ガラケー魔法少女ふおり☆スピカ

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
2 / 9

2話

しおりを挟む
 去年も同じクラスだった女の子たちと話しながら、始業式までの時間を過ごしていた。始業式は放送で行われ、生徒は全員席に着いて聞く。クラスを見渡してみると、一つだけ空席があった。私の席から右に二つのところだ。須藤さんと多井中君の間……。思い当たる苗字がない。誰だろう。そんなことを考えていたら、あっという間に始業式は終わっていった。もとから話が短いのが特徴な校長先生だから、式はいつも短く済まされる。放送による始業式が終わり、雑巾とか書類といった提出物の提出が済まされて、ほっと一息ついたタイミングで担任の先生が、静かにするよう指示を出し、クラスの引き戸を開けた。どこからか、まさかという声が聞えた。

「転校生を紹介する」

 先生の一声でクラスが沸いた。転校生の性別を尋ねるお調子者の男子に、先生が女子だと答えたらクラス中の男子がソワソワし始めた。転入生の女子は美少女だと、どこかに鉄則があるのだろうか。でも、教室に入ってきた少女は、本当に息を呑むような美少女だった。大人びてクールな印象を与える切れ長の瞳には、堅い意志のようなものが見える。とはいえ、私たちと同級生の彼女、大人びた雰囲気こそ持つものの、背は私と大差ない小柄で肌は雪のように白い。黒板に自分の名前を書くためにチョークを持ったその手も、白くて小さい。

「自己紹介を頼むよ」

 彼女が黒板に名前を書き終えたのを見て担任が投げやりに任せると、彼女が形のいい唇から凛とした声を響かせた。

「……瀬戸、瀬戸せと円香まどかです。よろしくお願いします」

 瀬戸円香と名乗った彼女は、クラスに残った空席を埋めた。確かに、出席番号順になっている。

「取り敢えず転入生も紹介したし、今日は解散!」

 気だるげな担任の解散宣言によって、クラスの注目は一気に転入生へと向けられた。それでも私は、あーちゃんに会いたい心からすぐに荷物をまとめて帰ろうとしたのだが、

「ねぇ、瀬戸さんはどんなスマホ持ってるの?」
「いえ、私はガラケーユーザーなんです」

 という会話に、少しだけ帰ろうという気持ちが揺らいだ。

「あ、ガラケーユーザーなんだ。ねぇねぇ牧名さん。お仲間だよ!」
「えっと、その、牧名譜織です。あの、機種名は?」

 須藤さんに手招きされて会話の渦へと飛び込む。名乗るだけ名乗って、取り敢えず機種名を尋ねた。

「私のケータイは【MG‐06E】です。【MGシリーズ】の最後から二番目の機種ですね」
「そうなんですか!? 私は【SP‐07D】を使っているんです」
「へぇ、最後のガラケーの一種ですね。機能性に優れていると聞きます」
「いえいえ、でも【MG‐06E】って小さな手にもフィットするラウンドタイプでしたよね?」
「えぇそうなんです。持ちやすく落としにくいのが特徴なんです」

 ガラケーの話題で盛り上がっていると、少しだけ周りから人が減っていった。話題のとっかかりを失って去っていくのだろうか。でも、ちょっとクールっぽい彼女がガラケー一つで、ここまで印象が変わるなんて。

「おーい、ふー!」
「あ、ごめんね。友達を待たせちゃってるの。また明日ね、瀬戸さん」
「うぅん。私のことは円香でいいよ。私も譜織って呼ぶから」
「ありがと! バイバイ、円香ちゃん!!」

 円香ちゃんに手を振ってあーちゃんのもとへ向かうと、円香ちゃんも白くて小さな手を振り返してくれた。

「なんだか見覚えのない娘と仲良くなったね、ふーってば」
「あのね、転入生の瀬戸円香ちゃん。ガラケーユーザーなんだよ? クールっぽい感じもするけど、とっても話しやすかったんだぁ」
「……そっか。良かったじゃん。さぁ、帰ろう!」
「うん♪」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件

楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。 ※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

【フリー声劇台本】地下劇場あるかでぃあ(男性3人用または不問3人用)

摩訶子
キャラ文芸
『いらっしゃいませ。カフェではなく、【劇場】の方のお客様ですか。……それなら、あなたはヒトではないようですね』 表向きは、美しすぎる男性店主と元気なバイトの男の子が迎える女性に大人気のカフェ。 しかしその地下に人知れず存在する秘密の【朗読劇場】こそが、彼らの本当の仕事場。 観客は、かつては物語の主人公だった者たち。 未完成のまま葬られてしまった絵本の主人公たちにその【結末】を聴かせ、在るべき場所に戻すのが彼らの役目。 そんな二人の地下劇場の、ちょっとダークな幻想譚。 どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...