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007 森の中
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「ん……うぅ」
浅めの眠りから目を覚ますと、後頭部に柔らかい感触、そして目の前に美少女。
「レックスさん起きました? すみません、命の恩人を床で眠らせるなんて。取り敢えず、膝枕してみました」
「んぉ……おはよう、そうか、マリーか」
昨日一日が全て夢だったんじゃないかなんて一瞬思ってしまったけど、ここは俺のユニークスキルで作られたワンルームで、彼女は魔物から逃げていたのを俺が助けたんだった。……助けたと言っても、この部屋に逃げ込んできただけなんだが。
「取り敢えず……トイレ行ってくる」
できるだけ音を立てずに用を足し、キッチンで手を洗う。キッチン上の戸棚がスキル食料供給の窓口ではないが、食料がストックされる場所らしい。水道水と何もつけない食パンで朝食を済ませる。俺には少し物足りないが、マリーはこんなに柔らかくて甘いパンは初めてだと言っていた。食パンの甘みが分かるほど舌が鋭敏なのか、それとも単純にこちらの世界に甘味が少ないのか。マリーならいっそ前者の可能性も捨てきれないな。
「取り敢えず、当面の目標を立てようと思うんだが……」
「はい」
食パンを食べ終えた俺は敷布団の枕側に座る。さすがに床に座りっぱなしは身体に堪える。マリーはわりとパーソナルスペースが狭い方で、気にするそぶりを見せない。……多少は気にしてほしいところだが。
「えっと、マリーはどうしたい?」
「わ、私ですか? うーん、でしたら……まずはお金ですね。冒険者として生計を立てられるようにしないと」
「そうだよな。でも、その前にマリーの装備がないとな。その……昨日、逃げ出した場所に戻れるか?」
俺の問いにマリーは少し渋い顔をしたが、こくりと頷いた。方向は取り敢えず分かるらしい。俺は気づかなかったが、どうやらマリーは川沿いに森を走っていたようだ。
「なので、川の上流を目指せば、昨日の野営地を見つけられると思います」
「よし、じゃあ今日はその方針で行こう」
「あの、レックスさん。道中、丸腰の私は足手まといですけど、よろしくお願いします」
「おうよ! じゃあ、行くぞ!」
俺たちは玄関を出て、森に踏み出した。
取り敢えず、周囲にゴブリンはいない様子だ。
「この森に出現する魔物はゴブリン以外に何がいる?」
「そうですね、ゴブリン以外ですと……フォレストウルフ、スライム、あとは……コボルトでしょうか」
「ふむ……ごめん、ゴブリンとコボルトってどう違う?」
「はい、ゴブリンは小人のような容姿で、棍棒などを持っています。一方でコボルトは犬のような耳と尻尾があり、爪と牙を持ちますね。コボルトの中にはフォレストウルフを使役する群れもいるようです」
どれも単体では危険度が低いそうだが、集団で襲ってくると危険度は跳ね上がる。様子を見ながら単独行動している個体だけを狩りたいところだ。
森とはいえ昆虫系の魔物は出ないらしい。そういった魔物はこの森よりもっと鬱蒼とした森で出現するらしい。
「取り敢えず昨日の野営地に戻ったとして、そこから先はどうする?」
「……そうですね、そのまま川沿いに北上すればスタル村という村に着きます。そこから街道沿いに進んでフレッサの街を目指しましょう。そこにギルドがあります」
なるほど、フレッサの街まで行けば冒険者登録ができるのか。頑張るとしよう。
かなり慎重に進み、三体以上の群れはやり過ごす。なるべくエンカウントしないならそれはそれでよしとしつつも、とうとう戦闘を回避できなくなった。
「フォレストウルフが2匹……さて、どうする」
フォレストウルフは大型犬サイズだが、その鋭い牙はまさしく狼のそれ。こちらを威嚇するように牙を剝く。
取り敢えず左手に持ったバックラーで牽制しつつ、右手に持ったククリを低く構える。
「片方に石を投げて挑発します、そこをうまく斬ってください」
「……わ、分かった」
「いきます!!」
マリーが投げた石はフォレストウルフに当たりこそしなかったが、こちらの敵意を十分に察した一匹が突進してくる。けっこう、早い!
