ある程度経ったら交代してもらう形に落ち着いた。もちろん依頼人のスラッツさんにはゆっくり休んでもらう。
スラッツさんは御者台で横になり、女性陣は荷台の片隅で寝ている。エリックは焚火から少し離れた場所に毛布を敷いて仮眠中だ。
ステータス画面はぼんやり光って見えるから、暗がりで見るのは眼が疲れる気がして好きじゃない。となると特にすることもなく、手持無沙汰をもてあます羽目になる。
「歯、磨きたいな……」
普段はマイホームスキルの消耗品生成で生成した歯ブラシを使っているが、あんなプラスチック製品丸出しなものをこちら側で使うわけにもいかない。が、夕食で食べたフロッゲコの肉が繊維質なものだから、なんとなく歯に挟まっている気がしてならないのだ。こういう時はなんとなく集中できなくなってしまう。チラッと一番近くで寝ているエリックを見やる。すぅすぅと寝息を立てて寝ている。安全な場所ならすぐ眠る、冒険者には必要な技術だろう。ちょっと感心する。
さて、今なら全員寝静まっていることだし、他にすることもないし、周囲をひとしきり警戒してから、俺はマイホームから歯ブラシを取り出した。水は木のカップに注いであるものがある。
なるべく音を立てずに歯を磨く。歯磨き粉はないが、その分ぶくぶくうがいの時に使う水が少なくて済むからそれはそれでメリットだ。鏡はないが、なんとなく挟まっていそうなところをシュコシュコと掃除する。緊張はゆるむが眠気は覚める。メリットづくしだ。
一応、こちらの世界にも歯木という固い草というか柔らかい枝というか、爪楊枝の延長線上にありそうな口の中を掃除するグッズがある。村の雑貨屋で見たことあるが、ほとんど使い捨てっぽい見た目のわりに、それなりに値が張る。口腔ケアを気にする層というのは、ある程度の収入がある層ということなのだろうか。基本的には水でうがいして、どうしても歯垢が気になれば、爪楊枝みたいなもので削り取るらしい。
「……暇だな」
異世界の歯磨きに思いをはせるほど、不寝番というのは暇だ。幸い、敵襲もない。
寝ているみんなを起こさないように気をつけながら、周囲をぐるっと一周する。魔物の生態を研究している人がいるかいないか知らないけれど、夜行性の魔物がいるなら先に知っておきたいものだ。火を焚いている分、敵から丸見えなのも警戒しなくてはならない理由の一つだ。火を苦手としている魔物もいるだろうから、焚いておくにこしたことはないのだが。
「素振りでもしておくか」
体を動かすと眠くなりそうだが、他にどうしていいか分からない俺は剣を構えて素振りを繰り返す。娯楽もなければ時計もない、どれくらいのタイミングで交代していいか分からないが、体感で4時間くらい経った頃にエリックと交代して眠りに就いた。
夕食も済ませ、ひとまず女性陣には休んでもらい、俺とエリックが不寝番をすることになった。とりあえずぶっちゃけ不慣れな俺が先に担当させてもらい、ある程度経ったら交代してもらう形に落ち着いた。もちろん依頼人のスラッツさんにはゆっくり休んでもらう。
スラッツさんは御者台で横になり、女性陣は荷台の片隅で寝ている。エリックは焚火から少し離れた場所に毛布を敷いて仮眠中だ。
ステータス画面はぼんやり光って見えるから、暗がりで見るのは眼が疲れる気がして好きじゃない。となると特にすることもなく、手持無沙汰をもてあます羽目になる。
「歯、磨きたいな……」
普段はマイホームスキルの消耗品生成で生成した歯ブラシを使っているが、あんなプラスチック製品丸出しなものをこちら側で使うわけにもいかない。が、夕食で食べたフロッゲコの肉が繊維質なものだから、なんとなく歯に挟まっている気がしてならないのだ。こういう時はなんとなく集中できなくなってしまう。チラッと一番近くで寝ているエリックを見やる。すぅすぅと寝息を立てて寝ている。安全な場所ならすぐ眠る、冒険者には必要な技術だろう。ちょっと感心する。
さて、今なら全員寝静まっていることだし、他にすることもないし、周囲をひとしきり警戒してから、俺はマイホームから歯ブラシを取り出した。水は木のカップに注いであるものがある。
なるべく音を立てずに歯を磨く。歯磨き粉はないが、その分ぶくぶくうがいの時に使う水が少なくて済むからそれはそれでメリットだ。鏡はないが、なんとなく挟まっていそうなところをシュコシュコと掃除する。緊張はゆるむが眠気は覚める。メリットづくしだ。
一応、こちらの世界にも歯木という固い草というか柔らかい枝というか、爪楊枝の延長線上にありそうな口の中を掃除するグッズがある。村の雑貨屋で見たことあるが、ほとんど使い捨てっぽい見た目のわりに、それなりに値が張る。口腔ケアを気にする層というのは、ある程度の収入がある層ということなのだろうか。基本的には水でうがいして、どうしても歯垢が気になれば、爪楊枝みたいなもので削り取るらしい。
「……暇だな」
異世界の歯磨きに思いをはせるほど、不寝番というのは暇だ。幸い、敵襲もない。
寝ているみんなを起こさないように気をつけながら、周囲をぐるっと一周する。魔物の生態を研究している人がいるかいないか知らないけれど、夜行性の魔物がいるなら先に知っておきたいものだ。火を焚いている分、敵から丸見えなのも警戒しなくてはならない理由の一つだ。火を苦手としている魔物もいるだろうから、焚いておくにこしたことはないのだが。
「素振りでもしておくか」
体を動かすと眠くなりそうだが、他にどうしていいか分からない俺は剣を構えて素振りを繰り返す。娯楽もなければ時計もない、どれくらいのタイミングで交代していいか分からないが、体感で4時間くらい経った頃にエリックと交代して眠りに就いた。
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