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人生は、彼女には解決すべき問題で、わたしには経験すべき現実である

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 年も明けた一月二日、いくら彩瑛さんのために日常的に料理をするようになったと言えど、おせちやお雑煮の準備まではできない。ということで、おせちは通販で済ませたが、お雑煮の出汁をもらいに一度帰宅し出直してきた。
 母からは、せっかくだからと”あるもの”を預かってきたが、はたして彩瑛さんがこれと同じものを持っているだろうか。

「彩瑛さーん、ただいま」
「おかえりなさい、愛弥。……ふふ、この挨拶が当たり前になっているのも妙な話よね」

 いつしか当たり前になっていた挨拶に、彩瑛さんが微笑む。ここもわたしにとっては帰るべき場所の一つになったということなのだ。

「大荷物ね。そっちは着物かしら?」
「うん。初詣に行くなら着ていきなさいって。彩瑛さんは着物、持ってる?」
「えぇ。何着かあるわよ。着付けも一人でできるし、淑女のたしなみってやつね。愛弥も、持ってきたくらいだから、着られるんでしょう?」

 実は……と前置きしてから素直に打ち明ける。

「去年は受験で気が気じゃなくて初詣行ってなくて、だから着物も着てなくて……あんまり自信なかったんだぁ」
「じゃあ、私が着付けてあげるわ」

 言うや否やでわたしを脱がそうとする彩瑛さん。そんなひと悶着はあったけど、お互い着物に着替えて近くの神社へと向かった。
 わたしは緑系の配色で彩瑛さんは赤い華やかな着物、お嬢様然として堂に入ったその姿は、初詣の混雑の中でも一際に輝いていた。
 お賽銭を入れて願い事をする。わたしは彩瑛さんとずっと一緒にいられますように、と。

「彩瑛さんは何て願ったの?」
「ふふ、こういうものは言わぬが花よ」

 まぁそうかと頷く。秘密があった方が彩瑛さんはより美しい気がするし。
 行列が長くてお参りだけでそれなりに時間はかかったが、せっかくなのでおみくじも引くことに。彩瑛さんは小吉でわたしは凶……まあ、特筆すべきこともなしっていうわけで速やかに帰宅。
 普段着に着替え終わると、彩瑛さんがわたしにあるものを手渡してきた。

「そうだ、これ。お年玉」

 受け取ったのは分厚い封筒。普通はポチ袋で渡すお年玉だが、これじゃ怪しい取引で受け取ったお金のようだ。これをお年玉と言い張るのは流石に無理があるだろう。一体いくら入っているというのだ。

「取り敢えず100万入ってるから、今年はこれ以上お金を受け取らない方がいいわよ。税金かかるし」
「いや、ちょ……普通に考えて同級生から100万も受け取れないし!!」

 あまりの衝撃に封筒を落としそうになり、慌てる。落としたところで、どうというわけでもないのだが突然封筒が重要なものに変貌してしまったので、思考が追いつけなかったのだ。
 にしても……彩瑛さんだから100万円ぽんと出せてしまいそうなのが、これまた恐ろしいのだが。

「冗談よ。実際は100枚全部千円札だから10万円ね。あと、お手紙が入れてあるから分厚く見えるかも。……その手紙、誕生日まで開けちゃダメよ」

 このタイミングで誕生日まで読めない手紙を渡されるというのも意味分からないが、依然としてお年玉で10万円というのも理解が追いつかない。

「受け取りなさいよ。私なりにこれまでの感謝を込めた10万なんだから。それこそ、四月から毎月一万円もらったと思えばちょうどいいでしょう?」
「……うーん、まぁそう言われればそうだけど、友達から普通にお金受け取れないっていうか。……じゃあ、このお金は使わずにおくから、いつか二人で旅行に行く時に使おう。ね?」
「ふふ、愛弥がそうしたいならそうしなさい」

 クリスマスから、思い返せばもう少し前それこそ文化祭が終わったころから、彩瑛さんは時折寂しげな表情を浮かべることが多かった。もとから彩瑛さんはそういうアンニュイというか、けだるげな表情が似合う人だったから気付くのが遅くなってしまったけれど、もしもっと早く彼女の変化に気付けていたら……結末は変わっていたのだろうか。
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