1 / 9
1話
しおりを挟む
時は西暦20XX年、スポーツの祭典の熱は冷め始め、多くの人が疫病とか国際的な争いにうんざりしながらも惰性的な日常に戻りつつある現代。世の中ではスマートフォンが普及し、学生の中では普及率九割九分を超えたという。今やガラケーやケータイ非所持者を探すことの方が困難となった。
世の中だけでなく、学校内だけでも人々はスマホに目を落とし、真っ直ぐと前を向いて歩く者は少ない。自転車に乗っている人さえも、視線はスマホに向けられている。拘束性の高いチャットアプリや中毒性の高いゲームアプリによって、現代の学生の目からは輝きが失われている。そんな時代になって、もはや久しくない。
そんな時代ではあるが、私、牧名譜織は二つ折りケータイー―いわゆるガラケー―の最終型である【SP‐07D】という機種を使っている。【SPシリーズ】はおろか、ガラケーのユーザーは少なくとも学年には私しかいないだろう。【SPシリーズ】を制作していたソニックパンサー社も今では次世代型スマートフォン【ゴズミック】シリーズを手がけている大手スマホメーカーだ。私の同級生にもゴズミックユーザーは少なくない。そんなスマホ社会となった街で、人との衝突を避けるという苦難にさいなまれながら登校していると、
「おはよ、ふー!」
「おはよう、あーちゃん」
親友の元宮朱実ちゃんが声をかけてきた。中学生にしては長身の彼女は、黒いセミロングの髪を今日も無造作に結い上げ、うなじを晒している。美肌に気を使う年齢に達してないとはいえ、あーちゃんの健康的に日焼けした肌からは荒れが見えない。こればかりは天性のものだと思う。そんな、あーちゃんの愛称で親しまれている彼女はスマホユーザー。以前は【MGシリーズ】という二つ折りケータイを作っていた会社が手がける【メガノイド】シリーズの一種を愛用している。あーちゃんは私がガラケーに固執する理由を知っているから、絶対にスマホ関連の話題を振ってこない。ガラケーユーザーである私が学校で孤立しないのは、偏にあーちゃんのおかげである。
「今年もふーと同じクラスだといいね」
そう言ったあーちゃんの頬に桜を載せた風が通り過ぎる。季節は春、私たちが通う戸上第二中学校の始業式の日でもある。去年はあーちゃんのおかげで多くの友達が出来た。もし、あーちゃんがいなかったとなると、凄くぞっとする。
「さてと、緊張してきたね」
風に舞う桜の花弁が増えてきた。学校に植えられた桜の木が近付いている証拠だ。
「ふー、違うクラスになっても泣くんじゃないよ?」
「泣かないよ! もぅ、あーちゃんはイジワルなんだから!」
そんなやり取りを交わしながら校門を抜けてテニスコートにあるクラス表を見る。ただ、何人もの人がそこに集まるせいで、小柄な私からは全く見えない。
「あーちゃん、見える?」
私より15センチ以上身長が高いあーちゃんに尋ねてみる。
「うーん。違うクラスになっちゃったみたい。あたしは2組、ふーは6組だね」
……そうかぁ。結構遠いなぁ。体育の時間とかでも一緒になることもないし。部活も違うし。あとは、委員会くらいかなぁ。
「でもさ、6組には去年の4組女子、多いからさ……大丈夫だよ。ね、心配しないの! 先生も気だるげなのが残念だけど、面白いって有名な先生だし」
「そうだね、私……頑張るよ! あーちゃんにばかり心配かけられないし」
「よし、その調子! 大丈夫、譜織は明るくて優しい女の子なんだから」
そう言って頭を撫でてくれるあーちゃん。あーちゃんから譜織と呼ばれることは少ないから、いつもドキッとしてしまう。撫でてくれる時間は短いけど、だからこそ大切って感じがする。最後に頭を二回だけぽんぽんとして、あーちゃんは手を下ろした。穏やかな笑みを浮かべるあーちゃんと一緒に昇降口へと向かった。靴を履き替えて二年生の階へ。中学生生活も二年目、あーちゃんがいなくても大丈夫だって、ちゃんと教えてあげないと。そんなことを思いながら、あーちゃんのいない6組へと足を踏み入れた。
世の中だけでなく、学校内だけでも人々はスマホに目を落とし、真っ直ぐと前を向いて歩く者は少ない。自転車に乗っている人さえも、視線はスマホに向けられている。拘束性の高いチャットアプリや中毒性の高いゲームアプリによって、現代の学生の目からは輝きが失われている。そんな時代になって、もはや久しくない。