「せりゃあ!」
盾で押し上げるようにガードし、下からククリを振り上げる。ぎゃうんと情けない断末魔を上げながらフォレストウルフを撃破、もう一匹にはこちらからしかける!
「はぁあ!!!」
盾を構えながら突進、当たったらそのまま肩に担いでいたククリを振り下ろす。ゴブリンと違って真っ二つというわけにはいかなかったが、続けざまに今度は真横に振りぬく。
「……よし、これで撃破だ。レベルは……まだ上がんないか」
「レックスさんありがとうございます。解体は私がやるので、ナイフを借りてもいいですか?」
「あ、うん……お願い」
俺がバックラーを構えて警戒しているうちに、手早くフォレストウルフを解体すると、いったんマイホームへ入る。マイホームのスキル、次元収納にフォレストウルフの素材を放り込む。……解体か、俺も少し練習しておいた方がいいかもしれないな。にしても、解体スキルなしでもマリーの解体は手早かった。このあたりはひょっとして商才に関係していたり?
マイホームを出た俺がマリーに尋ねると、あれくらいは簡単なのでスキルなしでも十分できますよ、との返答だった。……器用さのパラメーターもきっと関係しているんだろうな。マリー、俺の倍くらい器用だし。
その後しばらく歩き、また二匹のフォレストウルフと遭遇。先程と同じように石を投擲して一対一の状況を作り、俺が頑張って対処する。
「はっ……他に敵影なし。レベルも上がったし、ここいらで休憩するか」
「はい。いいと思います」
「じゃあ……マイホーム!!」
やっぱり俺のスキル、旅する上でめっちゃ便利だな。改めて実感する俺だった。
浅めの眠りから目を覚ますと、後頭部に柔らかい感触、そして目の前に美少女。
「レックスさん起きました? すみません、命の恩人を床で眠らせるなんて。取り敢えず、膝枕してみました」
「んぉ……おはよう、そうか、マリーか」
昨日一日が全て夢だったんじゃないかなんて一瞬思ってしまったけど、ここは俺のユニークスキルで作られたワンルームで、彼女は魔物から逃げていたのを俺が助けたんだった。……助けたと言っても、この部屋に逃げ込んできただけなんだが。
「取り敢えず……トイレ行ってくる」
できるだけ音を立てずに用を足し、キッチンで手を洗う。キッチン上の戸棚がスキル食料供給の窓口ではないが、食料がストックされる場所らしい。水道水と何もつけない食パンで朝食を済ませる。俺には少し物足りないが、マリーはこんなに柔らかくて甘いパンは初めてだと言っていた。食パンの甘みが分かるほど舌が鋭敏なのか、それとも単純にこちらの世界に甘味が少ないのか。マリーならいっそ前者の可能性も捨てきれないな。
「取り敢えず、当面の目標を立てようと思うんだが……」
「はい」
食パンを食べ終えた俺は敷布団の枕側に座る。さすがに床に座りっぱなしは身体に堪える。マリーはわりとパーソナルスペースが狭い方で、気にするそぶりを見せない。……多少は気にしてほしいところだが。
「えっと、マリーはどうしたい?」
「わ、私ですか? うーん、でしたら……まずはお金ですね。冒険者として生計を立てられるようにしないと」
「そうだよな。でも、その前にマリーの装備がないとな。その……昨日、逃げ出した場所に戻れるか?」
俺の問いにマリーは少し渋い顔をしたが、こくりと頷いた。方向は取り敢えず分かるらしい。俺は気づかなかったが、どうやらマリーは川沿いに森を走っていたようだ。
「なので、川の上流を目指せば、昨日の野営地を見つけられると思います」
「よし、じゃあ今日はその方針で行こう」
「あの、レックスさん。道中、丸腰の私は足手まといですけど、よろしくお願いします」
