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001 行ってらっしゃい
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「うぐ……ここ、は?」
確か、突然の地震でうちが崩壊して……俺、建物の下敷きになったんじゃ……。
「目が覚めましたか、家入リューヤさん」
上も下も右も左も分からなくなるような、真っ白な空間。そこに響く若い女の声。……待てよ、今呼ばれたのはひょっとして俺か?
「悪いけど俺、タツヤ、な」
「あぁすみません。タツヤさんというのですね。うーん、どうにも日本人の方は名前が複雑です。申し遅れました、私はアリシア・ハートロード。今は女神をしています。貴方に、これまでとは違う世界で次の人生を送ってもらいます」
俺、家入竜也25歳は大地震で命を落とした。……しかし、目の前にいる金髪の女神様が俺を異世界に送ってくれるらしい。
「……どうして、俺なんだ? あの地震でどれだけ死んだか分からない。なんでよりにもよって俺なんだよ、素直に死なせてくれよ……」
俺はあの家が好きだった。たとえ俺の死因になった家だとしても……もう誰も帰ってこない家だとしても、あの家を守って、あの家で一緒に過ごした家族のもとに向かうはずだった……。まったく、現実ってやつはままならないことが多すぎるだろ。
「すみません、これは既に決まっている運命なんです。それに、貴方には異世界で生きる才能がある」
「現代日本で何の価値もない才能だな……」
昔読んだラノベでは異世界召喚される人間は親類がなく、ある日突然失踪しても周囲に与える影響が小さい人物が選ばれると書いてあった。……家族を亡くし定職にも就いていない俺は、悔しいがまさにうってつけだ。
「なにが目的だ?」
アリシアと名乗る女神はどうして日本人を異世界転移させているんだ。しかし、俺の問いに女神は答えない。
「それは些末なことです。それより、貴方に付与する能力ですが――」
「あの家を、持っていけないか?」
「えっ!?」
俺の言葉を聞いた瞬間、女神の顔色が変わった。……そうだよな、普通に考えて無理だろう。既に倒壊して失われてしまったんだから。それでも、俺の居場所はあそこにしかなかった。異世界に行ったって、はたして俺は変われるだろうか。
「そ、そうですか。そこまで家がお好きだったとは知りませんでした」
「……違うさ、そんないいもんじゃない。ただ俺は……帰る場所がないのは嫌なんだ」
異世界で生きる才能……それが何だ。ただでさえ孤独だった俺から唯一の居場所まで失ったら、どんな才能があろうと異世界で生き抜けるわけがない。
「タツヤさんが住んでいた家は大きくて物もたくさんありましたね。いきなりそれを再現するのは無理ですが、タツヤさんと貴方が認めた人だけが入れる独自の領域……それを生成する能力なんていかがでしょう? タツヤさんの成長に応じて広さや機能が成長する。そうすれば貴方が異世界で生きる目的を見いだせるんじゃないでしょうか?」
なるほど……。とどのつまり異世界マイホームってところか。異世界は寝食もそうだが、トイレや風呂とか普通は描写されないが、実際に生きる上では避けられない部分がある。それらをまとめて解決できる……なら、多少は前向きになってもいいかもしれないな。俺が成長すれば、あの家を取り戻せる。なんなら、老朽化していた部分を修繕して、より過ごしやすく改造することだってできるかもしれない。
「分かった。それがいい」
「良かった。ありがとうございます。他にも最低限のスキルは付与しますので、精一杯あちらでの人生を謳歌してください」
アリシアが手をかざすと俺の足元が光り始めた。
「これは皆さんに言っているのですが、貴方に一番必要な言葉かもしれませんね。――それでは、行ってらっしゃいませ」
あぁ、その言葉を直接言ってもらったのは……何年ぶりだったかな。そんな感慨に浸りながら、俺の意識は暗転した。
確か、突然の地震でうちが崩壊して……俺、建物の下敷きになったんじゃ……。
「目が覚めましたか、家入リューヤさん」
上も下も右も左も分からなくなるような、真っ白な空間。そこに響く若い女の声。……待てよ、今呼ばれたのはひょっとして俺か?
「悪いけど俺、タツヤ、な」
「あぁすみません。タツヤさんというのですね。うーん、どうにも日本人の方は名前が複雑です。申し遅れました、私はアリシア・ハートロード。今は女神をしています。貴方に、これまでとは違う世界で次の人生を送ってもらいます」
俺、家入竜也25歳は大地震で命を落とした。……しかし、目の前にいる金髪の女神様が俺を異世界に送ってくれるらしい。
「……どうして、俺なんだ? あの地震でどれだけ死んだか分からない。なんでよりにもよって俺なんだよ、素直に死なせてくれよ……」
俺はあの家が好きだった。たとえ俺の死因になった家だとしても……もう誰も帰ってこない家だとしても、あの家を守って、あの家で一緒に過ごした家族のもとに向かうはずだった……。まったく、現実ってやつはままならないことが多すぎるだろ。
「すみません、これは既に決まっている運命なんです。それに、貴方には異世界で生きる才能がある」
「現代日本で何の価値もない才能だな……」
昔読んだラノベでは異世界召喚される人間は親類がなく、ある日突然失踪しても周囲に与える影響が小さい人物が選ばれると書いてあった。……家族を亡くし定職にも就いていない俺は、悔しいがまさにうってつけだ。
「なにが目的だ?」
アリシアと名乗る女神はどうして日本人を異世界転移させているんだ。しかし、俺の問いに女神は答えない。
「それは些末なことです。それより、貴方に付与する能力ですが――」
「あの家を、持っていけないか?」
「えっ!?」
俺の言葉を聞いた瞬間、女神の顔色が変わった。……そうだよな、普通に考えて無理だろう。既に倒壊して失われてしまったんだから。それでも、俺の居場所はあそこにしかなかった。異世界に行ったって、はたして俺は変われるだろうか。
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「……違うさ、そんないいもんじゃない。ただ俺は……帰る場所がないのは嫌なんだ」
異世界で生きる才能……それが何だ。ただでさえ孤独だった俺から唯一の居場所まで失ったら、どんな才能があろうと異世界で生き抜けるわけがない。
「タツヤさんが住んでいた家は大きくて物もたくさんありましたね。いきなりそれを再現するのは無理ですが、タツヤさんと貴方が認めた人だけが入れる独自の領域……それを生成する能力なんていかがでしょう? タツヤさんの成長に応じて広さや機能が成長する。そうすれば貴方が異世界で生きる目的を見いだせるんじゃないでしょうか?」
なるほど……。とどのつまり異世界マイホームってところか。異世界は寝食もそうだが、トイレや風呂とか普通は描写されないが、実際に生きる上では避けられない部分がある。それらをまとめて解決できる……なら、多少は前向きになってもいいかもしれないな。俺が成長すれば、あの家を取り戻せる。なんなら、老朽化していた部分を修繕して、より過ごしやすく改造することだってできるかもしれない。
「分かった。それがいい」
「良かった。ありがとうございます。他にも最低限のスキルは付与しますので、精一杯あちらでの人生を謳歌してください」
アリシアが手をかざすと俺の足元が光り始めた。
「これは皆さんに言っているのですが、貴方に一番必要な言葉かもしれませんね。――それでは、行ってらっしゃいませ」
あぁ、その言葉を直接言ってもらったのは……何年ぶりだったかな。そんな感慨に浸りながら、俺の意識は暗転した。
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