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 二年生になって一週間ほどが経過し、やっと自分も二年生なんだとやっと自覚する。もっとも、その自覚も教室を間違えなくなった程度のものからくるのだが。
 強いて付け加えるのであれば、受験勉強をそろそろしないとならないと自覚したせいでもあった。まぁ、私は地味な部類の人間だから勉強くらいしか取り柄はないのだけど……。その唯一の取柄のおかげで、寮は菊花寮に所属しているのだから、頑張った甲斐はあるだろう。ここ、星花女子学園には二種類の寮がある。普通の生徒が入る二人部屋の桜花寮と、部活が学業で好成績な生徒が入れる一人部屋の菊花寮だ。
 ……ルームメイトのいない一人部屋生活だから友達ができないのだと言われてしまうと返す言葉がないのだが。
 なんて考え事しながら私はうっかり出そうになった欠伸を噛み殺しながらなんとか黒板の方に顔を向ける。四限目の国語は担任の相馬先生が担当だ。先生が黒板に文字を書き、それを説明する。ひたすらそんな作業を見ながら私は黙々とノートに黒板の文字を写していった。
 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、私は席を立った。いつものように旧校舎裏のベンチに向かう。こうして人気のないところに直行するから友達ができないのだ。いや、いるにはいるんだけど……クラスにいないだけなのだ。他のクラスに突入するのも勇気がいるし。きっと友達だってそっちのクラスでそれなりにコミュニティを形成しているだろうし。

「梅雨になったらどうしよう……」

 まだ四月だから考えるには少し早いかもしれないけれど、雨が降ったら外のベンチでお昼というわけにはいかない。幸い、まだ平日に雨っていう日がないが、梅雨入り前でも雨は普通に降る。悩ましい……。

「おーい、やっぱりここにいた」

 ベンチでお弁当を食べ始めると花井さんが遠くから駆け寄ってきた。

「は、花井さん? どうしてここに」
「いやぁ、ゆきと一緒にお昼食べたくてさ」

 花井さんは大きめのお弁当箱を取り出して、包みを開ける。ごはんに玉子焼き、タコさんウインナーやミニトマト、ブロッコリーと彩りやバランスにこだわってそうなお弁当だ。

「えっと、お友達はいいの?」
「おう、ブッキーもミサも昔馴染みだからな。今はゆきと仲良くしたいんだ。あと、美月でいいよ」

 目を真っすぐ見て仲良くしたいなんて言われるの、初めてかもしれない。ヲタクに優しいギャル……?? いや、私そこまでヲタクじゃないけど。

「み、美月……さん」
「おう、それでいいや」

 そのあけすけでざっくばらんとした感じがお姉ちゃんって感じで、一人っ子としては憧れてしまう。同級生相手に姉を求めてしまうのはさすがにどうかと思うけれど。

「美月さんのお弁当、すごいですね。品数も多いですし、色のバランスも取れてて」
「あぁ……ほら、うちは冷凍食品を使うから。めっちゃすげえ人は使わないかもしれないけどさ、時短とコスパ考えたら普通に冷食使うっしょ」

 割り切っている部分も大人っぽくて素敵だと思ってしまう。

「ゆき、寮生だっけ? 寮生でも弁当作るんだな」
「あ、はい。寮のキッチンでお弁当作る人けっこういて。たまにおかずのおすそ分けもしてもらえるので……」

 そんな話をしつつ、お昼の時間はおだやかにすぎていった。
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