ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
60 / 84

060 野営の夜に

しおりを挟む
 異世界に来てからというもの、なんだかんだマイホームもしくは宿屋に泊まっていたから、夜営というものを体験するのは初めてだ。こちらで生活する人にとっては当たり前のことなのだろうけど、キャンプみたいで少しそわそわする。根が生粋のインドア派だからな。それに安心安全な日本と違ってここは異世界、魔物もいるしひょっとしたら盗賊みたいな不届き者もいるかもしれない。
 夕食も済ませ、ひとまず女性陣には休んでもらい、俺とエリックが不寝番をすることになった。とりあえずぶっちゃけ不慣れな俺が先に担当させてもらい、ある程度経ったら交代してもらう形に落ち着いた。もちろん依頼人のスラッツさんにはゆっくり休んでもらう。
 スラッツさんは御者台で横になり、女性陣は荷台の片隅で寝ている。エリックは焚火から少し離れた場所に毛布を敷いて仮眠中だ。
 ステータス画面はぼんやり光って見えるから、暗がりで見るのは眼が疲れる気がして好きじゃない。となると特にすることもなく、手持無沙汰をもてあます羽目になる。

「歯、磨きたいな……」

 普段はマイホームスキルの消耗品生成で生成した歯ブラシを使っているが、あんなプラスチック製品丸出しなものをこちら側で使うわけにもいかない。が、夕食で食べたフロッゲコの肉が繊維質なものだから、なんとなく歯に挟まっている気がしてならないのだ。こういう時はなんとなく集中できなくなってしまう。チラッと一番近くで寝ているエリックを見やる。すぅすぅと寝息を立てて寝ている。安全な場所ならすぐ眠る、冒険者には必要な技術だろう。ちょっと感心する。
 さて、今なら全員寝静まっていることだし、他にすることもないし、周囲をひとしきり警戒してから、俺はマイホームから歯ブラシを取り出した。水は木のカップに注いであるものがある。
 なるべく音を立てずに歯を磨く。歯磨き粉はないが、その分ぶくぶくうがいの時に使う水が少なくて済むからそれはそれでメリットだ。鏡はないが、なんとなく挟まっていそうなところをシュコシュコと掃除する。緊張はゆるむが眠気は覚める。メリットづくしだ。
 一応、こちらの世界にも歯木という固い草というか柔らかい枝というか、爪楊枝の延長線上にありそうな口の中を掃除するグッズがある。村の雑貨屋で見たことあるが、ほとんど使い捨てっぽい見た目のわりに、それなりに値が張る。口腔ケアを気にする層というのは、ある程度の収入がある層ということなのだろうか。基本的には水でうがいして、どうしても歯垢が気になれば、爪楊枝みたいなもので削り取るらしい。

「……暇だな」

 異世界の歯磨きに思いをはせるほど、不寝番というのは暇だ。幸い、敵襲もない。
 寝ているみんなを起こさないように気をつけながら、周囲をぐるっと一周する。魔物の生態を研究している人がいるかいないか知らないけれど、夜行性の魔物がいるなら先に知っておきたいものだ。火を焚いている分、敵から丸見えなのも警戒しなくてはならない理由の一つだ。火を苦手としている魔物もいるだろうから、焚いておくにこしたことはないのだが。

「素振りでもしておくか」

 体を動かすと眠くなりそうだが、他にどうしていいか分からない俺は剣を構えて素振りを繰り返す。娯楽もなければ時計もない、どれくらいのタイミングで交代していいか分からないが、体感で4時間くらい経った頃にエリックと交代して眠りに就いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...