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テスタメント オブ ザ ネクロマンサー

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 深呼吸の後、若きネクロマンサーは……一人の少女として口を開いた。

「我……いや、私はな。人とどう接していいか分からなくて、アニメや漫画にのめり込むようになった。そうしている内に、自分の中に自分でない人格……とまではいかないが、キャラクターを演じることで何とかしようとした。ネクロマンサーを選んだのは、単純に格好良かったから。マスターはどうして、神を宿したんだい?」

 ほとんど同じことだと前置きした上で、世音も本当の自分打ち明けた。

「世音も人と話すのが苦手で、それだけなら良かったんだけど……些細な理由からいじめられて。家に引き籠もるようになっちゃった。それで、家にいてもすることがなくて……兄が見ていた深夜アニメの録画を漁るようになったの。そしたら、ちょっとえっちだけど強い主人公が世界を救ったり、平凡な女の子が急に世界の命運を背負ったり、自分とは全然違う世界が広がってた。だから世音も、何者でもない自分になりたいって思った。変わりたいって思った。それから、自分をいじめた人やそれを見て見ぬ振りをする人たちとは違う正義の力が自分にはあるって、思うようになって……」

 全知全能の神と荒ぶる神、それは荒ぶるだけではない理性を欲したから。そして。

「二刀流のお姫様がバッサバッサと魔物を倒していくアニメが好きで、そこに憧れて……対になるものっていいなぁって……」

 対、そうか。きっと世音が求めていたのは……荒神世音っていう一個人と双神の巫女っていう自分のもう一面、その一対を認めて受け入れてくれる人なのかも知れない。そしてもしかしたら先輩も、長浜琴子っていう一個人とアルケー・ツィターというもう一面をどっちも認めてくれる人を探していたのかも知れない。

「アニメの……厨二の力で立ち直った世音はね、アニメみたいだからっていう理由で星花を受験したの。確かに、同じ小学校の人たちと同じ中学に進むのもイヤだったけど。それで、星花で初めて自己紹介した時、誰も世音のことを否定したり無視したりしなかった。それが嬉しくて……そして出逢ったの。櫻井莉那先輩に」
「そうか、前風紀委員長の。あの人も私のことを理解してくれた。時折、私に注目が集まらないように上手く他の風紀委員を誘導してくれたこともあったっけ」

 なるほど。正直に言えば去年の世音は莉那先輩ばかりを見ていたから……だから一年もの間、目の前の彼女に気づけなかったのかもしれない。もっと早く気づいていたら、どうだったんだろう。

「もう一つの質問にも答えないとね。勝負を挑んだのは、勝って君を自分のものにしたかったから。最初に会ったあの瞬間、君なら……世音なら私の全てを受け入れてくれるかもしれないって思った」

 やっぱり、あの瞬間は運命だったんだ。あの時感じた何かは決して間違っていなかった。それが少しだけ誇らしい。けれど先輩を見ると、少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「世音なら受け入れてくれる、そう思ったから……友達になりたいなって考えるようになった。でも、真正面からそう伝えて……拒まれたらどうしようって悪い方に考えちゃって……」
「それで勝負を挑んできたんですね」
「あぁ。その……迷惑だったか?」

 しょぼくれた表情に上目遣い、もし無自覚だとしたら……いやわざとだとしても人が悪い。床に直置きだったリバーシのボードをどけて、先輩の――琴子先輩の肩をとんと押す。真上から見つめられ、目線を泳がせる先輩が可愛く思えた。その表情は、あの自信満々なネクロマンサーと同一人物には到底思えない。

「迷惑なんかじゃありませんよ。先輩とカードゲームして、先輩とマリンカートして、先輩とボードゲームして……世音はすっごく楽しかったです。菊花寮生だからっていうのもあるけど、不意に一人になる時間……寂しくて。でも先輩と過ごす時間は後から思い出しても寂しさをかき消してくれるんです。だから……その、荒神世音は長浜琴子先輩に……恋、してます」

 先輩の顔が紅潮しているのが分かる。そしてこれは……だめ押しの一言。

「双神の巫女としてアビスのネクロマンサーに命じる。余の……伴侶に、なれ……」
「あ、あぁ。深淵の果ての果てまで側にいることを、お約束しよう……」

 嬉しさのあまり、身体の力が抜けてしまう。腕が身体を支えられなくなり……。

「んぐ!?」
「……痛ぅ」

 初めての接吻は血の味がした。けれどこれは、血の契約。きっとそれは、余とネクロマンサーの在り方として正しいのだろう。
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