「おうよ! じゃあ、行くぞ!」
俺たちは玄関を出て、森に踏み出した。
取り敢えず、周囲にゴブリンはいない様子だ。
「この森に出現する魔物はゴブリン以外に何がいる?」
「そうですね、ゴブリン以外ですと……フォレストウルフ、スライム、あとは……コボルトでしょうか」
「ふむ……ごめん、ゴブリンとコボルトってどう違う?」
「はい、ゴブリンは小人のような容姿で、棍棒などを持っています。一方でコボルトは犬のような耳と尻尾があり、爪と牙を持ちますね。コボルトの中にはフォレストウルフを使役する群れもいるようです」
どれも単体では危険度が低いそうだが、集団で襲ってくると危険度は跳ね上がる。様子を見ながら単独行動している個体だけを狩りたいところだ。
森とはいえ昆虫系の魔物は出ないらしい。そういった魔物はこの森よりもっと鬱蒼とした森で出現するらしい。
「取り敢えず昨日の野営地に戻ったとして、そこから先はどうする?」
「……そうですね、そのまま川沿いに北上すればスタル村という村に着きます。そこから街道沿いに進んでフレッサの街を目指しましょう。そこにギルドがあります」
なるほど、フレッサの街まで行けば冒険者登録ができるのか。頑張るとしよう。
かなり慎重に進み、三体以上の群れはやり過ごす。なるべくエンカウントしないならそれはそれでよしとしつつも、とうとう戦闘を回避できなくなった。
「フォレストウルフが2匹……さて、どうする」
フォレストウルフは大型犬サイズだが、その鋭い牙はまさしく狼のそれ。こちらを威嚇するように牙を剝く。
取り敢えず左手に持ったバックラーで牽制しつつ、右手に持ったククリを低く構える。
「片方に石を投げて挑発します、そこをうまく斬ってください」
「……わ、分かった」
「いきます!!」
マリーが投げた石はフォレストウルフに当たりこそしなかったが、こちらの敵意を十分に察した一匹が突進してくる。けっこう、早い!
「せりゃあ!」
盾で押し上げるようにガードし、下からククリを振り上げる。ぎゃうんと情けない断末魔を上げながらフォレストウルフを撃破、もう一匹にはこちらからしかける!
「はぁあ!!!」
盾を構えながら突進、当たったらそのまま肩に担いでいたククリを振り下ろす。ゴブリンと違って真っ二つというわけにはいかなかったが、続けざまに今度は真横に振りぬく。
「……よし、これで撃破だ。レベルは……まだ上がんないか」
「レックスさんありがとうございます。解体は私がやるので、ナイフを借りてもいいですか?」
「あ、うん……お願い」
俺がバックラーを構えて警戒しているうちに、手早くフォレストウルフを解体すると、いったんマイホームへ入る。マイホームのスキル、次元収納にフォレストウルフの素材を放り込む。……解体か、俺も少し練習しておいた方がいいかもしれないな。にしても、解体スキルなしでもマリーの解体は手早かった。このあたりはひょっとして商才に関係していたり?
マイホームを出た俺がマリーに尋ねると、あれくらいは簡単なのでスキルなしでも十分できますよ、との返答だった。……器用さのパラメーターもきっと関係しているんだろうな。マリー、俺の倍くらい器用だし。
その後しばらく歩き、また二匹のフォレストウルフと遭遇。先程と同じように石を投擲して一対一の状況を作り、俺が頑張って対処する。
「はっ……他に敵影なし。レベルも上がったし、ここいらで休憩するか」
「はい。いいと思います」
「じゃあ……マイホーム!!」
やっぱり俺のスキル、旅する上でめっちゃ便利だな。改めて実感する俺だった。
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