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グリーディフラグメント

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 ティータイムの後にコーヒーまで頂いてしまった。それから何故か先輩のお父さんに誘われ、三人でマリンカートを遊んだ。レースのみならずミニゲームまでがっつりやりこんでいる先輩のお父さんに、余もネクロマンサーも敗北を喫するのだった。コントローラーを置き、気を緩めると余のお腹がきゅるると啼いた。お昼が軽食だったこともあり、すっかりお腹が空いてしまったのだ。

「おや……そうか、こんな時間か」

 会話していても若さに溢れる先輩のお父さんが、時計を見やる。既に日が暮れてしまい、夕食時といってもいい時間になってしまっていた。

「そうだ、世音ちゃん? 泊まっていってはどう? ね? そうしましょう? 幸い琴子とほとんど背丈も一緒だし、お着替えはこちらで用意するから? お願い? 娘の友達を家に泊めるのが夢だったよのぉ。ご飯もご馳走するから。ね?」

 グイグイとくる先輩のお母さんに、余は断るという選択肢を完全に失ってしまった上に、先輩をちらちらと見ても何も助け船は出してくれないという状況だ。余は完全に城に心理的に囚われてしまったのだ。中座して寮に連絡を入れる。いっそ却下してくれても良かったのだけれど、許可は下りた。

「大丈夫みたいです……」
「良かったわ。そうそう、先にお風呂をどうぞ。琴子と一緒に入るといいわ。ね? すぐに沸くから、琴子の着替えを貸してあげて。まだ下ろしてない新品、あるでしょう?」
「う、うん……。いこっか」

 先輩に促されるままリビングを後にし、二階にある先輩の私室に案内された。一歩足を踏み入れればそこはカオスなフィールド……というわけでもなかった。リビングと同じくシンプルでお洒落な内装に、勉強机や大きな本棚、それからベッドという家具類。

「これ、使ってないやつだから」

 ベッド下の収納から取り出したのは、市内北部にあるスターパレスショッピングモールに入ってるテナントの一つであるピーチフィールの袋。ごそごそと取り出されたのは一組の下着。

「けっこう可愛いの着けてるんですね」
「何も言うな」

 恥ずかしそうなので余は素直に話題を変えた。それは聞きそびれた大事なこと。

「この三本勝負、勝ったらどうなるというのだ?」

 突然叩きつけられた挑戦状に、断るという選択肢は無く……素直に受け入れてしまったが、この勝負の先に何があるのか分からないのだ。

「この勝負、負けた方は勝った方に隷属する」
「なに!?」
「その身を全て捧げるんだ。最終戦は今夜、この場で行うとしようか」

 全てを捧げる……夜の勝負……脳裏に風紀委員としてはあってはならない痴態が浮かぶ。以前、スカーレット・プリンセス火蔵宮子が校内で逢瀬をしている現場に踏み込んでしまったことがある。ああいった行為を……余と、ネクロマンサーが。

「我はだな、お前を欲している。だから次の勝負に勝って、イーブンに持ち越し……延長戦を行う。ふむ、風呂が沸いたな。行くぞ」

 先輩が、世音を欲している? その言葉の意味を理解できないまま……お互い口数少なくお風呂の時間を過ごした。落ち着く匂いの入浴剤が、きっと頭の働きを抑えていたせいだ。だから、あの言葉の真意も、先輩のことも……分からない。
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