そんな時代ではあるが、私、牧名譜織は二つ折りケータイー―いわゆるガラケー―の最終型である【SP‐07D】という機種を使っている。【SPシリーズ】はおろか、ガラケーのユーザーは少なくとも学年には私しかいないだろう。【SPシリーズ】を制作していたソニックパンサー社も今では次世代型スマートフォン【ゴズミック】シリーズを手がけている大手スマホメーカーだ。私の同級生にもゴズミックユーザーは少なくない。そんなスマホ社会となった街で、人との衝突を避けるという苦難にさいなまれながら登校していると、
「おはよ、ふー!」
「おはよう、あーちゃん」
親友の元宮朱実ちゃんが声をかけてきた。中学生にしては長身の彼女は、黒いセミロングの髪を今日も無造作に結い上げ、うなじを晒している。美肌に気を使う年齢に達してないとはいえ、あーちゃんの健康的に日焼けした肌からは荒れが見えない。こればかりは天性のものだと思う。そんな、あーちゃんの愛称で親しまれている彼女はスマホユーザー。以前は【MGシリーズ】という二つ折りケータイを作っていた会社が手がける【メガノイド】シリーズの一種を愛用している。あーちゃんは私がガラケーに固執する理由を知っているから、絶対にスマホ関連の話題を振ってこない。ガラケーユーザーである私が学校で孤立しないのは、偏にあーちゃんのおかげである。
「今年もふーと同じクラスだといいね」
そう言ったあーちゃんの頬に桜を載せた風が通り過ぎる。季節は春、私たちが通う戸上第二中学校の始業式の日でもある。去年はあーちゃんのおかげで多くの友達が出来た。もし、あーちゃんがいなかったとなると、凄くぞっとする。
「さてと、緊張してきたね」
風に舞う桜の花弁が増えてきた。学校に植えられた桜の木が近付いている証拠だ。
「ふー、違うクラスになっても泣くんじゃないよ?」
「泣かないよ! もぅ、あーちゃんはイジワルなんだから!」
そんなやり取りを交わしながら校門を抜けてテニスコートにあるクラス表を見る。ただ、何人もの人がそこに集まるせいで、小柄な私からは全く見えない。
「あーちゃん、見える?」
私より15センチ以上身長が高いあーちゃんに尋ねてみる。
「うーん。違うクラスになっちゃったみたい。あたしは2組、ふーは6組だね」
……そうかぁ。結構遠いなぁ。体育の時間とかでも一緒になることもないし。部活も違うし。あとは、委員会くらいかなぁ。
「でもさ、6組には去年の4組女子、多いからさ……大丈夫だよ。ね、心配しないの! 先生も気だるげなのが残念だけど、面白いって有名な先生だし」
「そうだね、私……頑張るよ! あーちゃんにばかり心配かけられないし」
「よし、その調子! 大丈夫、譜織は明るくて優しい女の子なんだから」
そう言って頭を撫でてくれるあーちゃん。あーちゃんから譜織と呼ばれることは少ないから、いつもドキッとしてしまう。撫でてくれる時間は短いけど、だからこそ大切って感じがする。最後に頭を二回だけぽんぽんとして、あーちゃんは手を下ろした。穏やかな笑みを浮かべるあーちゃんと一緒に昇降口へと向かった。靴を履き替えて二年生の階へ。中学生生活も二年目、あーちゃんがいなくても大丈夫だって、ちゃんと教えてあげないと。そんなことを思いながら、あーちゃんのいない6組へと足を踏み入れた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
(R18) 女子水泳部の恋愛事情(水中エッチ)
花音
恋愛
この春、高校生になり水泳部に入部した1年生の岡田彩香(おかだあやか)
3年生で部長の天野佳澄(あまのかすみ)
水泳部に入部したことで出会った2人は日々濃密な時間を過ごしていくことになる。
登場人物
彩香(あやか)…おっとりした性格のゆるふわ系1年生。部活が終わった後の練習に参加し、部長の佳澄に指導してもらっている内にかっこよさに惹かれて告白して付き合い始める。
佳澄(かすみ)…3年生で水泳部の部長。長めの黒髪と凛とした佇まいが特徴。部活中は厳しいが面倒見はいい。普段からは想像できないが女の子が悶えている姿に興奮する。
絵里(えり)…彩香の幼馴染でショートカットの活発な女の子。身体能力が高く泳ぎが早くて肺活量も高い。女子にモテるが、自分と真逆の詩織のことが気になり、話しかけ続け最終的に付き合い始める。虐められるのが大好きなドM少女。
詩織(しおり)…おっとりとした性格で、水泳部内では大人しい1年生の少女。これといって特徴が無かった自分のことを好きと言ってくれた絵里に答え付き合い始める。大好きな絵里がドMだったため、それに付き合っている内にSに目覚める。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる