剣の閃く天命の物語

楠富 つかさ

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初陣を前に

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 時間は少しだけ遡る。机を後ろに下げ、少しだけ広い空間となった教室で、窓の外を眺める少年。眉にかかる程のボサボサとした髪と、つるが青いフレームレス眼鏡が特徴の、九条響亮は、この状況に一種の興奮すら……否、歓喜すら覚えていた。技術がどれだけ発展しようと、創作物のようなVR技術は生まれず、退屈な日々を送っていた。だがそれが今、大きく覆された。
 しかもその舞台はゲームで描かれるようなファンタジーな世界ではなく見知った日本の、見知った地元の土地である。ARを凌駕する完全なリアルがファンタジー空間と化したのだ。響亮はその事実に興奮していた。

「なぁ、工藤。この状況下で、お前は何を考える?」

 教室では多くの女子が未だに怯えた表情をしている。今しがた教室を出た千夏や理紗はある種の例外であると言って過言ではない。
「転入生の言ったクリアという言葉が真実なら、それを目指すのが妥当だと思う。ただ、戦力が圧倒的に不足している。もともと、男子の少ないクラスというのが弱点となったな」
「そうか。お前らしいな。俺は……ワクワクしてしょうがねぇ。なぁおい……、あの影って、敵じゃないか?」
「本当だ!」

 話し込んでいた二人が、屋上で舞斗達が捕捉した敵影を察知した。

「敵襲!! 戦う意志がある者は……ベランダから飛び降りて戦闘開始だ!!」

 響亮が声を張り上げると、真っ先に反応したのは月翔だった。それに続いたのは剣道部部長、石宮正人、さらに同じく剣道部の林原戒政。正人は刀が納まった鞘を持っている生真面目そうな男子生徒。戒政は長刀と小太刀を持つ、制服を着崩した男子生徒。
 さらには片手剣を構えた宗平や政成の他にも、自らの拳で戦う決意をした者、大剣を担ぎ戦場へ向かう者。最終的には、教室内にいた大半の男子が校庭へと向かうこととなった。

「本条さんと平田さんは余程集中して戦っているようだね」

 教室内に残った砦人が、そう呟く。

「そうだね。それじゃ、俺も行ってくる。ようやく武器も決まったしな」

 そう言って響亮は武器である棍を掲げた。武器としては王道とは言えないかもしれないが、不思議と響亮にはこれこそが自分の武器だとはっきり見えたのだ」

「工藤、援護任せるぜ。委員長、宮原、参謀として頑張ってくれ!」
「おい、話を勝手に―――」

 砦人は、棍を持って飛び降りようとする響亮に言葉をかけようとして止めた。自分の役割を考え、今は彼らの戦いに注視する。

「……参謀、ね。謀は苦手分野なんだがな……」

 そっと呟かれた彼の声は、勢いよく開かれた教室の戸にかき消された。
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