剣の閃く天命の物語

楠富 つかさ

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駆け上がれ!!

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 陽の光の差し込むことのない薄暗い階段に二人の足音と声が響く。

「なぁ砦人、仮に裂崖に綾音さんの状態を教えて、助けてくれんのか?」

 そう尋ねたのは小野寺宗平。彼は親友の小川砦人と共にクラスメイトかつ、この異常な状況に立ち向かう同志である、渡瀬綾音の異常事態を知らせに屋上までの階段を駆け上がっている。
 陸上部の宗平が余裕の表情を浮かべているのはある意味当然かもしれないが、科学部所属で生粋の文化系である砦人も、教室から走り続けても息を切らすことは無い。世界の仕組みが変わって以後、彼ら彼女らの身体能力は通常時というリミットが外れているかのように向上している。

「可能性は低くはない。きっと」

 そう言い切る砦人に疑問を呈した宗平は内心で考えるのは俺の役目じゃない――そう思い、駆け上がった先の屋上に続く扉を開けた。

「ぬん!!」

 目の前に広がっていた光景は、衝撃波を放つ戒政を舞斗が衝撃波ごと吹き飛ばす光景だった。驚きを隠せない小野寺。流石に砦人も目を見開いている。戒政が心配になるが……。

「ちょ……倉科」

 覚悟を決めて舞斗に声をかける。二人とも戒政も気になるが、今は綾音が心配なのだ。宗平にとって綾音は、この考え過ぎが標準装備な親友の想い人なのだから。

「小川砦人と小野寺宗平か。何だ?」

 あまりに平凡な返答に、二人とも拍子抜けした。

「おい、戒政に月翔まで倒れている……。二人に何をした!?」

 砦人が舞斗に向かって吠えた。普段から冷静な彼が他者にあからさまな敵意というか、怒りの感情をあらわにするのは珍しい。だが、舞斗の方は臆することなく砦人の叫びを聞き終えると、

「教室で月翔が鍛えてくれと言っていただろう? これはその稽古にすぎない。……いや、それを問いただすのが目的ではないだろう? 下で何があった?」

 そう問いかけたのだ。舞斗は、知っているのにも関わらず戒政と戦闘していたというのか。魔力の暴走を放置して……。砦人の心に憤りの文字が浮かぶ。それでも……、

「くっ……。分かっているなら教室に足を運んでくれよ……。教室で綾音さんが魔力を暴走させている。なんとかしてくれ。僕らにはどうしていいか分からないんだ」

 舞斗に頼るしかないのだ。頭を下げる砦人に倣って宗平も頭を下げた。その殊勝な態度に感化されて、などということはないが、舞斗は即座に教室へ戻ることを決めた。

「戻るぞ。魔力の暴走は人体に悪影響を及ぼしかねない」

 表情一つ変えない舞斗の後を追って砦人と宗平は駆け上がってきた階段を下るのだった。
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